せんぱいがこくはく

リョウゴ

せんぱいがこくはく



「──あと一時間で世界が滅びるかもしれない」


 屋上に呼び出された俺が、そこに辿り着くと同時。夕暮れの景色を背後に、先輩は神妙な顔でそう言い放った。


「え、どういうこと………………ですか?」


 俺は、下駄箱に入っていた手紙を読んでここにきた。そうしたらひとつ上の先輩からの突然の告白である。あまりの事に、先輩が先輩であることを忘れて一応程度の敬語すら忘れるところだった。


 ──世界が滅ぶ。


 なるほど……いやどういうことだ???


 高校一年生男子の思考からは全くこの展開は読めなかった。先輩、熱でもあるのかな? でも顔に真面目って書いてあるレベルで真剣な評定してるね。


 うん。帰るか。


 俺はそう思って屋上の入り口から入ってきた時の動きを逆再生するかのように歩き出す。


「どこ行くの? まだ話は終わってないよ?」


 先輩が駆け寄ってきた。ふわりと、柑橘類のいい匂いが鼻腔を擽る。慣れない匂いに俺はまた一歩後退る。


 しかし、先輩はあろうことか、下がる俺の手を両手で包むように握り、見つめてきた。


「もしかして、信じてくれないの?」


「ソンナコトアルワケナイジャナイデスカ」


「わあ即答ありがとう。信じてくれるか不安だったんだよね……」


 いや最初から信じてましたよ? ええ、先輩の手が柔らかいとかすべすべだとかもちもちだとか、 上目遣い可愛いだとか顔良過ぎだとか何よりこの近さ的に巨乳がよく見えて眼福だとか全く考えてないからね?


 で、何の話ですっけ?


「あと一時間で世界が滅ぶかもしれないの」


 そうでした。へー。世界が滅ぶ。


「で、何の話です?」


「世界が滅ぶのっ!!」


 やっぱり同じ事を言っている。先輩は美人だなぁ。これで来期生徒会長最有力候補って言うんだから我が校は安泰ですね。安泰です?


 いや、いやいや。待って欲しい。え、高二にもなって中二病ですか先輩?? 世界が滅びる? 何ですか自分がネオライトニングシャイニング皇帝(勇者)になって魔王討伐する妄想ならもう一年も前に女の子に『キモい』って振られて卒業しましたよ。いや俺の話はどうでもいい。


 先輩が、中二病……? 少なくとも包帯ぐるぐる巻きにしてたり、目が疼くとかの奇行の片鱗すらない先輩が中二病か……。


 考えにくいな……。


「ど、どういうことですか?」


 大真面目に言っている風である。どういう背景があるにしたって、取り敢えず聞いてから判断したって遅くはない。


 俺は気遣いの出来る男だからね。先輩が困ってる時助けられるなら助けたいし。


「あと一時間で世界が滅ぶの」


「いや、それは聞きました。なんで滅ぶのかを聞きたいんですけど」


「それは……言えないの」


 しゅん、と目線を落とし、申し訳なさそうに先輩が言った。悪いことを言ってしまったのか、俺が僅かに罪悪感を感じて口を噤んだ。


「でも、それでも君ならやってくれると思って!」


 ちょっと待ってそれ俺が事情を知らなくても行動するイエスマンみたいな扱いを受けてない? 生徒会でもよくやってるけど本当は雑用押し付けられるの嫌なんですけど??


 しかし俺がそんなことを考えてるとはつゆとも知らない先輩は、握ったままの手を胸元にもっていき、また上目遣いで俺を見た。


「だめ、かな?」


 そんなの効くわけないじゃないですか、事情も知らずに何をやらせるつもりですかおっぱい当たってる柔らか……………ッ!!!?


「だ、大丈夫に決まってるじゃないですかー! 俺を誰だと思ってるんですか? なんでも任せてくださいよ!!」


「っっ! ありがとう!!」


 俺の手を持ち上げてぴょいんと跳ねて喜ぶ先輩のおっぱいが手から離れてしまった。跳ねるのと遅れて揺れるおっぱい。


 いい………………────っは!? 待って俺いま何を!?


 手放しに喜ぶ先輩を見ていたら、まあ、どうでもいいかと言う気がしてこない訳でもないが何をさせられるのかと言うのはちゃんと聞かねばならない。


 まあ、死ぬような話じゃなければ大丈夫──


「出て来ていいよ! 良かったね、キューちゃん!」


 そう言われて、屋上側からやって来たのはゴリラだった。そいつは俺の肩を掴んでやたらかわいい声で矢継ぎ早に言うのだ。


「君が魔法少女になってくれるんだね!! 最近は何の風評被害かめっきり断られるようになって大変だったんだよ! 確かに危険だけど聞かれれば全部正直に話すし、ちゃんと保証もあるよ! 次の夢獣が出るまでもう時間はないよ! じゃあ早速行こっか!!」


 ────は?


 先輩を見たら笑顔で手を振っていた。


 は、


「嵌めたな先輩ぃ!!!?」


「はっはっはっ、契約成立ぅ! ありがとね!!」


 俺とゴリラの言葉に、先輩はやっぱり笑っていた。

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