【短編】ヤキニク・オンライン

宜野座

ヤキニク・オンライン

『日常系VR焼き肉ゲーム、ヤキニク・オンライン。ついに正式サービス開始』


 オンラインゲームは当初、RPGやシューティングなどのゲームが中心だった。仲間と共に敵に立ち向かったり、あるいはプレイヤー同士で戦ったり。ゲームを通じて人と繋がる楽しみは、時代の進歩に合わせて世界中へ広がっていった。

 そして21世紀も折り返しにさしかかった頃。ついにVR技術が現実の物となり、それを取り入れたオンラインゲームが少しずつ世に出てくるようになった。

 やはり人気だったのはRPGやシューティングだ。

 圧倒的なリアリティによる仮想世界での体験。その魅力は多数の中毒者を生み出し、世界経済に影響を与えるほどだった。

 そんな時代の中である日、異端児ともいえるVRゲームが発表された。


 その名は『ヤキニク・オンライン』。


 日本のとある企業が発表したそのゲームは、フルダイブシステムによる完全なVR空間上での焼き肉が楽しめるというコンセプトだったが、そのマニアックさにあらゆる国から嘲笑を買った。


『ただ焼き肉をするだけのゲームだって? 理解不能だ』

『オンラインにする必要性は?』

『クレイジーな企業が現れた』

など、散々な言われよう。


 だがヤキニク・オンラインは、その「焼き肉」という行為を徹底的に作り込んでいた。

 VR空間で肉を焼くと、焼きスキルが上がる。それによって焼き加減を微調整することができるようになったり、焼ける肉の種類が増えていく。

 味も現実世界と全く判別がつかないほどに再現され、スキルさえ上がればいつでも最上級の肉を焼いて味わうことができる。

 もちろん仮想空間での食事なので食べ過ぎによる体への影響は一切ない。

 さらに仲間たちと集まってグループを組み、VR焼き肉会を楽しむこともできる。


 初めは世間の冷たい風当たりを受けた『ヤキニク・オンライン』だが、少しずつその魅力が伝わっていき、今ではなんとビジネス界の接待にも利用されているという。

 ちなみになぜ焼き肉だったのか。もつ鍋ではダメだったのか。以下は開発者のインタビュー記事の一部だ。


『まあ正直何でも良かったんです。ただ僕が焼き肉好きだったからこれになっただけで。もつ鍋は今から検討しときます』


 これからはVR食事の時代だ。 

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