第3話 全然仲良くなれないんだけど!

 私はいったん作戦を練り直すために自室へと戻ってきた。

 エディがこんなに早く養子にやってくるだなんて予定していなかったわ。

 とにかく、すでに養子に入ってしまったのだから、死刑にならないためにも仲良くするしかない。



 でも、どうやって仲良くなればいいのかしら……と考えていると。

 メイドがいつものように私の部屋におやつを持ってきてくれたのだ。


 ふっくらときつね色に焼けたパイからは、ふんわりと甘い香りがする。

 メイドがナイフを入れると、ザクザクといい音をたてて切れていくし、中からはベリー系の赤色のソースがトロッとこぼれた。

 これだわ!


 そう思った私は意気揚々とエディの下にさっそく向かった。

「エディ、ごきげんよう。お茶を一緒にしません? おいしいパイが今日のおやつなのよ」

「ごきげんよう、リリー。せっかくのお誘いですが……公爵邸に到着したばかりでいろいろしなければならないことがあるので……本日は遠慮させてください」

「そう、また誘うわね」

 確かに……今日は引っ越ししてきたわけだから忙しくて当然だわと思って次の日。

 ふんわりと焼けた紅茶のシフォンケーキ。たっぷりの生クリームを添えてとともに意気揚々とやってきたのだけれど、またも断られてしまった。



 次の日も、その次の日も……これは、明らかに故意的に断られていると私はようやく悟った。

 子供って甘いもの好きだと思ったのに、甘い物で釣る作戦は失敗……いや、もしかしたら甘いものがダメなだけなのかもと、今度はしょっぱいものを準備してもらったけれど、結果は同じだった。

 なら、おもちゃはどうかしら? オセロやトランプ、本なんかを一緒に遊ぼうともっていったりしたのだけれど、これまたやんわりと拒否された。



 私がドアをノックすれば、扉は開かれエディは必ず姿を見せる。

 しかし、彼の答えはオブラートに包まれたノー。

 もう、どうしたらいいのよ。会わなきゃ仲良くなれないじゃない。

 それとも乙女ゲームみたく、結果としては報われていなくても会う回数を重ねればとりあえずOKなの?



 そんな風に結果が出ず焦るけれど、他にどうしていいかわからなくて、とりあえず会いに行く日々が続いていた。

 けれど、それは突然終わりを告げた。

「リリー、いつも誘いに来てくれてありがとう。だけど、僕は覚えることが沢山あって、当分時間はつくれそうにないんです。ごめんなさい」

 やんわりとした感じだけれど、内容ははっきりとした拒絶だった。

「そう、気にしないで頂戴」

 そう言って退いたものの、会いに来るなと言われたも同然で私は手詰まりになってしまった。



 どうしてよ、おかしいじゃない。

 普通はこういうのは私が歩み寄ったら、シナリオが変わるものなんじゃないの。

 このままじゃダメだ。



 だけど、他にどうしたらいいのかわからない。

 ご飯は一緒に食べるけれど、会話を楽しむようなことはなく、食事を終えたらさっさと下がってしまうし。

 メイド達も、わがままだったかつての私のことをよく思っていないのか、私がエディに袖にされているのを、はっきりと私に言ってこないけれど、子供にはわからない言いまわして馬鹿にしているし。



 予定では、予定では予定では……と私の頭の中には予定だったらこうなっていたのにがぐるぐると回る。

 もしかして、最初のやり取りを失敗した? でもそんな明らかな失言は絶対にしていないはず。

 もっといろいろ考えたいのに、公爵令嬢の私はエディ同様、講師が付いていてマナーやダンス、勉強はもちろんのこと、歴史まで教わるので、とにかく日々の時間が足りない。

 そんな状況で、ついにルーク王子との縁談を進める話が出てきてしまった。




 メイドが下がった部屋で私はぬいぐるみを壁に投げつけた。

「ちっとも、予定通りにいかないじゃないの」

 ぬいぐるみに当たってもどうにもならないことはわかっているけれど、本来のリリーの気性の荒さが焦りのせいで抑えられない。

 エディの養子縁組は避けることはできなかったし、ちっとも仲良くなれない。

 このままじゃルークとの縁談も簡単に決まってしまうかも。



 私の頭の中に死刑の文字がちらついた。



 

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悪役令嬢断罪回避失敗!? 四宮あか @xoxo817

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