深夜の電車で……

天内 飴

ASMR

「あれ? 帰りに会うのは初めてだね。隣いい? ありがとう。大学長引いちゃったの?

ふーん、そうなんだ。レポートが終わんなくて、図書館に。私も結構苦労した記憶あるなあ。


えっ、帰ってからもやるの? 大変だね。あっコーヒー余ってるけど飲む? このコーヒーはちょっと特別で疲れているときにはぴったりなんだ。大丈夫大丈夫。別に危ないものじゃないから


わたし? 私はね、今日も残業。まあいつものことだよ。人少ないから。君が入ってくれたら楽しいんだけどなあ。


ん? あっそのボールペン。私のだったんだ、ありがと。先週の朝落としたからなくしちゃったと思ったんだ君が持っててくれたんだ。


ねえ、朝とは違って流石にこの時間じゃ人も乗ってこないね。私たちしかいないもん


私がまだ大学にいた時のこと覚えてる?


学部は違ったけどよく一緒に食べてたよね。今みたいに隣に座って学食だから騒げなくてコッソリ耳を近づけて『こんなふうに』


あっ、ちょっと顔赤くなった? 最近全然やらなかったから油断したなあ、このこのー可愛いー


もう絡む機会もなくなっちゃったしね、毎朝あってるの以外だとサークルの飲み会が最後だよね?


昔はサークルに女が私一人しかいなかったからずっと独り占めで消えたのに最後の年は後輩が入ってきちゃってさ、君がその後輩の指導任されちゃうから、構ってくれなくて寂しかったんだよ。まあ、あの頃は私も終活で忙しかったけどさ。


どう?まだ学校は楽しい? へえーそっかあ あの娘と付き合い始めたんだ。 ふーん、おめでとう。じゃあ私の判断正しかったみたいだね


彼女とはどこまで行ったの? 手はつないだ? キスはした? その先は?

ああ、まだキスだけなんだ。ん? 別に気にしてないから慌てなくて大丈夫だよ。


あれれ、だんだん眠くなってきたかな? アイマスク使う? はいどーぞ。


フフフ、いい匂いするでしょ。ほらもっともっと吸ってね。


ちょっと口塞いじゃうね。えっ苦しいって? じゃあもっと呼吸しないと。


ほら、だんだん何も考えられなくなってきたでしょ? しかしも塞がれてるから感覚が鋭敏になっていく。


どんどん声が溶け込んでって気持ちよくなって私のことしか考えられなくなる。


(耳舐め?)


あーいい顔。その蕩けた顔がすごい好き。いいんだよ馬鹿になっちゃって。


(手錠のかける音)


何って手錠をかけただけだよ。君がいなくなると嫌だから。


どうしてこんな事って? もう。実はね、本当は全部知ってたんだ。このボールペンはGPSがついてて君がどこにいるかわかるんだ


(耳舐め?)


ほら、気持ちいでしょう? 隠してるつもりでも身体は正直だね。彼女はこんなことしてくれないんだ


ねえ、私と一緒になろうよ。あなたの面倒はずっと私が見ててあげるから。


あっ、終点についたよ。ようやく捕まえたんだ。もう、離さないから。ずっとずっと一緒だよ。

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