第40話 火

「友人に、タバコをやめるよう勧めたんですよ。Aさんって名前でね。ずっとタバコを吸っている人なんだけどさ」


 そう言って、彼は語ってくれた。


  ✽


 そのAさんがさ、最近変なことがよくおきるって言っててね。なんでも、消火栓の看板が落ちてたり、禁煙の貼紙が剥がれたりみたいなことがおきるんだって。

 全部、火に関わるものなんだってさ。

 信じられるかい? 私、こういった類のことは、大概偶然だと思ってるんですよ。あとは……確証バイアス的なものでしょう。

 だからほとんど信じてなかったんだけどね……。


  ✽


「……なにがあったんですか?」

 そう私が尋ねると、嘘じゃないんですと前置きして、彼は話を続けた。


「この話をしている間、Aさんずっと灰皿でタバコの火を消そうとしてたんです。火なんて、すぐ消えるはずなんですけど。なんか嫌な予感がするんです……」


 それでも、Aさんはタバコをやめないらしい。

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