第39話 まわる

「あの廃墟の周りには、絶対近づいちゃいけないって言われてました」

 Tさんは、懐かしそうに語ってくれた。


     ✻


 あの廃墟の家自体にも、いくつか怪談話はあるんです。でも、本当に怖いのは廃墟じゃないんですよ。

 日が落ちて、あたりが暗くなる時間帯です。毎日、違う会社のタクシーが来るんですよ。廃墟の周りをぐるぐるまわって、夜明けまで客を探してるんです。

 意味がわからないでしょ? 私も含め、皆そうでした。


 友人が、そのぐるぐるしているタクシーに乗った客を見たそうです。それだけじゃない。数日後に、その客であろうという人と、タクシーの運転手が行方不明になっていることがわかったらしいんです。


     ✻


「……つまり、何が言いたいんです?」

 私がそう聞き返すと、Tさんは小声で話を続けた。

「私、そのタクシーが廃墟の駐車場に置いてあるの見たんですよ……。……多分、廃墟が生贄を呼び込んでいたんじゃ……」

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