第35話 通行人

「あのお惣菜屋さんの奥さんが、亡くなったらしいぞ」

「あんなに元気だったのにねえ」

 そんな会話を両親がしていた。

 お惣菜屋さん? あ、そういえば……。

 私はゆっくりと両親の方を向き、話を切り出した。


        ✻


 私の友人の話なんだけどね。

 学校から帰る道に、丁度お惣菜屋さんがあるじゃんか。あそこを通るたびに、絶対に足を止めるの。


「毎回どしたの?」

 そう聞いたらね、「聞こえないの?」だって。


 友人曰く、数字が聞こえるんだって。通るたびに、100、91、70みたいに不規則な数字を一つだけ言うらしいの。

 ただ、確実に数字は減ってるみたいで……。

 昨日は「3」って聞こえたらしいんだけど。


        ✻


「なんだ、その気持ち悪い話」

 両親は、怪訝な表情をしてこちらを見る。


「でね……、あんまり言いたくないんだけど……」

 少し迷って、切り出す。

「この家の前でも聞こえるんだって……」


「昨日の時点でね……」


「5だって……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る