第33話 影

「……ああ、ごめんごめん。最近疲れてて。それで怖い話だって? そうだな……」


 Bさんはコーヒーを注文すると、徐ろに語り始めた。


     ✻


 疲れてるって言っても、別に残業してるってわけじゃあないんだよ。体調が優れないだけで。

 夕方には帰路につけるし、こうやって友人と会うくらいにはゆとりがあるんだから。

 ただ、最近目の調子が悪いのか、影が動いて見えるんだよ。電灯とか自転車とか。ゆらゆら揺れたり、ボロボロ崩れたり変な幻覚なんだけど……。

 で、次の日にちょっとした変化が起こるわけ。電灯が撤去されたり、自転車が壊れてたり。

 これって怖い話になるかな? 気のせい? まあ、そんなとこ。


     ✻


 話が終わると、Bさんはコーヒーの代金を机に置き、「じゃ」と言って店を去った。


 残りのコーヒーを口に含もうと、テーブルに目を戻す。

 彼の影は残ったままだった。

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