第14話 つめ

「私、爪伸ばしてるわけじゃないんですよ」

 爪を弄りながら、彼女は話してくれた。


 夏の真っ只中、彼女は実家の畳の部屋で、窓を網戸にして昼寝をしていた。

 山が近かったので、虫が入ってくることもしばしばあったが、特に気にするような質でもなかった。

 お昼をまわった頃だろうか。パチパチと小枝を踏みしめる音が聞こえたという。

 いつもこの時間には必ず聞こえる音で、特に気にもしていなかったが、その日だけはその音に注意を向けてみた。

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ。

 十回。なんだかきりのいい数字だと感じた。音の正体を確かめようと体を起こすと、網戸を少しだけ開けてみたという。

 爪。網戸のサッシに大量の爪があった。

 今まで聞こえていた小枝を踏みしめる音は爪を切る音だった。

 それに気づいてから、爪を切る音がちょっとしたトラウマらしい。


「人でもおばけでも気持ち悪いですよね」

 そう言って、彼女は震える手で爪切りを持った。

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