第11話 おいていく

「憑いている客はすぐわかる」

 喫茶店の店員は、そう言ってコーヒーを出してくれた。


「氷の割れる音ですよ」

 入店時に聞こえるらしい。氷の入った冷たいグラスに、飲み物を注いだときのあの音が。

「お客さんの飲み物じゃないんですか?」

 私の質問に店員は少し笑って答えた。

「この店、お客さん殆ど来ないんです」


 帰り際、窓から覗いた店内は薄く霧がかっていた。その間からは誰かの目が見え隠れする。

 お客さんが憑いているものを置いていったせいで、他のお客さんが来ないのか。それとも、憑いている人だけを引き寄せるのか。

 その存在に気付ききれていない店員に、これ以上は話すまい。


 来るときよりも確実に肩は軽かった。

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