第3話 うしろ

 雨の日は必ずビルの上を見る癖があるという。

「大した話じゃないんですよ」

 そう言ってEさんは話をしてくれた。



「ビルの窓から顔を出すとね、地面に吸い込まれると云うか……」


 伏せ目がちに話を続ける。


「人間なんて所詮小心なもんで、ちょっと高い場所に行くとすぐ地面が恋しくなる」


「でもね、あの人はそうじゃなかった……」


 Eさんは確かに震えていた。


「窓から上半身を乗り出すでしょ? そうすると窓の上半分が空を映すんですよ」


「誰かが逆さに落ちてきたんです。その肩と首のあたりに、覗き込んでいた人の頭があたってね」


 連れて行かれるように二人共おちていったという。


「死体は一つだけでしたよ。ええ」



 未だにEさんは上から落ちてきたあの人が誰かを探している。

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