恋人をたがえるとは・・・
藤臣は葵の頭をぽんぽんと撫でると意地悪く笑った
「ところで、彼は?」
藤臣の視線の先で居心地悪そうに立っているのは柊哉だ
「あ、えーと、城田柊哉と申します。」
柊哉は頭を下げて気まずそうに目を泳がしている
「藤臣です。君は葵とどういうご関係で?」
使っている言葉は丁寧で目も笑っているのにどこか冷たく、腹の中の黒々しいものを感じる
「あのー、葵・・・さんを、拾いまして、一緒に住ん・・いや、あぁっと、ええと、お友達です。」
柊哉は藤臣の地雷を踏まないようにと言葉選びに必死である
「一緒に、なに?」
「どう・・・きょっ」
最後の「居」は聞き取れるか聞き取れないか、早く短く、そして愛想笑いを浮かべてどうにかやり過ごそうとしている
「はい⁉」
藤臣の視線は柊哉に細く鋭く刺しこみ、どうにか張り付けていた愛想笑いもすでにはがれかけている
「いやぁ、これには、わけがございまして、あの、間違えたというか。ねぇ、その、俺と藤臣さんを間違えて、起きてしまって、ですね。」
挙動が不審である
手や腕をを大きく動かし、目線は大海を泳ぎ回っているマグロのように俊敏に右へ左へと旋回する
「間違えた?葵が?わたしとあなたとをですか。」
今度は葵がばつの悪そうな顔をする番だった
柊哉はしまったと思ったが言ってしまった言葉はもう引っ込まない
葵は藤臣がどす黒いオーラがふわぁと纏っているのを見てたじろぐ
「へぇぇ、あんなに好きだって言ってくれたのにねぇ、葵は、好きな人を間違えるんだね。そうか、ふぅん、そう、よくわかった。うん、わかったよ。そういうことだね。」
葵は藤臣の腕の中で逃げ場を失くしておろおろ首を振るばかりである
「ちがっ、違うのだ、藤臣。」
葵は柊哉のほうへ
「馬鹿者‼言うて良いことと悪いことがあろう!」
と叫ぶ
柊哉は頭の前で手を合わせて「ごめんなさい」のポーズをとった
「で、一緒に住んでるのかい。」
藤臣の声にすごみが出てきている
葵は肯定も否定もできず、ただただ身を固くして「うぅ・・・」とうなった
柊哉がそれに
「でも、ほんとに一緒に住んでるってだけで、ほんとに、なにもないです。飯は一緒に食ったりするけど、風呂も別だし、寝具も別です。」
助け船のつもりだったが
「当たり前です!」
藤臣の言葉は落雷さながらに柊哉を打った
今度は座った目で葵を見る
「葵さん。知らない人についていってはいけないよとわたしは言いませんでしたか?」
「はい、言いました。」
葵は申し訳なさそうに視線を下げる
「わたし以外の男と一緒に住むなんて許しません。と、言いたいところですが。」
藤臣は言葉を切った
ひとつため息をついて続ける
「仕方ありません。もう少しあなたに葵を預けることにします。」
葵も柊哉も驚いて
「え・・・」
と声を上げた
「わたしは葵が人に生まれ変わっていると思ってここに呼んだんですよ。でも違った、1000年前と変わらず花の妖精のままでした。だから、ここにいては危険です。一度人界に戻ってください。」
藤臣は葵の目をしっかりと見て続ける
「絶対すぐに迎えに行くから。もう少しだけ待ってて。ごめんね。」
柊哉が藤臣に尋ねた
「危険ってどういうことですか。せっかく会えたのにまた連れて帰るなんて、そんな。」
藤臣は首を横に振る
「ここで刑期の終わった妖気の強い妖怪が呪縛され封印されています。結界は強く、その中に入ってしまえばわたしでも救い出すことはできない。だから、見つかる前に早く、外へ。」
藤臣は葵の背中を押して出口へと向かわせる
「いやだ。わらわはもう藤臣と離れる気はない。敵がおるのであればすべて灰に変えてやろうぞ。」
葵は強く懇願したが、藤臣は賛同しなかった
押し問答をしていると桜並木の向こう側に人が現れた
人界からの来訪者
柊哉と同じ学校の制服を着た黒い髪の少女ー椿だ
椿は葵と藤臣を見て驚いた顔をした
「先生?なんでそれと一緒にいるの。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます