11 始発電車 始まりの場所
始発電車 始まりの場所
「ばいばい。巴ちゃん」
「夢?」
巴は言う。
巴の目の前で、白鳥夢の姿は光に包まれて消えていこうとしていた。白い二枚の美しい羽根の生えた夢の姿は、その光の中で、巴の前から、……なくなってしまおうとしていた。
「待って、行かないで夢!!」巴は言った。
「私、もう一人ぼっちは嫌なの!! 私を一人にしないで!!」巴は叫んだ。
「大丈夫だよ。巴ちゃん。私は巴ちゃんの前からいなくなったりしないよ」今にも消えそうな夢は言った。
「本当?」巴は言う。
「うん。本当だよ。私はずっと、巴ちゃんの近くにいる。だって『私は巴ちゃんの一番の友達』だから」にっこりと笑って夢は言った。
「……でも、夢。あなたは今、消えようとしている。どこかに、いなくなろうとしている」巴は言う。
「……私は消える。でも、私は消えない。私はずっと、巴ちゃんと一緒だよ」夢はいう。
白鳥夢は最後に、そんな謎かけのような言葉を残して、眩しい光の粒子となって、鷹羽巴の前から、……消えた。
いなくなってしまった。
「……嘘じゃん。夢。やっぱりあなたは消えちゃったじゃん」
ぽろぽろと泣きながら、巴は言った。
巴は溢れ出る涙を両手の制服の裾で拭った。
すると、ふと、あ、切符がない、ということに気がついた。
いつの間にかに、巴のポケットの中に入っていた『天国行きの切符』は、さっきまでぎゅっと握っていたはずの小さな切符は、……いつの間にか、巴の手のひらの中から、なくなっていた。
それと同時に、電車のドアが自然にしまった。
巴は泣きながら、後ろを振り返って、閉まったドア越しに、天国と書かれた無人駅の姿を見た。
(そこには不思議な二人の大人の女性の姿がいつの間にか、あった)
それから、電車はゆっくりと加速をして、発車した。
巴は、そのまま『さっきまで白鳥夢が座っていた席』に、移動してそこにゆっくりと座った。
……帰ろう。
巴は思った。
自分の家に。自分のいるべき場所に、ちゃんと帰ろう。
一人ぼっちになった巴は、泣きながら、真っ暗な夜の中を走る電車の中で一人、泣きながら、そう思った。
がたんごとん。
電車が揺れる。
……そうして巴が泣き止んだころ。
真っ暗な夜が明けて、……世界は朝になった。
世界に昇った、眩しい太陽の日差しが電車の中に差し込んでくる。
電車は次の無人駅に到着した。
電車のドアが自然と開いた。
鷹羽巴は「よいしょっと」と言って電車の席から立ち上がると、歩いて電車から降りて、その駅に降りた。
無人駅の看板には『さようなら』の文字があった。
その駅の看板の文字を見て、「……ばいばい。夢」とにっこりと笑って、鷹羽巴はそう言った。
翼をください 終わり
翼をください(短編) 雨世界 @amesekai
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