後編 あなたと一緒に、いきたかった。
「綺麗に咲いたね」
ゆったりと、もう何年も毎日聞いている優しい声がする。
「そうね。
まぁ、どうせ後で薬にしてしまうから摘むのだけど」
庭に咲いた花々を見て言うスイルにそんな風に返せば、はは、とスイルが笑った。
「現実的だなぁ。
どうせ摘んでしまうなら、摘むまでこの綺麗さを味わった方が得だろう?」
「……そうねぇ」
しん、と一瞬静かになって、スイルが声を出す。
「ヴェルンにお願いがあるんだ」
「なぁに?」
「……俺はもう、長くないんだろうね」
あなたのその言葉に、呼吸が止まりそうになる。
「だから、君の作った最高の毒で俺を殺して欲しいんだ」
そんな悲しそうな微笑みで、あなたは残酷なことを言うのね。
もうしわの増えたあなたの顔を見て、ほんの少しだけ泣きそうになる。
変わらない私の見た目に反して、スイルは随分と老けた。
……仕方がないのでしょうね。
長い長い魔女の寿命と違って人間の寿命は一瞬だもの。
「……えぇ。
最高の物を、作ってあげるわぁ」
まさに最後の晩餐、ってやつね。
食卓にいつもより豪華な食事を並べながら、そんなことを考える。
そしたらスイルを呼んで、
二人揃って「いただきます」を言って、何気ない会話をしながら夕食を食べる。
まるで、いつも通りみたいね。
「ごちそうさま。やっぱり君の作るご飯は最高に美味しいね」
「あら、わかってることをありがとう」
なんて、下らない会話が今はこんなにも愛しい。
あぁ、私、こんなにもあなたを愛しているのね。
こんなにも、こんなにも、あなたとの生が終わるのが苦しいなんて。
「私の最高傑作よ。
今夜は、きっとよく眠れるわ」
「あぁ、いい香りだね。
流石は君の最高傑作だ」
ゆっくりと、眠るように苦しみなく。そんな私の
「ねぇ、最期に教えて?
どうして、私の毒で死にたかったの?」
「ヴェルン、君は1000年以上生きるんだろう?
そしたらいつか、俺のことを忘れるかもしれない。
でもきっと、君自身の手で俺を殺したら君は俺のことを忘れずにいてくれると思って」
……馬鹿ね。本当に、ばか。
「私は絶対にあなたのこと、忘れないわよ。馬鹿ねぇ」
「はは……、俺も、そう思うよ……。
ヴェ、ルン。……愛してる、よ」
最期にそう言って、スイルは深い深い眠りに落ちた。
「私も愛してるわ、スイル」
零れる涙を無視して、机の上の私のグラスに入った
本当に馬鹿ね……。あなたのことを忘れるわけないじゃない。
だってこれから先、あなたのいない日に生きている私はいないもの。
「おやすみなさい、スイル。
一緒に……眠り、ましょう……?」
世界が、まどろんでいく。
まどろんでいく。
私は、あなたと一緒に、生きたかった。
あなたと一緒に、逝きたかった。
あなたと一緒に、いきたかった。 湊賀藁友 @Ichougayowai
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