ヒューマン・ハウジングに足りないもの

ちびまるフォイ

ひとの家なんかじゃ生活できない

絵本の中で「おかしの家」を見た。


壁も屋根も、あらゆる場所がおかしでできている家だった。


それを見て「ひとの家」を作ろうと思った。



「ふぅ、これだけあれば十分かな」



人間で壁も屋根も足元もできた家を作る。


そのために大量の人間の身体を準備してきた。

普通に殺して集めるのではとても間に合わない。


夜中に死体安置所などに侵入して死体を集めてきた。


なんやかんや一番時間がかかったのは防腐処理だった。


「よし、まずは土台からだな」


死体を敷き詰めて「ひとの床」を作る。


安定感を求めるのなら背中を表にするほうがいいが、

それぞれの人間の個性を出したかったので顔側を表にした。

足の裏からも人間でできたこの家を感じることができる。


「次は壁だな」


床は予定通りできあがったので壁を作ろうと死体を集めた。

そこで問題が出た。どうすれば固定できるのか。


「ああ、もう。まいったな……すぐ倒れてしまう」


人間の身体は生きている間は立っているけれど、

死んでしまうととたんに力なく倒れてしまう。


コンクリートなどで固めてしまえば壁を作ることはできる。

でもそれは「ひとの家」と言えるだろうか。


「ダメだ! 人の顔が見れないなら人の家を作る必要がない!!」


この後は壁や屋根を作る必要もある。

いったいどうすればいいのか……。


答えは見つからないまま死体は腐ってしまったので、

壁に使う予定だった人も床の人も廃棄することになった。


防腐処理といえど、雨露がしのげない場所にあれば状態は悪くなる。


「どうすればいいんだろう……」


解決策と次のターゲット探しを行って街を歩いていると、

ふと立ち寄った学校で運動会が行われていた。


そこの騎馬戦や組み体操を見た瞬間に、

まるで頭がなぐられたようなアイデアの刺激を受けた。


「そうだ!! この手があったか!!」


今度は死体を準備してから家を作るのではなく、

生きた人間を連れてきて設計図を考えてから作ることにした。


「離せ! 離しやがれ!」

「お願い、私があなたに何をしたっていうの!?」

「頼むよぉ、家に帰してくれ……」


集めた人間たちが騒ぐので声帯を取り、

筋弛緩剤で動けなくすると設計図にしたがって作業をはじめる。


重さを支える下側にはかっぷくのよい男を配置して上には軽い女を配置する。


足や腕を隣や上の人間と絡み合わせて崩れないように固定する。

固定し終わった人間から殺して身体を固めていく。


筋弛緩剤の効き目がなくなると動いてしまうので作業はすばやく。

でも崩れてしまえば何もかも台無しになるので慎重に。



神経がすり減るような作業が何時間も何時間も続いた。



「ああ、できた……ついに完成だ……!!」



壁も床も屋根も窓も、人で組み上げた「ひとの家」が出来上がった。


人間でできた玄関から部屋にあがると、

ワンルームで拾い家にはいくつもの人間の視線が壁から注がれる。


どこを触っても人間の肉感を感じることができるし、

360度人間で囲まれた我が家は寂しさを感じる隙などなかった。


けれど、違和感が残っていた。


「おかしいな……完璧なはずなのに……なにか足りない気がする……」


最初に考えていた設計図通りの家を作ることができた。

足りない何かを確かめようと、普通の家に不法侵入したところを捕まってしまった。


最初はただの強盗犯として処理されるはずだったが、

のちに人が寄り付かない山中に出来上がった不気味な「ひとの家」の製作者だとわかると、

ろくな裁判も受けずに即牢獄へとぶち込まれた。


必要最低限のものしかない牢獄に入ったのに、幸せそうな顔をしていた。


「おい囚人! お前、なにをニヤニヤしている!!」


「すみません、つい顔がほころんでしまいました。

 看守さんを笑ったわけじゃありませんよ。

 ただ、嬉しかったもので」


「嬉しかった? ここに入ることがか?」


「いえいえ、何が足りなかったのかやっとわかったからです」



やがて、男は死刑台へと送られた。


人を殺し、死んだ人をも使った非道な行為もあり

この男が死ぬ姿を見に遺族や関係者がこぞって見学に集まった。


死刑を担当する看守が準備を終わり、最後の確認をした。


「あのガラスが見えるか? あの向こうに貴様が殺めた遺族が見に来ている。

 最後になにか言い残す言葉はあるか?」


男はにこりと笑った。



「今度は、あの家に家具を作ろうと思うんです」

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