迫り来る脅威!!

「まだよ!!まだエブリシングサマーがいるわ!!」

 風華の叫びで笑いが止まるゴキゴブリン。

「そうか……まだエブリシングサマーがいたなぁ……貴様等、警戒態勢を解くんじゃないぞ!!」

 黒タイツ軍団に檄を飛ばすゴキゴブリン。

「ゴキー!!」 

 黒タイツ軍団は姿勢を正して敬礼した。

「ゴキーって……プッ」

 思わず吹き出してしまうつくし。

「笑っちゃダメよ!ププッ敵さんも必死なんだから!!プププッッッ!!」

  逆に笑いを堪えるのに必死な藤子達だった。翡翠なんか普通に爆笑していた。転げ回って。捕らわれながらも転げ回るとは、流石の身体能力だ。その力を使って普通に逃げればいいんじゃないかとは思うが。

「何が可笑しい!!貴様等は既に捕らえられている事を忘れるな!!」 

 とか言いながらも耳まで真っ赤なゴキゴブリン。自分でも恥ずかしかったようだ。ゴキー!!の敬礼を義務付けた者として。

「おっまたせぇぇぇ~」

 その時、遅れて常夏が現れた。超呑気な口調で。

「エブリシングサマー!!……ぇ?」

 歓喜の表情を越したえた風華だが、直ぐに固まった。

「……まさか、あなた、その為に遅れて来た、って訳じゃ……」

 唖然として常夏を見る藤子。

 常夏は満面の柄顔を作って大きく頷いた。

「へへへ~可愛いっしょ可愛いっしょ?新しいオレンジのビキニ!悩殺美少女完成!」 

 なんと常夏はわざわざ水着に着替えてやって来たのだ!!イルカのでっかい浮き輪まで用意して。この窮地に立たされている風華達に向かってピースサインを向けたりもしていた!!

「常夏っ!アンタ今の状況が解らないのっ!?」

 流石に水着に着替えて登場した常夏の脳天気さに苛立つ風華。

「今の状況?」 

 言われてグル~ッと見回す常夏。

 ゴキゴブリンが登場し、黒タイツ軍団が海水浴客を取り囲み、デカいクラゲにみんなが捕らわれている姿を、この時漸く認識した。

 これはつまり、こういう事だ。

「何かのイベント?」

 首を傾げる常夏だった。

「どこをどう見ればイベントになるのよおおおお!!私達は捕まっちゃったのっっっ!!黒タイツ軍団に海水浴客を人質に取られてっっっ!!」

 状況を的確に説明しながら叫ぶ翡翠だった。半分涙目で。先まで転げ回って笑っていたと言うのに。

「……誰だっけ?」

「マジで殺す!!マジで!!私を解放しなさいっ!!あの女だけは私が絶対殺すからっっっ!!」

 狂ったように叫び、身を捩る翡翠だった。気持ちは解る。

「常夏っちゃぁん~……取り敢えず変身して助けてくんない~……?」

 素直に助けを促した方が話が早いと判断したつくし。

「え~!!無理だよ~!!だって変身携帯置いて来ちゃったもん!!」

「「「「えええええええええええええええっっっっ!??」」」」

 皆が驚き叫んだのは言うまでもない。更に何しに来たんだコイツ?と思ったのも言うまでもない。

「だって海に入ったら携帯壊れちゃうじゃん?だから置いて来ちゃった」

 何故かしたり顔の常夏。まるで『常識でしょ』と言わんばかりに。

「ゆ、唯一の希望が……」

「ま、待ってジャパニーズウィステリア!!い、今から戻って携帯取ってくるしか無いわ!!それまで耐えれば……」

 美鈴の台詞に被せるゴキゴブリン。

「取って来られてたまるか!行け、我が下僕達よ!!あの女を拘束しろ!!」

「キーッ!!」

「キーッって!!キーッって!!うはははははははははははははは!!」

 敬礼した黒タイツ軍団に腹を押さえて笑う常夏。こっちは文字通り転げ回った。

「どいつもこいつも馬鹿にしやがって!!」

 真っ赤になりながら地団駄を踏む。その間に黒タイツ軍団が常夏を囲んだ!!

「おっ?この無敵美少女と戦うつもり?」

 ニヤリと笑い、変身携帯を探す。

「えーっ!?無いっ!!携帯が無いっ!?」

「今自分で置いてきたって言ったばかりでしょ!?」

 風華の突っ込みで思い出したように手のひらに拳をぶつけた

「あ、そっか。」

 じゃあ取りに行こうと踵を返す。

「だから行かせるかよ!!と言うか、どこまでマイペースなんだ貴様は!!」

 ゴキゴブリンの号令で、黒タイツ軍団が一斉に常夏に飛び掛かった。

「沢山の変質者が私の身体を触ろうと群がって来た――!!」

 常夏は叫びながら海へ逃げ込んだ。

「ばっ、馬鹿!!海はクラゲのロボットが!!」

 風華の忠告を全く聞かずに沖へと泳ぐ。

「カハハハハ!!血迷ったか小娘ん?」

 常夏が向かった先に、ジェットスキーが浮かんだ。

 いや、此方に向かっている?

「な、何だ?あのジェットスキーは?無人のようだが……」

 常夏とジェットスキーが接近する。

「まさか亜羅漢?」

 藤子の言う通り、ジェットスキーはトランスフォームした亜羅漢だった!!


「全く、『ジェットスキーにトランスフォームできる?』と言ったからトランスフォームしたのに、忘れて出掛けるなんてな」

「ごめんごめん。怪我の功名って事にしといて」

 トランスフォームした亜羅漢に乗る常夏。

「馬鹿な!!確かスクーターに変形する筈では無かったか!?」

「似たような形じゃん。およ?ハンドルに変身携帯が?」

 それは常夏がわざわざ置いて来た変身携帯!!

「変身携帯は完全防水だっ!!前にも言っただろっ!!変身だ常夏っ!!」

 常夏はニカッと笑い、変身携帯を掲げて叫んだ。

「チェンジ!!ラフレシアン!!」

「うおっ!?」

 あまりの眩しさに腕で顔を隠すゴキゴブリン。

「「「キーッ!!キキーッ!!」」」

 黒タイツ軍団から絶叫が聞こえる。

 ゴキゴブリンはそっと目を開ける。そこには、エブリシングサマーがジェットスキーで黒タイツ軍団を跳ね飛ばしている惨劇があった!!

「き、貴様!!それでもヒロインか!?もっとちゃんと戦え!!」

「ラフレシアン!!水上轢き逃げアターックっっっ!!」

 苦言なんか全く聞きもせず、全ての黒タイツ軍団が宙に舞い、星と化させた。

「人質の海水浴場、奪還ん!!」

 ニカッと笑い、Vサインをゴキゴブリンに向ける常夏。

「おのれぇぇぇ!!行けエチゼンクラゲェイ!!エブリシングサマーを捕らえよ!!」

 号令で触手を常夏に伸ばす。

「ラフレシアーン!!海水浴びせターン!!」

 ゴキゴブリンの前で急に旋回する常夏。ゴキゴブリンに海水が大量に掛かった!!

「くあつっっ!?」

 水しぶきをマトモに喰らい、咄嗟に目を瞑った。

「雑魚は後程っ!!じゃね~」

 ゴキゴブリンを華麗にスルーし、エチゼンクラゲロボに向かった。

「この俺を相手にしないだと……………!!」

 屈辱に震えるゴキゴブリン。そんな敵の心中など察する訳が無い常夏は、仲間が捕らえられているエチゼンクラゲェイに特攻した。

「いっくよぉぉぉぉぉぉ……ラフレシアぁン!」

 向かって伸びてきた触手に対し、ジェットスキーを反転させた。

「スクリューに絡めてザンヴァー!!」

 意図的に触手をスクリューに巻き込ませて、それを見事に切断した、


 ギョギョギョギョギョギョギョギョ!!


 触手を切断されたエチゼンクラゲロボはビビって全ての触手を緩める。

「今よ!!」

 その隙に脱出するラフレシアン達。

「えへへへへ。みんな、大丈夫?」

「ええ、助かったわエブリシングサマー」

「く……エブリシングサマーに借りを作るとは……」

 悔しそうな翡翠。それに対して、眉根を寄せた。

「……誰?」

「本当に死ね!!エブリシングサマー!!」

 翡翠は常夏に掴み掛かった。


 ドカッ!


 掴み掛かった翡翠はジェットスキーに跳ねられた。

「え?」

「ラフレシアぁン!!見知らぬ他人ミサイルっっっ!!」

 跳ね飛ばされた翡翠はエチゼンクラゲェイにミサイルとなり向かって行く!!

「きぃゃあああああああああ!!!」

 翡翠ミサイルがエチゼンクラゲェイに直撃!!それによって装甲が砕けた。

「エブリシングサマー……容赦ないねぇ~……」

 戦慄を覚えて額から汗が流れ落ちるつくし。

「え、エブリシングサマー……ほ、本当に殺す………」

 常夏を憎悪の目で見ながら、翡翠は気を失った。

「あ!思い出した!あの時の敗者だ!!」

 以前、敗者ミサイルと言う技を繰り出した事を思い出し、翡翠が敗者だと言う事を記憶から蘇らせた。

「ついこの前の事でしょ」

「さぁ!!そんな事より、みんな行くよ!!巨悪をフルボッコがラフレシアンのキャッチフレーズなんだから!!」

 ラフレシアン達はイマイチ釈然としないながらも、エチゼンクラゲェイに向かって行った!!


 ギョギョギョギョギョギョギョギョ!!


「ギョギョじゃねーよ~……くたばれよぉ~……」

 つくしの正拳ラッシュでみるみるうちに装甲が壊されていく。

「メカ部分が露わになったよなああああ!!」

 美鈴の回し蹴りがヒット!!触手の動きが止まった!!

「中は案外脆いのね」

 藤子が全体重を乗せた飛び膝をぶっ込んだ。


ボッ!


エチゼンクラゲェイから煙が出てきた。

「ああああああああ!!!!」

 右拳を放つ風華。

「みんな離れて!」

 風華の号令でエチゼンクラゲェイから離れる。


 ボッカアアアアンンン!!!


「やったわ!!」


 ガッツポーズを作る風華達。

「じゃ、残りの黒い人は私がやっちゃっておくね~」

 ブォン!とふかしてゴキゴブリンに突っ込んでいく常夏。

「く!?」

 逃げようとしたが、海水で自由に動きが取れず、まごついた。

ラフレシアぁぁン!!!」

 ジェットスキーが猛スピードで突っ込んで行く。

「うわ、うわあああああ!!」

「轢き逃げアターック!!!!」

「ああああああああああああああ!!!!!!」


 ゴッ


「ぎゃあああああああああああああああああ!!!」

 派手にぶっ飛ぶゴキゴブリン。空中に消えそうな程、ゴキゴブリンは空高く舞った。

 ゴキゴブリンが空中で静止した。

「およ?」

 その様子をじーっと見る常夏。

「な、なにアレ!?」

 風華が指差した先の、止ったゴキゴブリンの背後に、人影が現れた。

「あ、あの巨大なオーラは!!」

 戦慄し、身体が震えた藤子。それは良く知る闘気だったのだ。

「ガイチューン将軍!?」

 人影がハッキリ姿を現すと、美鈴の言う通りそれはガイチューンそのものだった!!

「……ちょっと~……ヤバくないアレ~……」

 つくしですら膝がガクガク震えた。それ程の圧倒的闘気を身に纏い、ガイチューンは鋭い眼光をラフレシアン達に向けた。


【久しいな小娘】

 

 ギロッと常夏を睨み付けると同時に、凄まじい闘気が嵐のように吹き荒れた!!

「くっ!!あれはガイチューン本体じゃない筈なのに……」

 幻に等しい立体映像に過ぎないのに、それでも感じる凄まじい闘気!!

「誰だっけオジサン?」

 皆が脅威で萎縮している中、まっっっったく平常な常夏!!風華達は青い顔になりながら常夏を見る!!

【相変わらずの不愉快な小娘が……まぁ、今日の所は見逃してやる】

 止っているゴキゴブリンに掌を翳すガイチューン。ゴキゴブリンがフッ、と姿を消す。

「瞬間移動みたいな~……?逃がしたのかなぁ~……?」

 つくしなどに目もくれず、常夏を睨み付ける事を止めないガイチューン。更に続ける。

【一週間後、俺の城を倉倉高校内に出現させる。そこで決着を着けようぞラフレシアン エブリシングサマー!!】

「倉倉高校に……カンキョハカーイの城を……?」

 唾を飲んで疑問を呈する美鈴。そこで決着も何も、今の自分達でも勝てない相手だ。向こうも自分達に負けるとは思っていない筈。それなのに、何故期限を設けた?

「最終決戦て訳ね。一週間の猶予はそちら側の都合かしら……だけど、私達も準備期間ができて良いわね」

 成程、藤子の言う通り。何らかの事情があって、ガイチューンは一週間は動けない。ならばこの猶予期間は有り難い。

 皆が緊張している最中、常夏だけは悩んでいる表情をしていた。

「オジサンオジサン、誰だっけオジサン?」

 たった今!最終決戦通達を出した敵に向かって首を傾げる常夏!!

「ちょ!ちょっとエブリシングサマー!今機嫌を損ねるのはマズい……」

「コールドウェイブの言う通りよ。せっかく一週間の準備期間があるのに、怒って向かって来られたら……」

 全滅

 その二文字が常夏以外のみんなの脳裏を掠める。

【くっくっ!!貴様、この俺にあのような悪臭を纏わりつかせたのすら忘れたと言うか!!】

 マジギレしそうな寸前のガイチューン。だが、解った。一週間はガイチューン自身の匂い消しの時間か。だが、今の言葉で怒らせたのだ。匂いを気にしないのなら此処にやってくる。

 ヤバいと感じた風華が常夏の前に出てガイチューンに身を晒す。

「解ったわガイチューン!!一週間後、倉倉高校で会いましょう!!」

【……今は外に出る事は叶わぬ……コールドウェイブだったか?エブリシングサマーの教育をちゃんとしておけ!!】

 ガイチューンは憎悪の瞳を常夏に向けながら消えていった。ゴキゴブリンを回収して。

「行った……のね」

 安堵し、その場にへたり込んだ美鈴。それに倣うラフレシアン達。

「あのオジサン誰?」

 いや、常夏だけは、至って平然としていたが。

「あなたクレイジー・スメル喰らわしたじゃないの……」

「でもぉ~……敵が何かの事情で一週間出て来れないんだからぁ~……その間パワーアップ期間が私達にあるしぃ~……」

 つくしは知らない。かつてガイチューンに奥義を喰らわせた事を。

「何にせよ、この合宿でパワーアップしなきゃね。シスター・ドリアン、何時までも気絶してないで、訓練再開するわよ」

 見知らぬ他人ミサイルの弾頭にされて気絶したままの翡翠を担ぎ上げ、合宿に戻るラフレシアン達。

「えー!?遊ぼーよみんな!!」

「ダメっ!!早く戻るの!!」

 ブーブー文句を言う常夏を引っ張って合宿に戻る風華。各々の基礎体力アップが目的の合宿だったが、それ以上の事が必要になる。

 風華はバカンスを楽しんでいる皇龍王達を呼ぶ事にした。


 ゴキゴブリンを助けたガイチューンは、憤慨しながら服を脱ぎ捨てた。

「ガイチューン将軍、今出歩かれては困ります」

 鼻をつまみながら恭しく頭を下げる部下。

「解っておるわぁ!!風呂の準備はぁ!?」

「無論、できております」

 ムカムカしながら風呂へと飛び込むガイチューン。常夏に喰らったクレイジー・スメルの残留臭気が未だに取れない。

「くっくっ!!この臭いさえ取れていたなら、先程の場で皆殺しにできたものを!!」

 口惜しそうに、身体をゴシゴシと擦る。

 悪臭が取れないから、ガイチューンは1週間の猶予を設けた。

 この数日間で大分臭いが落ちたとは言え、ガイチューンはカンキョハカーイ四天王の一人。

 悪臭を漂わせながら人前に出られない。

 それはささやかな、しかし長としてのプライドだ。

「何とかして一週間で臭いを落とすぞ!!エブリシングサマー!!その時が貴様の最後だ!!くっくっ!!!」

 ガイチューンは悔しさに軽く涙を浮かべながら、身体をゴシゴシと擦っていた!!

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不快美少女戦隊ラフレシアンⅡ しをおう @swoow

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