第4話 夏木杏奈の憂鬱


「はぁ、疲れた〜!ただいま〜」

1日の仕事が終わり私はワンルームの部屋に帰ってきた。

一人暮らしを始めて1年が過ぎた。

最初の頃は、ちょっと寂しいかなとも思ったけど、すっかり今ではそれにも慣れて1人を満喫している。


ただ、帰ってきて誰の返事もないことだけが少し不満ではある。


「彼氏欲しいなぁ……」

ソファにヒョイと座ってテレビを見ながらそんなことを呟く。

私、夏木杏奈、大学を出て一流と言われる商社の秘書課に勤めて1年。

仕事にもある程度慣れてきて時間的にも精神的にも少しずつ余裕が出てきた今日この頃。


「そういえば最近、九条先輩が妙に優しくなったのよね。アレはきっと男の影響よ」

九条先輩とは私が勤める商社の秘書課で室長をしている女性だ。

私ははっきり言って美人だと自負している。中高と常にモテていたし綺麗になりたいと思い努力も沢山した。


しかし、上には上がいるのを就職したその日に思い知らされた。

美人とはあんな人のことを指す言葉なんだろう。

驚くほど整った顔立ちにモデル顔負けのスタイル、醸し出す雰囲気もどこか冷たく近寄り難いが、時折見せる笑い顔がまた素敵なのだ。


「九条先輩が付き合う男ってどんな人なんだろ?きっとびっくりするようなイケメンなんだろうなぁ」

テレビを見ながらスナック菓子を口に運びコーラで流し込む。

「よし!九条先輩の彼氏さんに誰か紹介してもらおう!絶対イケメンが来るはず」


私はそんな企みを考えて、ひとりほくそ笑んだ。



◇◇◇



「九条先輩!」

「何かしら?夏木さん」

「九条先輩って彼氏さんいますよね?」

「えっ?いや、まぁ、その……はい」

私の問いかけに真っ赤になってモジモジする九条先輩。

これはダメだ……同性の私から見ても可愛すぎる。もぅ!ぎゅーってしたくなるくらい可愛い!


「あの〜九条先輩の彼氏さんに誰か紹介してくれるように頼んでもらえませんか?」

「え?さつ……んんっ。夏木さんにですか?」

「はいっ!正確には私と梓ちゃんに、です」

梓ちゃんというのは私と同期入社の同じ秘書課の子でホワホワした感じの可愛い女の子だ。

性格は私と正反対な感じなのに、妙に気があったのか昔からの親友のような関係になっている。


「えっと、一応聞いてみるけど期待はしないでね」

「はいっ!ありがとうございます」

九条先輩はそれだけ言うと足早に去っていった。


「あれは彼氏にベタ惚れな感じね。九条先輩があんなになる人って……くうぅ〜っ!気になるぅ〜」

社内での九条鈴羽という人物を形容するのに使われる言葉は、冷たそうや笑わない、クール等々。


常に冷静沈着で物事を合理的且つ的確に判断する。

自由奔放で知られる門崎会長の手綱を上手くとりこの会社を発展させた影の功労者と言われている。


なのに……


「何?あの恋する乙女のような反応は!」

さっきの真っ赤になった九条先輩を思い出して何故だか私まで赤くなってしまう。


会社の男性社員が見れば卒倒しそうなほど愛らしく可愛いい顔だった。


「いったいどこの誰なんだろ?芸能人とかかな?」

その日は、九条先輩の彼氏さんのことが気になり仕事が手につかなかった。



◇◇◇



「ええ〜九条先輩がそんなになるの〜?」

「ホントびっくりしちゃったよ」

「わたしも見たかったなぁ〜」

1週間後、研修に行っていた梓ちゃんが帰ってきたので2人で私の部屋で先日の九条先輩の話で盛り上がっていた。


「もう!真っ赤になっちゃって〜可愛いって!ぎゅーってしたくなっちゃうくらいだったんだから」

「へぇ〜九条先輩のそんなところ見たことないよね〜」

「でしょ?やっぱ彼氏さんって芸能人とかかな?少なくとも普通のリーマンじゃないわよね」

「九条先輩が好きになる相手でしょ〜絶対に年上よね〜」

2人して彼氏予想に花が咲く。

でも実際のところどうなんだろう?梓ちゃんは年上だって思ってるけど案外年下の可愛い男の子だったりして……


翌日は私も梓ちゃんも休みだったので深夜までビール片手におつまみポリポリと盛り上がった。


そしてしばらく後、私と梓ちゃんは九条先輩の彼氏である立花皐月君の紹介で運命の男性と出逢うことになる。


それは、もう彼以上に好きになる相手は現れないだろうと思わせるもので……

この先どうなるかはわからないけど、私は彼をずっと支えていこうと心に誓うことになる。











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水曜日の彼女〜Another stories〜 揣 仁希(低浮上) @hakariniki

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