第9話


「今から操作している僕の元へいきますから、ついてきてくださいね」


 と言われ、コツコツと足音が響かせて蜘蛛の後ろを歩くこと数分。フロウはようやく地下一階まできていた。


「いやー、今の日本では廃デパートなんて中々残ってませんからね、僕も久しぶりに見ましたよ」


「そうですね」


 口もないのに流暢に話す蜘蛛にも慣れてきたフロウは周囲を観察できる余裕を得た。


「足の傷は大丈夫ですか? 結構深いようですが」


「痛覚はないので、お気になさらず」


 一瞥すると、不自然な方向に曲がった足があった。


「そうですか。まあその足では何かと不便でしょうし、明日にでも機械病院にでも持って行きましょうか」


「ありがとうございます」


 クモの軽い調子に合わせながら歩いていると突然クモが止まる。


「おやおや、やっぱりこういう場所といったら不良というものは付き物なのでしょうかね? わかりますか、フロウさん。この扉の先に人間の熱反応がありますよ」


 蜘蛛が取っての上に乗り扉を叩く。フロウも拳銃を持ち確認すると蜘蛛の言うとおり何人かの人がいることがわかる。


「ちょっと先に入って片付けてきますから、三分たったら入ってきてください」


 スルスルと器用に降りると、蜘蛛は扉の下から室内へ入っていく。


 フロウは計測して三分たったことを確認してから、恐る恐る扉を押す。


「あー、フロウさん遅かったですね、もう終わりましたよ。こんにちは、僕がこの蜘蛛の飼い主で

あり桜宮 主理(さくらみや しゅり)です。さあ、お互いに利用しあいましょう」


 そこには、数人の死体の上に血塗れの青年が蜘蛛を手のひらに乗せて立っていた。


「主理、よろしくお願いします。共にこの世界を終わらせましょう、人類を救うために」



 フロウは無表情で手を差し伸べた。





 桂屠は携帯品の時計を見て、今が約束の十六時だということを確認する。


 永久達が遊びに行ったのを確認した後、都市部から離れ、じめじめとした地下水路を神室に指定されたルート通りに歩き大きな施設に来ていた。


「失礼します」


 インターホンがないためノックをして部屋に入る。室内には桂屠より身長の高い、強面黒スーツの男達が手を背中に組んで扉を囲うように立っていた。


「室堂 桂屠だな? 話は聞いている。パスポートを見せてもらおうか」


 中でも一際大きい金髪の男が近づいてきて桂屠はたじろぐ。


「無理だな。眼球にカメラでも搭載されていたら個人情報が漏れてしまう。代わりといってはなんだが、神室様直筆の手紙だ」


「用心深いものだな。良いだろう。お前たち、下がっていいぞ」


 ぞろぞろと部屋を退出していく男たちを見送る。


「さてと、私が依頼したウイルソン・ケビンだ。よろしく頼む」


「室堂 桂屠だ。こちらこそよろしく」


 身長の関係で見上げるようになりながらケビンの握手に応じる。


「ところで桂屠、君は……」


 何か言いかけた瞬間、桂屠の握られた手が前方向に思い切り引っ張られると同時にケビンの右蹴りが迫る。


「グッ!」


 桂屠は両手が塞がっているため左の膝で合わせて防ぐ。


「まあいいだろう。これ位は防いでもらわなければな」


 桂屠はそう言うと力を抜き、手を離す。


「依頼はアンドロイドの破壊じゃなかったのか?」


「中途半端な人間を寄越されてもソイツが死ぬだけだからな、テストをさせてもらっただけだ。今のを防げないようなら国にかえってもらっていたところだ」


 さっきの蹴りは中々のスピードだった、ケビンも本気で蹴ったのだろう。政府の人間ならば生半可な練習をしているわけではあるまい。


「話はそれだけか?」


 しかし、特に気にとめていない桂屠は話を戻す。


「お前、二人と聞いていたが片方はどうした?」


 恐らく雪那のことだろう。神室は元々二人に依頼を出していたのだろう。


「一人は来るとき風邪を患ってな、万全な状態ではないため連れてこなかった。すまない」


 あながち病気というのは間違ってないかもしれない。


「すぐそこの部屋にいるから慌てるな。入ったらスタートだ。ヤツはこの部屋からは出られないから危険だと感じたら逃げてこい。最も、そんな暇はないだろうがな」


 ケビンは黒い全長二十メートルはある鉄扉を指で指す。


「そんな便利なものがあるなら一生そこに閉まっておけばいいじゃないか。戦力としてはアンドロイドは周辺国への圧力にもなるだろう?」


 桂屠はフンと鼻を鳴らす。


「確かに、前時代の戦争では価値はあっただろう。だが、今はどこの国も戦争をしようという状態ではない。脅したとしたらこの国の上空に多くのミサイルが飛んでくるだけだろうしな」


 少し残念そうな表情で肩をすくめるケビン。


「だから破壊するしかないわけか」


「ああ、ちなみに、そこにある武器ならいくらでも持って行ってくれてかまわない」


 横に隣接されている武器庫を指しているのだろうが桂屠はそのありがたい申し出を断る。


「気持ちは嬉しいけどな、通常の武器が通じないから呼ばれた訳だろう」


「そうだ。今まで何人もこうして来たけどな、帰ってきた人間はほとんどいない」


 桂屠は指をスライドさせて、スーツケースの指紋認証から起動までを流れるように行う。薄い膜が身体の形を解析すると同時に変形。シャカシャカと不気味な音を立て、なぞるように体全体へと分解されていた黒い鎧が纏っていく。


「パワー特化の一般型なのか?」


 ケビンが不信な視線をこちらに送る。


「量産型の初期型だ。改造されているから機能自体のスペックは高いがな」


「ならば、問題ない。健闘を祈る」




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救済抗争 ~人類史の終着点~ 天内 飴 @iminerausu

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