先輩と雪合戦をやる勇気はない

「はあ……はあ……」

「う、うぅ……」


 長いキスが終わって、ぼくと月海先輩は二人で仰向けになっていた。

 本当に危なかった。

 夢中になりすぎてマジで窒息しかけた。熱に浮かされるって恐ろしい。


「景国くん、大丈夫?」

「なんとか……」

「汗かいちゃったね。お風呂入ってく?」

「え、先輩とお風呂……!?」

「一緒には入らないわよ」

「す、すみません。勘違いしました」


 先輩の家のお風呂。

 子供の頃、入った記憶がある。

 とはいえあれから十何年も経っているし、さすがに改装されているだろう。見てみたい。


「じゃあ、せっかくなので」

「よし、さっそく沸かしましょう」


 先輩が立ち上がって障子を開ける。


「あ、すごい」

「どうしたんですか?」

「景国くん、見て見て」


 ぼくは這って先輩のところへ行った。


「おお……」


 外は真っ白だった。

 雪は一晩中降り続いたようで、庭を覆い尽くしていた。


「ねえ、外に出てみようよ」


 先輩が楽しそうに言った。もちろんぼくはうなずいた。


     †     †


 庭に出てみる。ふわりと沈み込む、質のいい雪だった。丸めてみるとしっかり固まる。これは雪だるまが作れそうだ。


「先輩、雪だるまを――」

「景国くん、受けてみなさいっ」


 ひゅん、と目の前を超高速の雪玉が通過していった。


「っ……」


 なに今の。

 速すぎて全然反応できなかったんだけど。


「せ、先輩っ、そんなの当たったら顔面陥没しちゃいます!」

「心配いらないわ。当てる気ないから」

「そういう問題じゃないですよね!?」


 むー、と先輩が少し考える。


「キャッチボールならできるでしょ?」

「それなら、まあ……」

「じゃあいくわよ。それっ」

「――おっと!」


 先輩が山なりに投げてきた雪玉をキャッチする。しかし、投げ方がすごく野球選手っぽい。運動神経がいい人って、こういうところにも違いが現れるんだなあ。


「いきます!」


 雪玉を投げ返したが、上の方に逸れてしまった。


「はっ」


 ――が、月海先輩は当たり前のようにジャンプしてキャッチした。先輩が一つアクションを起こすたびに自分の自信が喪失していく……。


「これは捕れるかな?」


 先輩が少し横に雪玉をずらしてきた。ぼくはそれを捕りに行って、

「ぐふぅ」

 足がもつれて転んだ。かなり積もっているので思うように足が動かないのだ。


「け、怪我しなかった?」

「雪のおかげで助かりました」

「よかった。はい、掴まって」

「ありがとうございます」


 先輩の手首を掴む。ぐいっと引き起こしてもらった。


「寝起きだし、あんまり無茶しちゃいけないってことかしらね」

「確かに、いつもより体が重い気がしました」

「雪遊びは今度にして、今日はお風呂に入りましょう」


 賛成!


     †     †


 やっぱり浴室は改装されたそうで、一般的なワンタッチで沸かせるタイプになっていた。

 ボイラーの音を聞きながら、ぼくと先輩はこたつで朝のお茶を飲む。


「もうすぐ大晦日ね」

「お参り行きますか?」

「そうね。せっかくだし善光寺ぜんこうじとか」


 善光寺。

 長野県を代表する観光スポット。いつ出かけても参拝客がたくさんいる。

 遠くとも 一度は詣れ 善光寺――なんて言葉もあるくらい歴史ある寺院なのだ。


「でも、混みますよねきっと」

「つきあって最初の年越しなんだし、私は出かけたいな。待ってる時間だって、今の私たちなら思い出の一つにできるはずよ」

「だったら行きましょう。特別な新年にしようじゃありませんか」


 ぼくが強い口調で言うと、月海先輩が微笑んだ。


「ありがとね、景国くん。来年も幸せな一年になるように、二人で手を合わせてきましょ」

「はい、そうしましょう!」

「あ、振り袖は期待しないでね」

「…………」


 それは聞きたくなかった……。いや、でも当日がっかりするよりは今のうちに言っておいてもらえてよかったのかな?


 なんにせよ、大晦日はそこまで来ている。

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