プレゼントはなしと言われたけれど嘘でした

 うっすらと夜明けを感じた。


 目を開くが、思ったより明るくならない。そして、やけに体が温かいことに気づく。いま入っているこたつとはまた別のぬくもりだ。


 意識が覚醒していき、ぼくは理解した。

 またしても、月海先輩の抱き枕にされていたのだった。


 ぼくの体を抱きしめて、先輩は寝息を立てている。寝顔を見てみたいが、背中をしっかり押さえられているので動けない。呼吸に合わせて上下する胸の動きが伝わってくるだけだ。


 ……って、ちょっと待って。


 これはかなりやばい状況では?


 ぼくの顔は月海先輩の胸にうずもれている。頬に当たる感触が妙に柔らかいと思ったのだ。


 ど、どうしよう。

 脱出しようにもホールドがきついから難しい。先輩が起きるのを待つにしても、起きたあとで怒られる可能性がある。


 でも先輩の方から抱きしめてきたんだし、ぼくにはどうしようもない。


 うう、顔がどんどん熱くなってきた。

 以前、先輩がうちに泊まりに来た時よりもがっちり固められている。その分、深く胸に沈み込んでいる……。


 セーターの生地がちょっとちくちくする。その感触がなんとも言えず、余計にクラクラするんだ。


「せ、せんぱーい……」


 声を出してみるが、先輩は起きてくれない。


 嬉しいは嬉しいんだけど、これが無意識のホールドだったら微妙な気分になってしまう。


「ん……」


 月海先輩が吐息を漏らした。その声がやけに色っぽくてドキドキが加速する。


「んう……景国くん?」


 腕の力が弱まる。先輩が目を覚ましたようだ。


「お、おはようございます」

「私ったら、また景国くんに抱きついちゃってたみたいね……」


 おっと、予想よりだいぶ薄いリアクションだ。


「景国くん、ちょうどいい大きさだから自然と腕が伸びちゃうのよね」

「そんな食べ物みたいなノリなんですか……」

「嫌だった?」

「嫌じゃないですけど、ドキドキしました……」

「それが狙いよ」

「えっ」

「私だって成長したんだから。この程度ではもう恥ずかしくないわ……うふふふ」


 えーと。

 月海先輩、まだ完全に覚醒していない?


 反応に困っていると、先輩は仰向けになって息を吐き出した。


「慣れないところで寝ると体が硬くなるわね……。景国くん、大丈夫?」

「案外平気でした」

「だったらよかった。そろそろ起きないとね」


 先輩が体を起こした。ぼくも起きる。


 ――本当に寝ぼけてたわけじゃないのか?


 自然に会話が続いた。今の反応を見る限り、ぼくをドキドキさせるのが狙いと言ったのは本心なのか。そのために抱きついてきたのか。


 キスはともかくとして、強く胸を当ててくるなんて初めてだ。抱きしめてもらった時、自然と当たるのがせいぜいだった。ボディータッチについて、月海先輩には自分なりのボーダーラインがあるはず。そちらも問題なくなったのだろうか。


 こういう時は表情を見ればいい。

 ぼくはそっと、先輩の横顔をうかがった。


 横向きで寝ていたから頬が赤い。けれど、どうもそれだけではないように思える。首が小刻みに動いているし、指をこすり合わせたりしている。落ち着かないんだ。


「先輩」

「な、何かしら」

「無理に演技してたんじゃない……ですよね?」

「…………」


 沈黙。


 それから先輩が動いて――


「わあっ!?」


 ぼくは押し倒されていた。


「う、うまくいきかけてたんだから黙っていてくれればよかったのよ。言われると余計恥ずかしくなっちゃうじゃない」

「やっぱり演技だったんですね」

「キスより胸を当てることの方が、私にとっては勇気が必要なことなの!――でも、まあいいわ。クリスマスの朝はプレゼントが出迎えてくれるものだからね」

「どういう意味――ぐふっ!?」


 先輩がぼくの上に乗っかってきた。再び胸が押しつけられる。


「毒を食らわば皿までよ。景国くん、覚悟しなさい!」

「せ、先輩冷静になりましょう! 話せばわか――んぐ」


 話せなかったので何もわかり合えなかった。


 唇をぴったり塞がれて、ぼくの頭は真っ白になった。月海先輩の体重とか柔らかい感触とか熱を帯びた唇とか――そういうに心を支配される。


 そのくらい鮮烈で、長い長いキスだった。


 これがクリスマスプレゼント。

 すごい。

 一生忘れられないよ、これは。


 ぼくは先輩の背中に腕を回し、その想いを受け止めた。


 そして、ぼくたちはそろって酸欠になりかけたのであった……。

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