1-7 幸せなる食卓

「はーい、こちらが本日のお料理になりまーす」

「頑張って作ったんだ。喜んでもらえたら嬉しいな」

 茶髪のリフィアが元気よく言った後で、青髪の、物静かなエイルが柔らかに微笑む。

 食堂についてから数十分後。テーブルには様々な料理が出された。

 ニシンの香草焼き、パリッとした皮に甘辛いタレのしみ込んだ鶏のモモ肉焼き、イグニシィン領で採れた新鮮な野菜を使った、ほっこりと温まるスープ。特製ドレッシングのかかったサラダまである。それ以外にも、小麦を使ったふわふわのパン、噛めば肉汁の溢れるソーセージ、レモンでアクセントを加えた、野菜のマリネなどなど。それは貴族の食卓にしてはやや貧相でこそあったが、貧乏貴族イグニシィンの皆からすれば十分なご馳走であった。

「フィレル、誕生日おめでとう。フィレルはわたしのスープが好きだって言ってくれたから、頑張って作った」

 エイルがはにかむようにして笑えば、フィレルは満面の笑顔を見せる。

「うんうん、だぁい好きっ! ありがとー、エイルぅっ! やったやったぁ、ご馳走だぁっ!」

 笑うその顔の輝かしいこと、穢れないこと。

 彼の喜びは周囲にまで伝染し、皆を笑顔にさせた。

「いっただっきまーっす!」

 言ってフィレルは真っ先にスープを飲み、にこにこと笑う。続いてソーセージにフォークを突き刺し、さらににこにこと笑う。

「おいしいんだよーっ!」

 その笑顔はまるで天使のようだった。

 リフィアもエイルも料理が天才的にうまい。

 一同は二人の料理に舌鼓を打ち、料理を誉められた二人は嬉しそうである。幸せな食卓だった。

 しばらくして、メインの料理が平らげられるとメイドの二人は皿を片づけ、新しい皿を出してきた。そこに乗っていたのは……

「じゃーん! お誕生日ケーキよフィレルっ! あたしたちの合作よ。絶対に美味しいんだから、そのおいしさに目を見開きなさいよね?」

 挑戦的に笑うリフィア。

「うん、リフィアは誇張じゃないよ。力作なんだ。……フィレル、十五歳の誕生日、おめでとうね」

 静かに微笑むエイル。

 それはケーキだった。オーソドックスなショートケーキだが、ケーキの本当の美味しさはチョコレートケーキやフルーツタルトなどにではなく、王道のショートケーキにこそあるのだという。それの上には苺がホイップクリームと一緒に飾られていて、つやつやと美味しそうに光っていた。ケーキの中央には絵筆を模した砂糖菓子があり、その下にはイチゴソースで描かれた、可愛らしくデフォルメされたフィレルの似顔絵がある。どうやら絵筆でフィレルの似顔絵を描いた、という趣旨らしい。イチゴソースは絵の具のつもりなのだろう。だとしたら、ややクリーム色がかったこのホイップクリームは、キャンバスをイメージしているのだろうか。

「『絵心師』フィレル、ハッピィバァスディ! あたしたちはあんたみたいに絵の実体化はできないけれど、それでも頑張って作ったんだよ? 味も保証するから、どうぞ召し上がれーっ!」

 笑うリフィア。取り分けられたケーキを食べようとしたフィラ・フィア。彼女の身につけた銀の腕輪にクリームが付着したが、彼女は気にしない。フィレルの隣、どうぞ、とエイルがフィレルに近寄って、微笑む。

「いっただっきまーっす!」

 満面の笑顔で、フィレルがフォークを切り分けられたケーキに突き刺そうとした、瞬間。

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