1-4 古の王女さま


「……成程、ねぇ。ふーん、そういうこと」

 話を聞いて、ファレルは大きなため息をついた。

「そもそも聞きたいんだけれどさ。フィレル、君はどうしていきなり禁忌を犯したんだい」

 彼の碧の瞳は優しいけれど、それは笑ってはいなかった。

 兄を見てフィレルはしゅんとうなだれる。

「あのね、ロアの話してくれた物語、とっても面白かったんだ。それでね、もしも彼女たちが実在するならば直接会ってみたいなって」

「……下らない好奇心で、あなたはわたしを呼び起こしたの。へー、そういうこと」

 フィラ・フィアは三白眼でフィレルを睨む。

 フィレルは困った顔をして、兄の後ろに隠れた。しかしファレルはそれを許さず、さっとその場から退いてしまう。途方に暮れたような顔のフィレルの頭をロアが小突き、フィレルはまたまたうなだれる。

「後悔するようならば、最初からしなければいいものを」

 ロアの言葉も最もであった。

 フィラ・フィアは皆に問う。

「状況整理するわ。今はわたしが神々を封じていた時代からかなりの時が経ち、わたしたちのことは伝説として語り継がれているレベル。わたしの時代に生きていた人たちはとうの昔に骨となり、今はもう誰もいない。わたしの六人の仲間――記憶にある限り、わたしが死ぬ前までには二人残っていたはずなんだけれど――も、当然ながらもういない。要は」

 その赤の瞳に、寂しさのようなものが宿った。

「わたしは、この世界に、ひとりぼっちなのね」

 三千年も時が過ぎれば、よく見知った土地も人も、異世界のものとなり果てる。この世界で彼女が知っているものなど、わかっているものなど、せいぜい魔道原則や神々くらいか。魔導士の種類だって少しずつ増えている。三千年の間にどれだけ増えたか? それすらも追い切れない。

 あんまりよ、と彼女は顔を覆った。

「ええ、あまりにもあんまりだわ。せっかく冥界の底でたゆたっていたのに。心残りは確かにあったけれど、それでもわたしは死んだの、死んだのよ。それなのに、ただの好奇心で勝手に眠りから起こされて、全く知らない異世界に放り込まれるの? ……返してよ。わたしに平穏を返しなさいよこの馬鹿ぁっ!」

 彼女はフィレルの胸倉をつかみ上げた。

 その赤の瞳には、凄まじいほどの怒りが燃えている。

「いったいどうしてくれるのよ! 責任取りなさいよねあなたっ!」

「え、でもどうすれば……」

「そんなの自分で考えれば! どうしてわたしが考えなくちゃいけないのっ!?」

 怒り狂うフィラ・フィア。その怒りももっともだと思うから、流石のファレルも彼女を止めない。

 はぁ、と彼は二度目の溜め息をついた。

「人間好きな闇神さまがこの様を見たら笑うだろうねぇ。人間はなんて愚かな種族なんだ、ってさ。僕だって怒る時は怒るよ? ああフィレル、君は決してしてはならないことをしたんだ」

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