Epilogue:僕は幸せになってはいけない

◇Epilogue


『幸せになる権利は誰しもが持っている


 果たして本当にそうだろうか。


 例えその権利があったとしても、


 使えない人、そうなれない人、満たされない人が多いのではないだろうか。


 僕はどれだろう。


 どれでもある、そしてどれでもない。


 僕は幸せになってはいけない、そしてなる気もない。


 なることは許されないのだから』









 ――二〇××年・未来――



 海がよく見える丘の上に広がっている墓地。墓石に水をかけ、線香を上げ、女性は静かに手を合わせた。何度訪れても目に涙は滲む。指先で目の縁をなぞってから、左手の薬指に光る指輪を見つめた。


「……ごめんなさい」


 再び手を合わせずにはいられなかった。墓石の前で、何度も女性は頭を下げた。止まらぬ嗚咽。誓ったのに、この指輪を嵌める前に、何度も言い聞かせたのに、まだ、本当の欲望を捨て切れていない自分が憎くてたまらない。


 一番好きな人とは結ばれないほうが幸せになれるの。


 背中を丸めながら女性は丘を下り始める。一度足を止め、まだ涙で濡れている眼で振り返ると、墓石も同じように、涙を流している気がした。






 Crystal:Episode three……


 ――A kindly boy held a storong girl.―― END

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水晶因果物語:強がりな少女を優しい少年は包み込んだ 柳生隣 @rin-yagyu

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