◇17.奇妙な二人の語らい②
ゾッとしていないふりは出来ただろうか。
掴んだ
「誰が言ってたのそれ」
「
一度深呼吸をし、仁子は航の目を見つめてきた。
「ごめんなさい。嘘。その時だけじゃない。何となく気になる節はあったわ。
不安気に眉を潜めても仁子は美しい。頷くことはしない代わりに、航はきちんと仁子の目を見つめ返した。
「その時が、くるのかもしれない。この
「私、知りたいの」
一瞬にして、仁子の両目は憂いを帯びた。漏れ出た声にも、熱が絡んでいる。
「五十嵐くんのこと、護りたいの。だからこそ知りたいのよ」
「仁子ちゃんはさ、
仁子の目がはっと大きくなった。航の質問は想定外だったようだ。沈黙が続いたのち仁子は唇を震わせた。
「ダメよ。だって違うもの。違うって分かっちゃったの。先輩に対するのと、五十嵐くんに対する気持ちは全然違う……好きなの。私、五十嵐くんのことが凄く好き……」
こんなに甘くて切ない顔をするほど仁子に想われていると知ったなら、優はどんな反応をするだろうか。仮に仁子でない女性から想われとしても優は頭を抱えるだろう。
ガソリンスタンドの呪縛、
航は優について口を割ることは選ばなかったが、脳裏にふと浮かんだ古びた訝し気な本と、千切れたページについて切り出した。
「ブックのあのページを破ったの、仁子ちゃんだよね」
深く説明せずとも通じたようだ。二度頷いて、犯人だと仁子は認めた。
「未来を見据えることが出来る
「そうよ。あれを見た瞬間、五十嵐くんの姿が過った。嫌だと思った。絶対にその過去の因果は辿らせないって感情的になってしまったの……知ってたのね」
「うん。第二の物語の
「赤は、本当に、嫌な色だわ」
「仁子ちゃんは、どうして赤が嫌いなの?」
聞かなくてもいい、答えは分かっているのに、だが、航はそう問うた。
「嫌な思い出があるからよ」
躊躇いなく、あっさり仁子はそう答えた。当たり前の、思った通りの回答だった。
優の姿が、昔のあの姿が、航の脳内を駆け抜けていく。
「一番初めに聞いたフォールンのgame導入時の話をこの前思い返していたの。皇帝クリオスが初めて見つけた強い赤色に輝く
「ただ?」
「デッドを封じ込めたのは、アライブではない気がするの。覚えてる? 最後、Crystalを持つ人間のひとりが、ブックの表紙から伸びあがってくるデッドの手を滅ぼすために刃物で滅多切りにしたって。フォールン、どうしてそう表現したのかしら。アライブが封印したのならそう言えばいいじゃない。でも、そう言わなかった。だから、最後にデッドを封印したのは別の選ばれし者」
「まさか、アライブも死んだって? それじゃあ、封じ込めたのは優くんの過去の所有者……?」
「と、思いそうになるわよね。けど、デッドに殺された彼には、そのタイミングでデッドをブックに葬ることは不可能なのよ。伏せられていることや明確になっていないことがまだ存在する。だって腑に落ちないもの。私は、デッドはとっとと私達のことを殺しにくると思っていたのよ。けど蓋を開ければgameの中身は違う。このgameを利用して、私達を苦しめている。デッドの真の目的が何なのか、私にはよく分からない。あと感じている違和感と言えば、
それは仁子だけでなく、Memberの誰もが感じている違和感だ。途端にDark R戦がフラッシュバックする。
「白草くん、分かっている感じだったわ。第二の物語のDark R戦の最後に、小宮くんが私達のところにきてくれるって」
航の考えていることをまるで読み取ったかのように仁子はその時のことを口にした。
「小宮くんが到着するほんの少し前に、白草くん、海の中から砂浜のほうに向かってDark Rにばれないように動いてたの。不審に思ったのよ。そしたら小宮くんがきた。そしてあのラストへと導いたの」
「そうだったんだ。やっぱり賢成くんは、知り得ていることが相変わらず多すぎるね」
「敵だと思いたいわけじゃないわ。ただ、仲間に対して角を立てることも多いでしょう。特に新堂くんには。それに、小宮くんが到着する直前に、Dark Rが、新堂くんに叫んだのよ」
「何て?」
「“今こそお前が復讐する絶好の時だ! あの宮殿事件へな!”って」
航がDark Rの戦場に辿り着いた瞬間、見えたのは因果を辿る最悪の構図だった。ブルーガンの銃口を逃げる術のない
「ちょっと待って、じゃあ、どうして翼くんはあんなに賢成くんに対して嫌悪を示してるの。優くんや杏鈴ちゃんに対する態度のほうがひどかったらDark R、いや、Dark Rを通したデッドの言葉に納得がいくけど、どう考えても翼くんが好んでないのは賢成くんだよ。賢成くんに対する復讐なら、変な話だけど意味は全く繋がらないわけじゃないって思う。けど……」
「そうよね。そこから私、思うんだけど、全体的にそんなに良好じゃなかったんじゃないかしらって。過去の選ばれし者達同士の関係って」
「そんな、仲間なのに」
「憶測よ。けど、元は仲間であったはずのデッドが闇に堕ちた原因は嫉妬と憎悪よ。人間誰しもが持っている感情で、その感情は、ひょんなことでコントロールができなくなったりする。私も、この前の
「もしかすると、賢成くんは、誰よりも早くそれに勘づいていた。もしくは現在進行形で勘づいてるって言う可能性も」
「あるわ。むしろ、そうであってほしい。本当にデッドの遣いだったら悲しいどころじゃ済まないわ。特に、
仁子のマーメイドの爪先が、ベッドサイドのアンニュイなライトを反射し輝いた。
「だから小宮くんも、如月さんからあんまり目を離さないであげて。もっと自信持ちなさいよ。如月さんのこと操作できるのは、彼女を一時的に満たすあんな男達でもなく、私達他のCrystal Memberでもなく、小宮くんだけだと思うわ」
「操作? できてないじゃん。できてないからこんなことになってるんだよ」
「小宮くんがそう思い込んでるだけよ。私から見たら十分操作できてるわ。きっと他のMember達もそう思ってるわよ。難しいかもしれないけど、如月さんがKになるのを阻止出来るならしたい。彼女煩悩だらけだから、こう言う時こそ狙われやすそうじゃない」
「その通りなんだけど、当の
「毎日こうやってつけてみるのはどう? 彼女の様子も同行も毎日気にかけれるじゃない」
「いやいや無理無理! 仁子ちゃん俺を何だと思ってるの! 生活あるからね!?日常あるからね俺にも! 暇人じゃないからね!」
「冗談よ。けど、毎日
分かってるでしょ、と言わんばかりに航に目配せすると、仁子はスッと立ち上がり、化粧台のところにあるポットに、備えつけのペットボトルの水を注ぎ始めた。
仁子の今日の追跡行動は単なる思いつきのおふざけではなかった。優のことを筆頭に話したいことや気になることはあったにせよ、何より仲間として、航と梨紗の間柄を心配し、航の背を少しでも押そうとしてくれたのだ。
「仁子ちゃん」
航が呼びかけると、湯のみを二つ手にした仁子が振り返った。
「優くんは、死なないよ」
深くはやはり述べられない。だが、この場で出来る精一杯のお礼を、航は仁子にしたいと思った。
「死する因果がどれほどに色濃くても、彼はその因果に必ず勝つよ。彼は勝ち続けるしかないんだ。生きなければいけない使命があるから」
「……熱い心を持つだけあって、さすがの暑苦しさね」
そのジョークは仁子の心にほんの少しばかりかもしれないが余裕が出来た証だと思う。
仁子が淹れてくれたお茶を啜りながらしばし談笑したのち、航はいつの間にかソファで寝落ちていた。起き上がると
梨紗を救うには――思い馳せながら仁子が目を覚ますまでの少しの間、ソファに凭れて航はぼんやり床を見つめていた。
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◇Link◇
https://kakuyomu.jp/works/1177354054881417051
・EP1:※◇12
・EP1:※◇13
・EP1:※◇24
・EP1:※◇25
・EP1:◇29
・EP1:◇31
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・EP2:◇15
・EP2:◇29
・EP2:◇33
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