五話 「応援」
「ははーん、やっぱりね」
パソコン画面の右下にあるデジタル時計の日付が変わる頃、
昨日までトップページのランキングにあった『LOVESONG』のペンネームと作品が、ともに消えているのだ。
恋歌は冷めた笑みを浮かべて『LOVESONG』のマイページを開いた。
マイページでは、自己紹介やSNSのアカウントを載せることができる。
作品の管理、他の作家や読者と交流できる自由帳、レビューを送った作品一覧などかなり使い勝手はいいほうだと恋歌は思っている。
公開している二作品のレビュー欄をチェックした。
昨日まで読み専門のアカウントが「イイネ」マークを付けてくれていたのだが、綺麗さっぱり消滅していた。
三ケタを超える「イイネ」マークが削除されれば、当然ランキングから一気に急降下する仕掛けである。
しかもそれらのアカウントもすべて消滅していた。
完全な嫌がらせであった。
ショックではない、と言えばウソになる。
恋歌だって予期していたものの、ここまであからさまに攻撃を仕掛けられるのは不本意である。
だからといって運営管理する本体へ苦情を申し立てたところで、回答は決まっている。
「すでにアカウントが消されており運営サイドでは何も対応できない」主旨の無機質なメールが送られるだけだから。
それにしても、と恋歌は机の上に両肘を乗せ、手のひらにシャープなあごを乗せた。
ランキングのために小説を公開しているわけではないけど、不愉快なのは確か。
いったいどんな理由で仕掛けてきたのか、知りたいとも思わないけど、ネットでの洗礼ってことかしらね。
これからの時代、紙の小説ではなく、こうした電子媒体での書籍が一般に広がると思ってるの。
だから早めに慣れるつもりで物語を公開したんだけどな。
私の想像以上に面白い世界だわ。
それにシロウト作家とはいえ、中には書籍化してもおかしくない、いえ、絶対に紙の本で読みたい物語を書いている人も大勢いるわ。
だから私はそういう物語にレビューを送り、作家さんとも交流してるのだけど。
それにしても、こんなにランキングがジェットコースターだとは予想外よ。
さすがの『LOVESONG』もちょっぴり落ち込んじゃう。
恋歌は桃色の唇をとがらせながら、液晶画面を指先でつついた。
「まさか、とは思いたくはないけどなあ」
恋歌はもう一度ホームページのランキングを確認する。
週間ランキングトップには、『サザンクロスから届いた光でラブコール』と意味を考えるのに少し眉根を寄せるタイトルと、『
新学期そうそうにクラスメートから一緒に応援しようと誘われたことを思い出す。
『城ノ内イリア』、つまり
このサイトに登録したときから、ちょくちょく聞くペンネームであり、恋歌が『LOVESONG』でアカウントを作った直後に、もちろん恋歌とは知らずにだろうけど、マイページの交流欄にいきなり「友だちになって読み合いしましょう」と書かれたことがあった。
恋歌はその物言いが上から目線であったことにくわえ、『城ノ内イリア』の短編を試しに読み、まったく面白くなく肌に合わないと感じたため、返答せずにおいた。
すると、二日後にはマイページの交流欄から友だち云々の投稿が、勝手に削除されていたのだ。
うがった見方をすれば、相互をしない相手とは交流は持たない、と解釈できた。
純粋に読みたい小説は、頼まれなくても読みにいく。
タイトルやあらすじから面白そうな小説を探すのは、宝さがしをするようでワクワクする。
これまでにも何人かの作家から同様の誘いはあったが、すべて断ってきている。
『城ノ内イリア』麻友子はSNSを駆使して自作の宣伝をし、なおかつ相互関係を結んで読者を増やそうと目論んでいるのは明らかであった。
「小説って、そんなことまでして書かなければならないの」
恋歌は同じ書き手として哀しく、虚しさだけを覚えた。
~~♡♡~~
「私よ。
どうやら撃ち落したみたいね。
そう、『LOVESONG』のやつ、今ごろ泣きわめいているのじゃなくて。
えっ?
私のファンが、協力してくれたってことかな。
当たり前じゃない。
『小説ラウンジ』の看板作家である『城ノ内イリア』は、誰にも負けない才能を持った小説家よ。
うん、そうね。
このところPVが少し伸び悩んでいるのは、他の作家連中も同じ。
新作?
もちろんよ。
今プロットに取りかかっているからさ、またすごい物語を公開しますわ。
楽しみにしてて。
ああっ、ところでね、ここからはちょっと面白いことを考えちゃったんだけど。
訊きたい?
実はね」
~~♡♡~~
「広報委員より、お知らせします」
金曜日の終礼後、麻友子が教壇に立った。
「明後日の日曜日ですが、ナゴヤ市スポーツプラザで県内高校弓道部の国体予選が開催されます」
弓道部と聞き、めぐりは横に座る
「わが二組からは、
予定のないかたは、みなさん応援にいきましょう」
おおっ、とか、がんばれ、などの声が聞こえる。
当の孝蔵は正面を見据えたまま立ち上がり、頭を下げた。
そうなんだ。
去年は大会があることは知っていても、クラスは違うし応援に行くための口実がなかったから。
でも今年は同じクラスだし、わたしも応援に行きたいな。
麻友子が席にもどると、何人かの男子が孝蔵の席まで寄ってきた。
体育大会以降、孝蔵はなるべくクラスメートと話す機会を設けようと努力していた。
そのお蔭か、かなり教室ではなじんできていた。
ただきっかけを作ってくれたのは、恋歌であったが。
生徒会と体育委員会合同の会議にクラス代表として、ふたりで出席したことにより恋歌と口をきくようになり、その輪を徐々に広げていったのだ。
めぐりは自席にいると、孝蔵に声をかけにくる他の生徒の邪魔になると思い、通学バッグとポーチを持った。
「お先に失礼します」
孝蔵に頭を下げるが、すでに男子中心に囲まれており、めぐりの声は届いていないようだ。
ちらりと孝蔵の視線がめぐりの姿を捉えようとしたときには、そこにはいなかった。
「
「室長、お先に失礼します」
頭を下げるめぐり。
恋歌も孝蔵の席へ足を向ける途中、「じゃあね、奈々咲さん」と挨拶をしてくれた。
「
もう一度頭を下げ、教室の出入り口前で教室内を向き、「お先に失礼します」と一礼してきびすを返した。
廊下に出ると、待ち構えていたように「ちょっと、ちょっと、えっとぉ、奈々咲さんだっけ」と手招きされた。
数名の女子が固まっており、その中のひとり麻友子が呼んでいるのだ。
いったい何事かと、めぐりは足早に近づいた。
つづく
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