第2話 登校
早朝にもかかわらず、日差しはもう強く照りつけていた。今日も35度を余裕で超えるだろう。
憂鬱だ。靴を改めて履き、ブカブカするズボンで学校の方へ進みながら思う。
もしかして、これは夢じゃないんじゃないか。腕をつねってみると、痛みを感じた。
現実?
最近流行りの小説みたいに、どこか他の世界に来てしまったのだろうか。それとも、オレの意識だけが別次元のオレと入れ替わったとか。
漫画みたいだけど、そうだとしか思えない。
夢説は消えないが、目覚めるまでは確認しようがない。
いやな状況だ。
このまま学校にいってどうするのだろうか?
漫画なら途中で事故に巻き込まれたり、美少女が降ってきたりとかするんだろうけど、今は絶対にそんなこと起きて欲しくない。
早く目覚めたい。
いろんなことを考えながらも、足はいつ戻り通学路を進んでいく。
(あれ?今日は山爺いないな。)
山爺は山田さんちの80くらいの爺さんで、毎朝学校へいく女子中学生を見守ってる。
女子中学生にだけ挨拶をして、男子はシカトするのでみんなから嫌われているが、この地区の有名人物だった。
やはり、ここは現実とは違う世界なのだと思った。
そうして歩いていると、道に立っているおばあさんから「おはよう」と挨拶された。
「おはようございます」
ちゃんと挨拶を返すといい気分だ。
例えこんな世界に来ようとも、挨拶はきちんとしないといけない。
笑顔でおばあさんの横を通り過ぎると、後ろから衝撃があった。
「透!何やってんの?」
振り向くと、おそらく【タニケン】であろう人物がオレにぶつかってきていた。
タニケンは小学生からの友達で、野球部で2年生ながらに4番を務めるスポーツマンだ。しかし、今はバンドのボーカルみたいなキノコみたいな髪型をしているし、何より肌が白い。
お前、真っ黒なのは日焼けだったんだな。お前の肌が白いのなんて初めて見たぞ。
それにしても「何やってんの?」とはなんだ。お前こそ通学途中の人間にぶつかってきて何やってんだ。
「お前こそなんだよ」
やばい、思ったよりイラついた声が出てしまった。
タニケンは驚いた顔をして、声を潜めて聞いてきた。
「なんで【ヤマバア】に挨拶なんかしてるの?」
「【ヤマバア】?」
「山田のババアだよ。いつもシカトしてんのに、挨拶返してるからびっくりしたよ。無視しろよな。あいつ調子乗るんだから」
山田のババア?山田のジジイみたいな名前だな。なんで挨拶してきた人を無視しないといけないんだろう。
「あいつ、毎朝毎朝気持ち悪いよな。しかもかわいい男子にしか挨拶しないし。」
なんと、まさか山爺のババアバージョンだったのか。ってか、かわいいって…。タニケンとは違って筋肉がつきにくい体質なんだよな。まあ、今のこいつには筋肉ないキノコだけど。それに、普段なら朝練でこの時間にはいないはずだ。もしかして、この世界のタニケンは野球部じゃないのかもしれない。
「そろそろ急がないと、遅刻しちゃう」
そう言って走り出すタニケンを、オレも追いかける。
よくわからんが、学校に行くからには遅刻するわけにもいかない。
くそっ、このズボンダボダボしてるせいで足にまとわりついて気持ち悪いな。
変なババアには会うし、同級生はキノコだし、もう散々だ。
女の子の人生って最高でしょ? 高妻ケンコウ @aukarasb
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