女の子の人生って最高でしょ?

高妻ケンコウ

第1話 起床


朝起きたら、違和感があった。

なんか、体がだるいような。熱があるのかな。とにかく、ブブブとバイブし続けるスマホを止めなくては。

顔の横に置いているスマホは手に取ると、赤色をしていた。

俺のスマホカバーは黒だったはず、と思ったが、無意識のうちに指紋認証のところ置いていた指で、ロックが解除された。

俺のスマホ?

ひとまずアラームを解除する。7時だ。起きないといけない。


体をベットから起こすと、自分の部屋だが、知らない部屋にいた。

間取りは同じだ。部屋の大きさも、家具の位置も。だけど、なんというか、かわいい?

部屋に、明るい色のものが沢山ある。

布団も赤に白で星マークがついてる。

姉ちゃんの部屋みたいだ。姉ちゃんの部屋で寝てしまった?でも、ここは俺の部屋だよな。

なんだろう、まだ寝てるのかな。リアルな夢?それならほっぺたをつねってみようか。そう思った時、父の声が響いてきた。


「こらーー!早く起きなさーい!」

やばい、父が起こしに来たということは、母の呼びかけで自分は起きなかったのだろう。

母はいつも7時5分ごろ起こしに来るのに、今日は何かあったっけ?

いや、スマホの時間が正しいとも限らないし。

布団から飛び起き、部屋のドアを開けると、目の前に父が立っていた。


「起きたのね、早くご飯食べなさい」


そう言って背を向け階段を降りていく父に、絶句した。


【 起きたのね。】


なんだその喋り方と声の高さは。オカマか。なんだか髪も長いぞ。襟足より長く伸びて、くるくるしてる。おばさんみたいな髪型だ。ってか、エプロンつけてたよな。父さんが、エプロンつけてた。今日は父さんが朝ごはん作ったってこと?


いや、ここは夢の世界だ。きっとそうだ。変な夢だ。

夢だと思うが、裸足から廊下の床の冷たさが伝わってくる。リアルだ。リアルというか、もはや現実だ。

階段の手すりを触りながら降りるが、この木の触感も本物だ。

こんな夢は初めて見る。不思議な気持ちだ。


リビングのドアを開け、食卓の自分の席に座る。キッチンを見ると、やはり父がエプロンを着けせかせかと朝食の準備をしていた。母はいないようだ。どこに言ったのだろう。


目の前に座り先に朝食を食べている姉は、髪が短いこと以外は普段通りに見える。

いや、いつもより何というか、可愛くないな。ブスだ。姉は友人たちから綺麗なお姉さんとして認識されている。どちらかといえば美人のはずなんだけど、この姉はなんだか、ヤボったい。

わかった。まず髪型が似合ってない。なんだかゴツく見える髪型だ。ボブ?って言うのかな。でもそう言うかわいい感じじゃない。美容室じゃなくて理髪店で切ったような髪型だ。せっかく化粧OKで、ここらで一番可愛いとされる高校の制服を着てるのに、バレー部の女子みたいで可愛くない。

それに、眉毛が繋がってる。

眉毛を抜き、整えることにうるさい姉らしくない。あと、目もまだ二重になってないな。もう7時過ぎだけど、これから二重にして学校に間に合うのだろうか?

そもそも、この夢の世界では学校に行くのか?いつになったらこの夢は覚めるんだろう。


「はい、早く食べて」


父が目の前に朝食を置いた。いつもの母のメニューと違い、ご飯が主食だ。パンよりご飯派の俺にとっては嬉しい。


「いただきます」


ん、俺の声、声変わりする前みたいだ。子供みたい。もしかして、今っていう設定の夢じゃなくて過去の時間の夢なのかな。

今日はいったいいつなのだろう。


「あのさ、今日って」

「ダメよ」


父が低い声を出した。なにがダメなんだ?

食卓に座り父も朝食を食べ始める。こちらを見ないで、話しかけるなという雰囲気を出している。

この父も、見れば見るほど変だ。オカマという夢なのだろうか。

とはいえ今日が何日か知りたいので、話しかけるなオーラに負けず再度質問する。


「今日って、なん」

「透、何回も言わせないで。10時までには絶対帰ってきなさい。」


10時?何のことだ。


「暗くなると危ないでしょ。花火見たらすぐに帰って来なさい」


そうだった。現実の世界で今日は花火大会だった。夢の中でも同じらしい。暗くなると危ないって、女の子じゃあるまいし。

なんと返せばいいものか、困惑した顔をしていると父は文句があると思ったようで、さらに言ってきた。


「お姉ちゃんは、高校生だから遅くまで遊んでもいいの。あんたはまだ中学生でしょ。それに、男の子が夜遅くに出歩いて何かあったらどうするの。10時までには絶対に帰ってきなさい」


男が夜に何があるというのか。というか、今日の花火大会は夜の8時に始まって移動に電車だけでも40分かかるから、花火大会が1時間あったとしたら、終わったらすぐに帰りの電車に乗らないといけない。

それに、去年はそんなこと言われなかった。むしろ中学生になったからと11時近くに帰ってきても何も言われなかった。補導されたらどうしようとヒヤヒヤはしたが、何も危なくなかった。

まるで、女の子に対してみたいなこと言うな。俺ってもしかして女?

下を触るとちゃんとあった。安心した。


まあ夢だしいっか。

よくわからないが朝食に集中する。卵焼きが甘じょっぱくて美味しい。ベーコンのアスパラ巻きも最高だ。父さん、目玉焼きもまともに作れなかったのに、この世界では料理上手だな。


「ごちそうさま」

そう言って姉がリビングから出て行った。今から化粧間に合うのか?

と思ったら、すぐに玄関の方から


「いってきます」


と姉の声がした。

おいおい、そのまま出かけるのかよ。あーあ、同級生に見られたら恥ずかしいな。


「いってらっしゃーい。

透、あんたも早く学校の準備しなさい。」


父に急かされる。確かに、もう7時20分だ。35分には出ないと間に合わない。

ご飯を急いでかきこむ。うまい。朝はやっぱり米だな。


「ごちそうさまでした」


父のご飯をたべれるなど、夢でなければありえないだろう。心を込めてそういった。

さて、歯を磨いて制服着ないと。


「透、お皿」


食卓を離れてリビングから出ようとしたところ、父に呼び止められた。

父が顎を使って、俺の食べ終えた食器類を示す。

【 お皿 】とは、どう言う意味だ?

ハァ?という顔をしていると、父がもう一度言った。


「お皿を片付けなさい」


食器を下げろということか?そんなこと言われたのは初めてだ。母はそういうことを言う人ではなかったが、この夢の中の父は厳しいタイプかもしれない。

それにしても、母はどうしたのだろうか。離婚?オカマと別れた母の気持ちは少しわかるな。

食器を片付けながらそんなことを考える。シンクに運び、たぶんここでいいのかな、という場所に置く。

さて、これでいいだろう。そう思ってリビングを出ようとすると、また声をかけられた。


「お姉ちゃんの分も片付けなさい」


今度こそ、本気でハァ?という顔をしてしまった。何言ってんだ。姉ちゃんに言えよ。なんで俺がしないといけないんだよ。

とはいえ、このオカマの父は謎の気味悪さがある。面倒だが、従った方がいいだろう。

姉の食器を、再びシンクに持っていき、今度こそリビングを出ようとする。


「ちゃんと水につけた?」


なんてことだ、シンクに運んだ食器は水につけないといけないのか。水につけるって、どうやって?ボールに水入れて、そこに食器をつければいい?それとも、シンクに水を貯めて、そこにつけろってことか?

わからないので、勢いよくリビングを出て自分の部屋に入る。

幸い、父からさらに何か言われることはなかった。


なんだ、これ。何が起こってるんだ。変な夢すぎるだろ。あのオカマ怖えよ。

早くこの家から出てしまおう。パジャマを脱ぐ。

このパジャマってのも変なんだよな。いつもはTシャツに短パンなのに。

制服のシャツを着て、ズボンに手をかけると違和感があった。でかいぞ。このズボン俺のじゃない?

壁を見るがほかに掛かってる制服はない。クローゼットも見てみるが、他に制服のズボンらしきものはなかった。

これを履くしかないのか?

足を通すと、やはりぶかぶかだ。長さはぴったりだが、股間周辺がモワッとしている。何枚もズボンを重ねばきしてるようだ。

鏡を見てみるとやはりかっこ悪い。

この夢の制服は本当にこれだろうか。でも、学校のマーク入ってるしな。


「と・お・るーー!!時間よー!!」


オカマが叫んでいる。ええい、とにかく早くあのオカマから離れたい。

学校のバッグを掴み、オレは部屋を飛び出した。


玄関で靴を履いていると、リビングのドアが開く音がした。

まずい、オカマがくる!

中途半端な靴のまま、ドアを開け外へいく。

後ろから「いってらっしゃーい」と声がしたが無視だ。

近所に聞かれたくないから、叫ばないでほしい。


変な夢、変な夢、変な夢だ。

早く目覚めてほしいが、ジリジリと焦げるような夏の日差しを感じて、果たして本当に夢なのか不安になった。

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