仕事終わり ②

けれど、できない事が一つある。



………それは、話しかけるという行為。



せっかく隣にいるのに、話しかける事すら出来なくて。


代わりに、彼がコーヒーを頼めばカフェオレを、反対にカフェオレを頼めばコーヒーを注文するだけ。




あぁ、どうしてこうなんだろう。




普通に


「天気が良いですね」の一言でも話せばいいのに……………。




それが出来ないから毎日カフェに来てしまう。



一目でも彼の姿を見たいから。




話しかけることも出来ないのに、一年も彼を好きでいれるのはきっと───




彼が優しいからだろう。




「どうぞ、ごゆっくり」




香ばしい香りと共に運ばれてきたコーヒー。



一口飲もうとした。





その時だった。





スッ────



そっとミルクを一つ、カップの近くに置かれたのは。



ほらね、無言の優しさ。



本当は私、ブラックでなんて飲めないもの。




彼はいつ知ったのだろう。



静かにミルクをカップに注ぐ。




嬉しい。




私の存在を彼が知っている事が。


その優しさが。




───あぁ、やっぱり好きだなぁ。



「……………美味しい」


「良かったですね」





ふと洩れた一言に、彼は隣で微笑んでいた。

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隣の席 杏堂 水螺乃 @mirano69

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