第三話
詳細を伺うため、指定された時刻より少し前に
主殿寮までお迎えに来てくださった使部の方にお礼を申し上げ、集合場所の広間で待機する。
雅楽寮には仕丁がいないため、使部の方が直丁の方とともに雑用をこなすらしい。
「……ふーっ……」
まだどなたもお出でにならないのをいいことに、じんわりと体に溜まった疲れを出すように、深く息を吐く。
北の主殿寮から南の端にある雅楽寮まで、
歩いていた際、南の
雅楽寮までもうすぐという安堵から気が抜けそうになり、慌てて気を引き締めた。
表情には出ていないはずだが、愉快そうに口の端を上げられた義兄上には、お見通しだったのだろう。
17歳になられた義兄上は背が伸び、ますます逞しくなられた。
寛正殿を見上げた時と角度が似ているため、
先日、義兄上に確認申し上げたところ、寝ていても骨がみしみしと音を立てるとのこと。
(……
考えこんでいると、次第に人が集まっていらした。
ひとりひとりにご挨拶申し上げ、全員が揃うのを待つ。
「鬼武者殿」
声を掛けられ、そちらを向く。
初昇殿以来、半年ぶりにお会いする鶴千代殿だった。
「鶴千代殿。ご無沙汰しております」
「こちらこそ。なかなかお会いできませんね」
「誠に」
鶴千代殿の預かり先、左兵衛府は、内裏から陽明門に向かって
お互いの部署の管轄が違うからか、同じ東側の区域でありながら、すれ違うことすらなかった。
9歳になられた鶴千代殿は、与えられた仕事を、責任を持って取り組んでいらっしゃるのだろう。
「凛々しくおなりですね」
「そうですか?」
「はい。大人の表情をなさっていますよ」
やはり、親のような心境で見てしまう。
「鬼武者殿にそう言って頂けると、嬉しいです」
挨拶に始まり、そこここでしきたりに触れる機会があると、嬉しそうにお話しくださる。
喜色満面で、ふりふりしているしっぽがあるように感じられる。
身内ならば頭を撫でられるのだが……残念だ。
鶴千代殿の朗らかな様子に、周りの方々も温かな眼差しを向けられている。
後からのお話では、その眼差しは、相づちを打つ私にも向けられていたらしい。
〔注釈〕
雅楽寮:様々な公的行事で雅楽を演奏すること、また演奏者を養成する部署。
美福門を警護:左衛門府が警護を担当。
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