第4話 さて、そろそろ本題といきますか。
さて、そろそろ本題といきますか。
いくら暇だったからって、悪魔召喚しといて眺めて終わりって馬鹿もおるまい。
異界の存在を呼び出したからには、当然、こちらとしても要求がある。
「でだ、ゾフよ」
飼い主に呼ばれた犬そのものの動きで俺を見上げる。
「悪魔っていうからには、できるんだろ」
「なにをだ?」
「その、魔法とか、超能力とか、呪いとか、そういう超常的なやつ」
わうっ。
今、慌てたよなこいつ? 完全に、焦って目を剥いたよな??
「……もしかして、できないのか?」
「そそそそ、そんなことない、ないぞっ」
世界有数の信頼感のなさ。
「じゃ、何ができるんだ?」
「がうっ」
絶望感ある吠え方したあと、ダラダラ汗かきながら目を泳がせる。
やっぱこれ、相当低級なやつだな? なんならインプとか以下だな??
「……だっ、えっ、と、とにかく! あるなら言え! 願いごとだろ!?」
噛みつくように、すがるように。
言葉の強さの割に、目に宿る許してくださいオーラがハンパない。
「……まあ、そりゃ願いごとくらいあるが」
「言えっ。言えっ」
うーん、なんというか、あまりにも心許ないぞ。
まあいいか。どうせ、激安イチゴ1パック298円しか元手かけてないんだし。ダメ元ってやつだ。
「あー。実はだ。今俺、働いてない」
「わう?」
「クッソムカつく客が来たから正論で罵倒したらクビになった」
ゾフが、俺の目の奥を覗き込むようにじっと見つめる。
「主、じゃあ、無職か」
改めて、学生風情の低級悪魔に言われるとグサっと来るな。
「まあ、そういうことになるか」
「じゃあ、その客を殺せばいいか?」
得意だぞ、とばかりに目を輝かせるゾフ。
悪魔らしいところは評価するが、いや、そうじゃない。
「気持ちは晴れるかもしれんが、殺したところで俺の無職は変わらん」
「わう? じゃ、何がしたいんだ?」
「金か、仕事が欲しい」
ゾフは首をかしげてしばらくきょとんとしていた。
「金……仕事……」
びょこん、とゾフの両耳が立ち上がる。
「わかった! その客を殺して、金を奪うんだな!」
「頼むから殺しから離れてくれ」
しゅん、と耳が萎れた。
「やっぱり……無理か。ゾフには」
そそそ、そんなこと、とゾフが言いかけたところで、洗濯機がピーピー鳴った。
乾燥機つきのやつだから、ゾフの服が乾いたってことだろう。
悪魔の服がタンブラー乾燥不可なのかどうかわからなかったが、タグ付いてないほうが悪い。
めっちゃ縮んでたら笑えるな、と思ったが、ゾフの服はわりといい感じにふんわり洗い上がっていた。
「なんか、主、熱っ、あっちいぞ、オレの服」
だろうな、とだけあしらって、着替えたゾフを改めて眺める。
目深に被ったフードと、コートの長い裾で、耳とシッポがちょうど隠れてる。
これならまあ、外に連れ出してもギリ問題にはならんか。
まあ、耳とシッポが生えてるくらいじゃ、昨今の東京で騒ぎになるとも思えんが。
「要するに、だ」
「なななな、なんだ!?」
「ゾフには、主人の願いごとを叶える力はない、と」
ギョワ、だかギュエ、だか、圧死したカエルみたいな声を出して硬直するゾフ。
ぶるぶるっと身震いしたかと思うと、びょんと天井近くまで飛び上がった。
「金と仕事だな! わかった。オレについてこい!」
飛び上がった勢いのまま、突進するように玄関を飛び出していく。
あ、これ、もしかしてだいぶヤバいやつ?
とりあえず、飼い主の責任として、鍵とiPhoneと財布だけ持って俺はゾフの後を追った。
イチゴで簡単! 低級悪魔の上手な飼い方 栗印 緑 @souzo17mm
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