第3話 まあ、せっかく召喚したわけだし。
まあ、せっかく召喚したわけだし。
異世界の住人が俺に忠誠を誓うって言うなら、やらせてみたいことはいろいろある。
とりあえず、初仕事として汚した床をゾフに掃除させてみることにした。
もしかして魔法一発でガツンと解決したりしないか、なんて期待したが残念。
蛇口ひねって雑巾濡らして絞って普通に拭いてる。
一応、日常生活する上での常識は持ってる、ってことだろうか。
そうこうするうちに、床はきれいになった。
まだ少しだけ生臭い気もするが、換気し続ければどうにかなるだろう。
雑巾を洗うゾフに、俺は声をかけてみた。
「ところで、なんなんだ、この臭い紫のヤツは」
「ニクの、もと」
なんか気持ち悪いこと言いだしたぞ。
絞った雑巾を流し台に掛けて、ゾフは俺の向かい側に座った。
「なんだよニクって」
「オレの身体を作った材料」
俺の長袖シャツを着た悪魔は、袖をだぶつかせたまま、犬のおすわりポーズで座っている。
「……つまり、ゾフはまさにさっき『生まれた』ってことか?」
「そうとも言えるし、そうでないとも言える」
もしかして、めんどくさいやつか、これ。
「でもさ、身体がさっきできたってことはさ」
「その前から、オレはずっとあそこにいた。生まれてなかったわけじゃない」
「あー、そういうアレか。んじゃ、さっき受肉した、の方が的確か?」
こくこく、とゾフがうなずく。
それから少し話して、何となくだが言いたいことは分かってきた。
死後の世界か、魔界か、地獄か。
何とでも呼べそうだが、とにかくゾフはその手のとこから来たらしい。
もうちょい言うと、俺が引き上げてやった、ということになる。
そう言えば、召喚されたあと「助かった」なんて言ってたな。
受肉できてよかった、ってことなんだろうか。
「悪魔って言えばさ、ほら、色々いるじゃん、有名なのが」
「?」
「ルシファーとかメフィストとかアスモデウスとかベリアルとかさ」
おお、縮み上がるってのは、こういうのを言うのか。
目は見開いて身体は硬直して、耳が後ろにぴったり倒れちゃってる。
シッポなんか、お手本みたいに股に挟まってるぞ。
あ、両手の爪が床板引っ掻いてる。敷金終わったなこれ。
「そういうのが出てくるんだと思ってたんだが」
ぶんぶん、とほんとに音が出そうな勢いで、ゾフが首を振る。
「そそそそんな怖いの、無理だ、オレ考えるのも無理だ」
へえ、悪魔も悪魔が怖いのか。上司とか社長みたいな感じか?
「じゃあ、ゾフの前世はなんだったのさ」
「たぶん……オオカミだ」
ふん、と鼻を鳴らすゾフの尻尾がパタパタと振れる。
いや、この感じはどう見てもイヌだろ、と言いかけて、やめておいた。
なんか、唯一の心の支えっぽいし。ぽっくり折ってもいいことはなさそうだ。
でも、イヌとかオオカミとかも死んで地獄に落ちたりするもんなのかね。世知辛いな。
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