関根雫石の場合
彼との出会いは運命そのものだ。しかし出会いや彼との関係、そんなものを語る気は無い。僕の心に刻みつづけるのだ。
この僕と彼との物語にはセリフや心理描写は要らないだろう。セリフや心理描写などを語るならそれは僕のでは無く彼の物を語るべきだ。
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2013年 5月
僕の通う私立高校は大型連休開けである今日は確認テストなる全五教科の小テストをやる。成績にはあまり関係がないと先生、生徒含めみなが言うが大型連休中どこにも行かずに家で勉強していた生徒は僕を含め全校生徒の八割を越えるだろう。
そんな僕らを嘲笑うかのように彼は現れた。クラスの中でも活発で勉強よりも恋愛や遊びを優先するようなグループの人たちの輪の中に入ってゆく彼は、男女問わず目を引く。白髪、白眼の彼はグループ内での談笑を一頻り終えると僕のところへやって来た。その距離は僅か数十メートルのはずなのに僕には彼がもっと遠くへいてるような気にさせられる。
「昨日のあれ、あいつらには秘密な?」
語尾を少し上げ小首をかしげながら僕に話しかけてくる君の声を聞いてなぜか僕は胸が高鳴る。
「わぁーてるよ、そんなの言えるわけねぇーじゃん」
僕は出来るだけ普通に、彼らが話すかのように、男子高校生が話すであろう言葉づかいで返す。
「悪いな またジュースでも奢るよ」
「え、要らねぇよそんなの俺がお前に奢らせてるみたいじゃん」
「あっそ」
彼がいつものグループへ帰って行く。お前フラれてれてやんの~なんて声がするがそんなものは僕の耳には入って来ない。
昨日の帰り僕は彼が倒れてるところを発見した。彼が持っていた薬を飲ませたらよくなったみたいだけど正直薬一つで彼が元気になったとは思えない。もしかしたら彼はいまもがまんしているのかも知れない。彼の薬はただのビタミン剤なのだから。
昨日彼が去ったあとに彼の飲んでいた薬が落ちているのを僕は見つけてしまった。六つで一つのまとまりにってる薬、その一つは彼に飲ませたから無くなってしまっている。薬を置いとくか悩むまでもなく拾い彼に返すために家に持ち帰る。次の日に返せば良いだろうと思っていた。
問題はその夜だ、無性に彼の飲んでいた薬を飲みたくなった。人の薬を勝手に飲むのは薬物乱用だとテレビのコメンテーターが言っていた。それに彼の薬はぶっ倒れた彼を復活させたのだからきっときつい薬に違いない。しかしもう自分を止める事は出来なかった彼が飲んだ隣の薬を取り出し自分の口の中に放り込む。
十分、二十分と待つが効果は現れないきっとビタミン剤だったのだろう。
小テストたちが終わり他生徒が下校しているなか自分は彼をつけていた。理由は無い。なにも考えずにだだひたすらに歩き続けいるつもりだったが彼の白銀のような髪から目が話せなくなり彼の少し低めの声が耳にこびりつくそんな時間を過ごしていたらいつの間にかつけていた。
途中で僕がいかに狂ったことをやっているかに気づきその日は家に帰った
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2013年9月
あの日から長い長い時間がたった。僕は自分を抑えることが出来なくなり6月には彼の連絡先、SNS、住所、人間関係を全て調べ上げ7月には彼を撮るためにカメラを買い、彼が捨てたゴミを拾い、夏休みに入ってからは真っ黒だった自分の髪の色を彼との同じ白に変え目には白色のカラーコンタクトを入れていた。夏休み中彼のことを見ていた僕は見事学生からストーカーへとジョブチェンジすることができた。
9月、学校が始まって二週間ほどたった今日もこのノートをつけている。このノートは彼と僕の友情そのものだ。壁にぎっしり張られた彼の写真はすでに天井にも進出し、同級生が流行りの音楽を聴きながら勉強するように僕は彼の低い声を録音したものをスピーカーで流しながらノートにペンを走らせる。
その時だった不意に誰かの視線を感じて振り向くその先には彼がいた。
僕が近づくにつれかれもほぼ同じペースで歩いてくる。数十メートルすら永遠に思えた君との隙間が今までに無いスピードで近づく。お互いが手の届く距離に着くと彼がおもむろに手をこちらに出してくる。五月以来一度も触れなかった君に触れる。五月のあの日より少し冷たい君の手を僕は掴めない。僕は彼を愛していた友情との愛や家族との愛恋人との愛、このすべての薄っぺらな愛よりももっともっと深い愛を君に捧げていた。
そして気づく僕なんかが君に触れてはいけないことに。僕は君に気づかされてばかりだ始めあったときもそうであったように。さてこの君に触れてしまった手は、君の声を聞いたこの耳を、君を真似たこの髪と目を、何処かの宗教では御神体に触れた部分を切り落とすらしい。僕に他の選択肢は無い。僕は机の上に置いてあるハサミを持ち髪の毛を落とす出来るだけ不恰好に君から遠ざかるかのように。次は耳だ耳を落とした血が吹き出る。これだけで良いのだろうかいやまだだ耳の穴の形を潰し次は右手にハサミを刺す。もう一生物を握れないような右手になったのを確認してハサミを抜く赤い血とハサミの織り成す反射と吸収の美しき光景を最後に僕の右目から視力は失われた。
ふと最後に君の顔を見ようと思った。今から僕は左目の視力も失うだろう。ハサミを構え彼の前に立つ。
『刺す瞬間に前を見てよ』
君がそういった気がした。最後の力を振り絞り腕を過去一番のスピードで僕の左目に近づける。キラキラした赤色の宝石が近づくと同時に僕は顔を引く。最後に見るものが君であるように最後に感じる物が君であるようにと願いながら。
しかし最後に見たのは赤色のドレスを身に纏ったひび割れた僕だった。壁一面には僕の写真が貼ってありスピーカーから流れる音は何処か聞き覚えのある高い男子高校生の声だった。
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彼(?)の場合
あと二人、彼女を救うためにはあと二人そう呟きながら暗い路地裏を歩く。白色の髪をなびかせる彼の右手には四つで一つまとめられた薬が握りしめられていた。
大通りにでた彼のその人工的な朝に彩られた白眼は無い物ねだりをする子供のように東の空を見上げていた。
本物の虚像 櫻木奏者 @takutoact
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