真面目過ぎた性格が災いして僻地へ飛ばされてしまった、町奉行の暖才善右衛門。新たな赴任先は人っ子一人いない山奥の宿場町。しかしそこには人の代わりに妖怪たちが暮らしていた。突然妖怪を目の当たりにし唖然とする善右衛門だが、さらに化け狸に狐たちとの間で起きた諍いを裁いてほしいと頼まれて……。
なんといっても本作は登場する妖怪たちが可愛らしい。狸や狐が人間に変化し、時にはモフモフな獣の姿で、巧みに術を使って善右衛門の世話を甲斐甲斐しく焼いてくれる。
とことん真面目な善右衛門は、人間ではなくても町の住人である妖怪たちの住みよい町を作ろうとしっかり仕事をする。こうした妖怪たちと善右衛門の交流がとっても心地よく、読んでいてほのぼのとした気持ちになれる。
また、妖怪たちが事件を起こした際には、力尽くで成敗するのではなく、しっかりと理を説いて、人も妖怪も納得するしかない沙汰を下す名奉行っぷりが実にお見事。
あやかしものが好きな読者に自信を持って薦められる一作だ。
(「様々な妖怪変化」4選/文=柿崎 憲)