第34話 事の次第、事の真相 その2

 善右衛門がなんとも言えない溜め息を吐く中、けぇ子の説明が続けられていく。


「狐達の仕掛けた事件が空振りに終わる中、権太さん達の体に残っていた善右衛門様の残り香に惹かれた八房ちゃんが善右衛門様の下へとやって来ました。

 私達と出会った頃の黒かった八房ちゃんですが……あの時は神格を失いかけていて、零落してしまう、すんでの所だったんだそうですよ。

 そんな半ば諦めかけていた所に、善右衛門様の気配、残り香をまとった権太さん達が現れて……それで八房ちゃんは、善右衛門様に会う為に権太さん達の後を追いかけたんだそうです。

 そうやって善右衛門様の下へとやって来て……善右衛門様の庇護と乳母の愛を受けながら力を取り戻していたら、善右衛門様が神社に仕掛けられた呪陣を祓ってくれて、その上八房ちゃんの元気の源である善行を当たり前のようにしてくれて……そうやって八房ちゃんは力を取り戻し、元の姿……白毛の姿を取り戻していったんだそうです」


 けぇ子がそうやって説明をしていると、ようやく作業が終わったのか八房が善右衛門達の前へとやってきて……その通りだと言わんばかりに、


「ふーわぁん!」


 と、一鳴きする。

 そんな八房を見て小さく微笑み、その鼻筋をそっと撫でてやりながら善右衛門は口を開く。


「……なるほどな。

 呪陣を祓っただとかどうとか、全く覚えの無い話については……まぁ、今は置いておくとしよう。

 それで……そうやって力を取り戻していく八房を見て焦った狐達がこんな訳の分からぬ事をしでかした、という訳か?」


「はい、その通りです。

 どんどん力を取り戻していく八房ちゃんを見て気持ちは焦るものの、これといった手立ては無く……それでもどうにかしようとして、妖力を使いお江戸まで駆けていって、お江戸の刑場、墓場からしゃれこうべを盗み出しまでして善右衛門様の過去を、汚点を探ろうとまでしたけども全くの空振り。

 仕方なしにこんな空間を作り出し、善右衛門様を捕らえ、精神的に追い詰めるという実力行使に出たものの……善右衛門様の様子を見るにそれも空振りに終わってしまったと、そんな所でしょうね」


「大体の事情は分かった。

 ……で、八房のこの姿は一体どういうことなんだ? 俺がここに居る間、外では何があったのだ?」


 と、善右衛門がそう言った折、けぇ子がそれに答えを返すよりも早く、八房が口を開き……細く高く美しい女のものと思われる声で言葉を発する。


『そちらについては八房の方から説明させてください。

 八房はなんとも情けないことに目の前で善右衛門様が闇に飲まれたのを見て焦ってしまったのです。

 焦ってしまい慌ててしまい、そうやってけぇ子さん達の下に駆けていって……どうにかしなければという気が逸るあまりに、力を取り戻そうと、兎に角善右衛門様をお救い出来る所まで神格を取り戻そうとけぇ子さん達の力を吸わせて貰おうなどと考えてしまって……そうしてけぇ子さん達の尻尾に噛み付いて、吸い付いてしまったのです。

 そんな八房に対しけぇ子さんとこまさんは、八房がそうするには事情があるはずだと、抵抗すること無く、振り払うこと無く受け入れてくれて……そうしてけぇ子さん達の力を吸った八房は、一時的にではありますがこの姿を取り戻すことが出来たのです。

 そしてそのおかげであのひびを作り出すことが出来、ここに来られたと、そういう訳なんです』


 善右衛門は、まさか八房が言葉を話すとは……と驚きつつも、そうでなければけぇ子がここまで細かい事情を知ることは無かったかと納得し……そうして八房の鼻筋を何度か撫でてやり、胸元に張り付いたままのけぇ子とこまのことを撫でてやる。


「俺が奴らに捕まってしまったばかりにとんだ世話をかけたな。

 おかげで助かった。皆……有り難うな」


 けぇ子とこまと八房に向けたそんな善右衛門の言葉に、けぇ子達三人がそれぞれに目を細めていると、そんな善右衛門達の前方の暗闇がゆらりと歪み……そこに一人の男が姿を現す。


 その男は先程善右衛門に言葉を浴びせかけていた者達の一人……件の商家の跡取り息子であり、その姿を見た善右衛門は、けぇ子とこまを『不覚です、力を吸いきれていませんでしたか』と呟く八房の背に預け……そうしてから刀へと手をやる。


 そうやって刀を抜き放つ善右衛門と、鼻筋に皺を寄せてぐるると唸る八房と、八房の背の上で両前足と尻尾を振り上げて戦闘態勢を取るけぇ子とこまを睨みつけた男は、憎悪と悪意をその顔いっぱいに浮かべて、大声を張り上げる。


「ふざけるなよ、ふざけるなよ……暖才善右衛門!!

 この男の記憶は確かに言っているぞ、己は無実であると、無罪であると、一切の罪は犯してはおらぬと!

 無実の者を誤り裁いた貴様が正義であるものか、真神の力の源であってたまるものか!

 我らの試みは無駄では無かった! 空振りなどでは無かった! 我らは成功したのだ、勝ったのだ!

 神の座から落ちるが良い! 真神!! 落ちて九尾様復活の贄となれぇぇ!!」


 そんなことを言うその男を見やりながら善右衛門と八房は、二人同時に口を開き、二人同時に言葉を返す。


「……その男が無実? お前は一体何を言っているんだ?」

『……その者が無実? 貴様は一体何を言っているんですか?』


 そんな善右衛門と八房の言葉に、男はその顔を一層酷く歪めて、


「ふざけるな!!」


 と一言、絶叫するのだった。


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