第27話 しゃれこうべ


 やれやれと溜め息を吐く善右衛門と、元気に駆け回る八房が町中の見回りを続けていると、そんな善右衛門達の視界に前方から駆けて来る三人の男達の姿が入り込む。


 それぞれ微妙に柄の違うねずみ色の着流しを着て鼠耳、鼠尻尾を構えたその男達は、人の姿に化けた権太、権郎、権三であり……八房を拾って来て以来、町に住み着いていた権太達は、そんな姿に化けながら御用聞きの真似事をして、善右衛門を手伝っていたのだ。


(確か今日は山中の見回りをしてくると言っていたが……あんな風に駆けてくるとは山中で何事かあったか)


 と、そんな権太達の姿を見て訝しがる善右衛門。


 そうして善右衛門がその何事かに備えて身構えていると、善右衛門の下に駆けて来た権太達は、善右衛門に何かを言うよりも先に八房の方へと駆けて行って、その場にしゃがみ込み、


「おうおう、今日もお前は可愛いなー」


「おいおい、八房は男だぞ。男に可愛いはねぇだろ、可愛いは」


「確かになぁ、八房は男前だものなぁ」


 なんてことを言いながら八房を三人がかりで撫で回し、構い始める。


(まさかお前達、八房を構いたいが為に駆けて来たのか……)


 と、身構えていた善右衛門が表情を固くし眉を吊り上げると、それに気付いた権太が慌てて立ち上がって背筋を伸ばし、それに権郎、権三が続き……そうして三人横一列に並んでから、三人を代表して権太が声を張り上げる。


「す、すいやせん!

 善右衛門の旦那への報告を先にすべきでした!

 ちゅう訳で報告です! 山中にてあの狐達のものと思われる住処の跡地を発見しやした!

 この町から少しばかり山に行った方に石階段がありやして、その階段を上った先にある廃神社を住処にしていたようでさぁ。

 ただ最近出入りしたような様子はとんと見受けられねぇんで、あくまであそこは跡地で今は何処か別の場所を住処としているようでさ」


「ふむ……。

 そこが狐達の住処だったと判断した根拠はなんだ?」


「へい! 狐達の体毛が残っていやしたのと、狐達が好む食い物の食べ残しやらがあったのと……それと、狐達が妖術に使う髑髏しゃれこうべがありやしたので……まず間違いないと思いやす」


「……髑髏だと?

 そんな物、一体どんな妖術に使うと言うのだ?」


 権太の報告を聞いて、善右衛門がそう問いかけると……権太はなんとも居心地悪そうにしてから、口を開く。


「へぇ……それはまぁ、なんと言いやすか……狐達は髑髏を使ってその持ち主そっくりの姿に化けることが出来るんでさぁ。

 ああ、でもあれですよ! あっしらやけぇ子の姉御達、こまの姉御達の変化とは全くの別物でございやすよ!

 狐達が髑髏を使って行う変化は、その人間に化け成り代わることを目的とした禁術の類でして……そうすることで、ただそっくりな姿に化けるだけでなく、髑髏の持ち主の記憶や能力まで得ることが出来るんだそうでさぁ。

 結構な数の髑髏が捨て置いてありましたんで、偶然そこにあったとかでは無く、狐達共があれらを使って何かしようと企んでいたんだろうとあっしらは考えていやす」


 そんな権太の説明を聞いて、善右衛門はふぅむと唸る。


 結構な数の髑髏を使って一体何をしていたのか、企んでいたのか。

 企んでいたとして住処を捨て、そこに髑髏を捨てていった理由は何なのか。


 あれこれと思いを巡らし、思考を巡らし……そうしてしばしの間唸り続けていた善右衛門は、ふぅっと小さな溜め息を吐いてから、権太へ言葉を返す。


「……まず、権太、権郎、権三。奴らの住処跡をよく見つけたな、よくやった。

 狐達がその禁術とやらを使って何を企んでいるのか今はまだ分からないが……先にそのことを知れたのは大きい。

 今後はその禁術を使われる可能性にも重々注意して、狐達を追い探っていく事としよう。

 ……それと権太、権郎、権三、手間ではあるがもう一度その廃神社とやらに足を運んで、その髑髏達を回収してきて欲しい。

 どんな経緯で狐達に使われることになったかは分からないが、そのまま廃神社に捨て置くのも哀れだ、町の近くに墓所を立ててそこで弔うとしよう」


 善右衛門がそう言うと権太達は嬉しそうにしながら照れくさそうにしながら頭を一掻きして、そうしてから『へい!』と声を揃えての良い返事をし、廃神社があるのだろう方向へと駆けていく。


 そんな権太達のことを善右衛門が見送っていると……足元の八房が、


「ひゃわん! ひゃわん!」


 と、何とも嬉しそうに尻尾を振り回しながら声を上げ始める。


 一体何をそんなに嬉しがっているのかと首を傾げる善右衛門に向かって、八房は何度も何度も声を上げて、上げ続けて……そうしてついにはその前足でもって善右衛門の着流しの裾を引っ張り始めてしまう。


 そんな八房の様子を見て仕方ないやつだと溜め息を吐いた善右衛門は……やれやれと、八房を抱き上げて、その人差し指でもって声を上げ続ける八房の頭を、顔を、腹を、八房が満足するまで存分に撫で回してやるのだった。

 

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