ノートルダム大聖堂の火災によせて

青樹春夜(あおきはるや:旧halhal-

第1話

ノートルダム大聖堂火災によせて


ノートルダム大聖堂の火災が報道された時、私は驚くと共に古い思い出が蘇った。


もう17年前になるだろうか。

機会があってフランスへ行くことが出来た。パリを中心に観光地を巡る旅であったが、ツアーに参加はせず地下鉄や鉄道を利用してまわるのが非常に楽しかった。初めは緊張するばかりだったが地下鉄も乗りなれると楽しいものであった。


その折にノートルダム大聖堂を訪れたのだが、3月の青空に尖塔が映えて美しかった。観光客に人気の場所だけあって聖堂前も綺麗に整えられまだ肌寒い季節にもかかわらず花々が広場を彩っていた。


天気が良いせいか地元の人々も繰り出して来ており、大分賑わっていた。


年老いたアコーディオン弾きがメロディを奏でたり、5歳くらいの少女が陽光に黄金の髪を煌めかせて指先に小鳥をとめていたりする光景は今でも心に残っている。


華やかで賑わっている広場を通り、いざ寺院の中に入るとふっと音が掻き消される。


もちろん多少のざわめきはそこかしこに漂っているのだが、一転して別の空気になるのだ。


明るい陽の光の中から暗い寺院内に入るので目が慣れるまで少しかかる。


中は荘厳な雰囲気で、ゴシック建築のあの壮麗でありながら落ち着いた色味の装飾が美しい。


当時は絵葉書などの御土産を入り口側で販売していたり観光ツアーもいたが、それを除けば聖堂内は静かなものだった。


物珍しくてキョロキョロして歩いていると人にぶつかりそうになった。


慌てて身を引くと、蝋燭台に肘をついて祈っている若い女性であった。


正式名称はわからないがそれは蝋燭台で、立ったまま肘をついて祈るものらしかった。


彼女は小さな白い蝋燭を立てて、その前で祈りを捧げている。

よく見れば、聖堂の長椅子に座って祈っているは人も多かった。


私はうかうかと聖域に入り込んだ異教徒であり、浮かれた観光客である事を痛感した。


数ヶ月前に9.11のテロがあった事を思い出す。


鎮魂の為の祈りの場から私は見学もそこそこに引き返した。


聖堂の扉の真上に薔薇窓と呼ばれるステンドグラスがある。


外の光を光源にして燦然と輝くそれは、忘れられない精神的体験と共に、未だに強烈に覚えている。



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