第4話 お化けなんてないさ お化けなんて嘘さ 寝ぼけた人が見間違えたのさ

 バイトを少し早めに切りあげ学校の校門に向かうと人影が4つ見えてきた。兵頭「初めまして、でいいんだよね? 僕は3組の兵道ひょうどう真琴まことって言うんだ……。君は確か1組の憑代君だったよね?」

 ショートカットで目がクリっとした男……。いや? 女の子が話しかけてくる。

「初めましてだね? えぇーっと真琴さん? 女の子だよね?」

 そういって真琴さんを見つめると彼女は恥ずかしそうに頬を掻いて頷き『ズボンを穿いてて胸だってペッタンコなのに分かるなんて凄いな』と言っていた。

「むぅぅーっ、また継君を狙う女の子が増えちゃったじゃん! もぅーっ!」

 そういって桜花さんは頬を膨らまして俺の背中をパタパタと叩いてくる。

「もう姉さん、女の子なんだから少しは恥じらいを持とうよ……。先輩、初めましてです。僕は1年の兵道ひょうどうかおるって言います。兵道真琴の弟です」

 そういってもう1人のショートカットで肌が白く可愛らしい顔立ちの女の子にしか見えない男の子が挨拶をしてきた。

「こちらこそよろしく……。それよりも会長がまだ来ていないみたいだけど……」

 辺りを見渡しても兵道姉弟と昼間の二人だけで会長の姿が見当たらない……。

「会長はホラー系が苦手ですからね……」

「逃げた、もしくは寝ちゃったって場合もあるよね?」

 宝生さんと更科さんが顔を見合わせて笑っている。

「みんな、お待たせ」

 俺達が会長の話をして待っているとリュックサックを背負った会長がやって来た。

「準備してたら遅れちゃった♪」

 何を持ってきたらリュックサックがパンパンになるんだ? 疑問に思っていると彼女はリュックサックからお札や大麻おおぬきを取り出して俺達に渡してくる。

「人数分用意するのに時間掛かったんだからね! はいっ」

 そういって大麻を左右にパタパタと振っている。

「こんなもので本当に除霊なんか出来るんですか? 信じられないですね」

 薫君が不思議そうにお札と大麻を見つめている。

「大丈夫、私達には幽霊が見えるプロがいるから」

 そういって宝生さんが俺を見て笑いかけてくる。

「いや、基本道具なんて使わないですよ? 俺の場合は話すことが出来るので基本会話です」

 俺は背中に居る桜花さんの手を握って前に連れてくる。

「いきなり不思議な動きをしてどうしたの?」

 俺の動きが気になったのか更科さんが尋ねてくる。

「あぁっ……。えぇーっと、桜花さんっていう幽霊がいて俺の大切な人なんだよね」

 そういって桜花さんを見つめていると真琴さんがこっちをジッと見つめてくる。

「ねぇねぇ、白い靄みたいのが見えるんだけど……。何それ?」

 そういって真琴さんが俺の隣にやって来る。

「継君、彼女たぶん私のことボンヤリとだけど見えてるんじゃないかな? いちおう彼女には継君の書いた退魔の呪符を渡しておいた方が良いんじゃないかな?」

 桜花さんの事を感知できるってことは結構霊感があるってことだし……。

「真琴さん、白い靄が見えているんですよね? 念のため、この呪符を持っておいてください」

 そういって呪符を渡すと彼女は不思議そうに首を傾げながらも受け取ってくれた。

「それじゃあ行きましょう」

 会長はそう言うと校門の鍵を開けて中に入っていく。

「ちょっ、会長待ってくださいよ」

 俺達は中へ向かう会長を追って夜の学校の中に入っていく……。


「懐中電灯の明かりだけだと暗いですね……」

 そういって俺達は1つの懐中電灯の明かりを頼りに3階の音楽室を目指していくのだが

「暗い、暗いよ! そこ『ガサッ』って音したよ! 幽霊! 幽霊だよ!」

 会長がホラー系ダメだって話はどうやら本当のことだったらしく、さっきから蛇口から水の垂れる音や風で窓ガラスに当たる音でこの有様である……。

「落ち着きなって幽霊じゃなくて風の音だよ……。苦手なら外で待ってなよ」

 そういうと彼女は首を横に振って『一人で待っているなんて、そっちの方が怖い』と言って俺の腕に抱きついてくる。

「むぅぅーっ、継君に抱きついていいのは私だけなんだからね! 継君もきちんと断って!」

 会長が俺に抱きついている姿を見て桜花さんが俺の背中をポカポカ叩きながら文句を言っている。俺も好きな人をこれ以上怒らせるわけにはいかないので腕に抱きついている会長を振り解き、向き合う。

「会長、俺は好きな人がいるんです。だから抱きつかれると困るんです」

 そういうと会長は顔を真っ赤にして『だっ、抱きついてないし! 怖がってないから! 君が怖がらないように腕を組んであげてただけだから! 勘違いしないでください』と言って薫君と真琴さんに抱きついていた。

「怖いなら正直に言えばいいのに……。何で無駄に意地を張るのか分からない。私だったら『きゃーっ、怖い』って言って合法的に継君に抱きつくけどな」

 そういいながら背中に抱きついている桜花さんは微かに震えている。

「怖いなら家で待っていれば良かったのに……」

 背中に抱きつく桜花さんにそう伝えると彼女は首を横に振っている。

「音楽室ってこの先ですよね? 何か音が聞こえませんか?」

 耳を澄ましてみると、確かに薫君が言ったように廊下の奥(音楽室)の方からピアノのような音が聞こえてくる。

「おばっ、おばば……。いやぁーっ!」

 恐怖が頂点に達したのか会長は顔を真っ青にして叫んだあと気絶してしまった。

「しょうがない、女性陣はここで待機してもらって俺と薫君で確かめに行こうか……。薫君、平気だよね?」

 明らかに女性陣は震えているし続行は厳しいだろう……。

「はい、ちょっと怖いですけど正体を確かめたいっていう好奇心の方が勝ってます」

 そういって俺のことを見つめてくる。

「よしっ、それじゃあ行こうか……。桜花さん、桜花さんも待機組ですからね? 離してください」

 腰に抱きついている桜花さんの手を振り解きながら伝えると彼女は泣きそうな目で俺のことを見つめてくる。

「怖いのが苦手なんだから無理しないで、それに俺と桜花さんが一緒に行ったら誰が彼女達を守るの? 桜花さんはここに残って彼女達を守ってください。そんなにかからないと思うので」

 そう伝えると彼女は不服そうに頬を膨らました後、渋々頷き会長たちの周りに結界を張る。

「皆さん、その場から動かないでくださいね? そこに結界を張ったので」

 そういって俺は桜花さんにみんなのことを任せて薫君と二人で音楽室へ向かうことになった。

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俺は幽霊《きみ》と恋をする。 兎神 入鹿 @Destiny

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