10、かぐや様は黙らせたい

 一度火がついた赤鬼は猛るがまま破壊の権化となり、大太刀を無闇に振り回す。戦うべき青鬼が逃げ出され、力を完全に持て余していた。

「ふざけたこと言ってるんじゃないわよ」

 突如として鋭く細いビームが四本、赤鬼の左腕に集中する。

 鋭い光線は反対側に貫き、そのまま腕を焼き切った。赤鬼は絶叫。肘から下が地面に落ち、シロナは胴体が千切れる寸前で解放される。

 上空から音もなく、ひとりの少女がシロナの側に着地する。

「お前のご主人は私が止めるわ。だから安心して眠りなさい」

 優しく語りかけると、シロナは強張った表情に安堵を浮かべてそのまま全身がピンクの光の粒子となって消えていった。

「自警団の団長直々のご登場とは恐れ入る。夜分にも仕事熱心だね、天宮あまみやくん」

 晴明の呼びかけに黒髪の美少女・天宮あまみや 香俱矢かぐやは振り返る。

 腰まで伸びた艶やかな黒髪もまた刀化現象により蛍光色の紫に光輝く。白い肌にほっそりした肢体だが、女性らしい曲線の強弱はしっかりとある。学校指定の制服をきっちり着こなしながらも、匂い立つ女性の色香までは隠し切れない。腕には自警団所属を示す腕章はつけられている。人形のように整えられた顔立ちに柳眉を逆立てていた。

「この生臭なまぐさ陰陽師! 暴走する鬼を見過ごすなんて何事よ!」

 香倶矢の上品な見た目の印象に反して、口振りは砕けたものだった。

「僕への文句は後にした方がいい。鬼が怒っている」

 赤鬼は左腕の切断面に炎を揺らめかせながら再生をはじめていた。

 両腕が揃うのを待たず、新しい敵である香倶矢に襲いかかる。

「ただ暴れるだけなら闘牛と大差ないわね。技巧派の青鬼よりずっと楽よ」

 香倶矢が白い手を前方に突き出す。

 空中を浮遊していた四本の光る短い円筒状の物体が一斉に動く。その形は見たまま光る竹筒だった。発光する竹筒は彼女の意思に合わせて宙を自在に飛ぶ。

 香倶矢は自らの例外的な形状の刃を、飛光筒ひこうとうと呼んだ。

 飛光筒は先端からビームを次々と発し、赤鬼の全身を穴だらけにしていく。

 絶え間ないビームの牽制により赤鬼の爆発的な突進力は見事に削がれた。近づこうとしても、その場に釘付けになる。赤鬼の大太刀は香倶矢の手加減ないビームを弾くが、斬撃までは届かない。だが赤鬼は身体に空いた穴を自らの炎で埋めて塞いでいく。

「彼は逸材なんだ。自警団にも招くから、殺さないでくれよ」

 晴明の涼しい声を無視して、香倶矢はあらん限りの力をもって光の雨を赤鬼に浴びせ続ける。炎をかき消すために機関砲のごときビームによる飽和攻撃。局所的な昼が訪れたような激しい瞬きの中で、赤鬼の影が不気味に浮かぶ。

「しぶとい男ね! いい加減に燃え尽きなさいよ!」

 香倶矢は思わず愚痴る。想像の斜め上をいく赤鬼のタフさに痺れを切らし、四本の飛光筒が一列に連結した。分散していたビームを一極集中でぶっ放し、心臓を貫く。胴体に大穴の開いた赤鬼はようやく限界を迎える。

 炎はついに燃え尽き、気を失った桃山が人間の姿に戻って倒れていた。

 宙に浮かんでいた四本の飛光筒が消え、香倶矢の髪の輝きも消えていく。

 緊張をほどき、月を見上げる香倶矢はほっと息をついた。

「いきなり手間かけさせるんじゃないわよ。大型新人」

 桃山に近づいた香倶矢は美しい顔にそっと笑みを浮かべた。

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アドレセンス ブレイズ 羽場 楽人 @habarakuto

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