魔王様になるには
ミスティはまだご機嫌斜めみたいで、オレが作り上げた何十個目かの色水とオレを不満そうに睨んでる。まあ、頑張って書き上げた手紙を一瞬で色水に変えられたら、普通書いた人間は怒ると思う。
でも、ここじゃ別。国民に聞けば、全員が全員オレの行動を褒めてくれるだろう。ミスティの自業自得だ。
それに怒りたいのはオレの方っす。この世界の住人なら、誰もが慕う魔王様。それ以前に、幼馴染で親友が死に急ぐ姿なんて、あまり見たい物じゃない。それなのに何度も何度も、誰よりも身近で見せられているんだから、正直「怒りたい」なんていうレベルじゃない。1回強めの電気系魔法とかぶつければ、少しはオレの痛みを理解してくれるっすかね?
それでもこの手紙が天使族の所に行く前に、オレや騎士団長様のところで基本的には止められているのが不幸中の幸いだ。オレや騎士団長様の胃には穴が開きそうだし、心は大量出血を起こしているけれど。
「考えてみれば、何度やっても懲りないお馬鹿さんって、ミスティだけじゃないっすね。歴代の魔王様、みんなそうだ。なに? 魔王様に選出される条件って、魔力の質や量、魔法の発動速度の他に、学習能力のないお馬鹿さんっていう項目でもあるの?」
不機嫌そうに色水を睨んでいたミスティの目が、明らかに泳いだ。色水から視線を逸らして、どこか遠くを見つめ、ちらっとだけオレを見て、目を伏せる。
「……オレも、魔王を継ぐ前はそう思ってたよ。天使族が変わらないのなんて明らかだ。歴代魔王様がお隠れになった理由は、あまりにも有名だ。なのにどうして、今代の魔王様も同じ事をなさるのだろう、って」
「だったら、なんで! それと同じ事、オレや他の国民たちが思っているの、アンタは察してるっすよね!? それなのに、なんで……」
そう。新しい魔王様に選ばれる前まで、ミスティも同じだったはずだ。天使族と和解するためなら、自分の首なんて簡単に差し出してしまうような魔王様に心を痛めて、「なんで分かってくれねぇんだよ!」って、一緒に涙を流していたのに。
ミスティはそれを全部忘れてしまったみたいに、あの時自分達に涙を流させた魔王様と、同じ事をしている。
そんなミスティにオレの怒りは限界で、そんなオレをミスティはお見通しだろうに、ふんわりとやわらかく、それでもどっか寂しそうに微笑んだ。
とても、とっても、綺麗に。
「その理由、案外単純だったぜ? みんなを守りたい。この国を平和にしたいんだ。天使族に惨殺されなくても良い。人間の襲撃に怯えなくても良い。安心して暮らせる、退屈さえ感じられるような、そんな平和な日常が欲しいんだ」
そしてそのためなら、自分の首くらい安い物だと、歴代の魔王様はみんな、思うらしい。
「……魔力の保有量が高くて密であること。魔力の質が良いこと。魔法の発動が正確且つ俊敏であること。それから学習能力の低いお馬鹿さんで、国のためなら自分の命なんて簡単に投げ捨てられちゃう自己犠牲の高さ、ってトコっすか? 魔王様の条件」
はは、なんてミスティは力なく笑った。
魔族が生まれた日 夜煎炉 @arakumonight
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