シィラ流、色水の作り方 ※最重要案件

 まあ、ミスティが1人で紙を前に考え込んでたっていうだけでも、ろくでもない事を考えていると分かったけれど。ただ、薄々なにをしているか察する事が出来ても、最悪の可能性を避けたいと思ってしまうのはおかしくないだろう。

 そんな些細な希望を、この魔王様は簡単に潰してくれるのだから頭が痛い。でも、そんなオレ達魔族全員にとって、「暴動を起こすくらい最低な代物」が公に出てしまう前に止められたのは、不幸中の幸いってヤツだ。

 これがそのまま天使長の目に入っていたらと考えると、ゾッとする。中身を読んだワケではないけれど、読むまでもなく分かる。

「うっわ。天使長に送る手紙って絶対ろくでもないの確定じゃん」

 こんな危険物を世に残しておくワケにはいかない。ミスティが身長差を魔力の差で埋めて、オレから手紙を本格的に取り返す前に無に帰さなくては。


 とは言っても、万が一の可能性もある。もしかしたら、ミスティもやっとオレ達の声を聞き入れてくれた可能性が。いくらミスティが何度も何度も、歴代魔王様の例に漏れず、自分の命と引き換えに戦争を終結させてほしい旨を天使長に送ろうとしていたところで、今回もそうだと決め付けてしまうのは可哀想である。

 ミスティに心酔している騎士団長様を始めとした魔王城直属の人や、他の魔族達は真っ先にソレを疑うけれど、いくら前科を数える事が面倒になるくらいやらかしていたって、その内何度かは天使長に殺されそうなところを寸でで助けているからといって、幼馴染で親友のオレまで決め付けてしまうのは可哀想だ。

 速読を身に付けたのはこんな時の為だったのかもしれない、なんて現実から目を背けるようにそんなどうでも良い事を考えつつ、本人の言い分を鵜呑みにするなら「大切な手紙」に目を向けて、それで十分だった。


 ……信じたオレがバカだったっすわ。オレまで疑ったらミスティが可哀想だって思った、オレのやさしさ、幼馴染心ってヤツを返して欲しい。

 頭を抱えたいけれど、ミスティを前にそんな事をしている暇はない。まずは自分の手で手紙をビリビリと細かく破る。それから魔力も使って、更に刻む。さて、最早このままじゃ文字が読み取れないくらいになった紙片を、次は火の魔法を使って燃やします。火力は最大。あっという間に紙片は灰に変わった。

 あとは最後の仕上げ。水の魔法を展開して、灰を丹念に溶かしてしまいます。これで灰色に濁った水の完成。うん、上出来。魔法で生み出した水には、紙に記した文字を復元不可能なほどに溶かしきる魔法も組み込んでおいたから、いくら魔王様でも元通りにするには骨だし、ミスティの性格から、1度ダメにされた物を公の場には持ち出さないだろうし。

 そもそもオレがここまでして、なにも感じないほど、オレの親友だってバカじゃない。

「イテ。なにするんすか」

 ……訂正。バカなのかもしれない。威力としては凄く低いし、実際痛くもなんともないんだけど、それでも確かに電気系の魔法をミスティから投げ付けられて、オレは不満を漏らした。

 電気魔法を投げ付けられたことよりは、多分、いつまで経っても、誰が何を言っても聞いてくれないこの態度に、なのかもしれない。先代魔王様がまだご存命だった時は、ミスティだってオレ達と同じ立場にいたはずなのに。


「なにするんすか、じゃねぇよ。オレは天使長に送るって言ったよな? なら頭の良いお前の事だ、国に関する重要な手紙だっていうのも分かるよな?」

「どこが重要なんすかね? 今度こそはってアンタを信じて念のため読んでやったけど、見事に裏切られたっすよ!? あれが他の魔族の目に入ってみなよ? また抗議されるだろうし、騎士団の人達、特に団長の目に入ったら軟禁されかねなかったっすよ? 多分それを誰も止めないし、オレも止めない。それを思えばアンタは、オレの段階で、オレが個人的に葬り去ってやった事に感謝すべきっすね」

「まあ、クゥヤにバレるよりはマシだったかもしれねぇけど。お前は並外れたその能力を他に生かす努力をしろよ。いつもいつも、オレの仕事の邪魔にばかり使いやがって」

 騎士団長様にバレなくて良かったというのはミスティも思っているらしい。そう思っているのなら、自分がどんだけバカな事をしているのかも、分かって良さそうなのに。

 それにミスティは「もっと他に生かせ」なんて、魔王様になってからずっと言っているけど、天使長に送ろうとしている手紙を世に出る前に一瞬で色水に変えるっていうのは、1番有効な使い方だと思う。魔王様には及ばないけれど、並外れた魔力量と発動速度。他になにに生かせるのか、逆に教えてもらいたいくらいっすわ。

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