第百二十二話『謎の既視感』

 

 世界の救済者と、少女の熱き戦い。

 それは今、終わった。

 ───そして、或る敗北者は。


「……ハッ。佳い戦いだったワよ。フォークトちゃん」

 今まであった狂気を沈め、ただ少女に手を叩いていた。

 歓声は鳴り止まない。

 けれど、その中で異彩を放つが如く───ロベリアは笑う。

 負け惜しみも、責めて苛立つことも無く。


 ただ、忠義を尽くしても尚負けた少女に向けて笑っていた。

 其処には、フォークトを化物と称すモノは無く。

 只々、彼女を『己の部下』として扱うモノが在った。

 だからこそ、フォークトは救われたのだ。

 倒すべき相手に認められ、主人に認められたから。


「───良いのですか?フォークトを罰さなくて」

 だが、ミラージュは愚問と思いつつ問うた。

 返しは、勿論。


「良いのよ☆───もう、ワタクシ達は負けたんだもの」

 ロベリアは笑った。

 以前まで狂気を振り撒いていた、裏闘技場管理者としてでは無く。

 一人の、自身の臣下を敬う『ロベリア』としての気概を持って。


「……そうですね」

 それに、ミラージュ含めシュリーレンは頷いた。

 例え主人の考えが変わっても、自分達は一生この人について行くと決めていたから。

 そうして、ロベリアは玉座を立つ。

 そして、突然に狂気で自身を彩り。


「じゃあ、行きましょうか♡救済者殿に、景品の受け渡しをしないとネ☆」

 豹変した。


 ──────本当にロベリアという主人は、読めない。

 そう思いながら部下達は、それでも狂気に付いて行く。


 ♦︎


「あーあ。どっと疲れた……」

 大会の勝利者になった僕は、体を伸ばしながら溜息を吐いた。


 ……実に一ヶ月以上、僕達は戦っていたのだ。

 不労の体だとしても、終わってみると流石に堪えるという物。

 それは、モイラやアーサー君も然り。


「───確かに。勝ったとは言え、一度死んでいる奴が居るからな……」

「三途の川は良かったよ〜。波は静かだし、涼しいし───ってそんな事関係無くて!置いといて!……私達何処に向かってるんだっけ?」

 アーサーの皮肉に素晴らしいノリツッコミをするモイラだが、直ぐに行動の問いに戻した。


「景品が保管されてる所じゃない?受付嬢にそう案内されたけど」

「えー。あのオカマさんの言う事でしょー?信じられないんですけど」

 僕の返しに、モイラは嫌そうに呟いた。

 確かに、ロベリアの言う事は心底信じられない。

 受付嬢に「あちらです」と案内されたこの通路だって、暗いし。

 ビチャビチャだし。

 所々蜘蛛の巣張ってるし。

 ランタンしか灯りないし、ハエ飛んでるし。

 兎に角───汚い。


「本当、この先に第三兵器があるのか?」

 その有様に、アーサー君は嫌悪を示しながら聞く。


「うーん。案内した受付嬢だって嘘付いて無かったしなぁ」

 僕は唸る、が。


「あ、扉」

 もう直ぐ先に、木造の扉を見つけた。

 ランタンの光を淡く反射する、テラテラの木材。

 良い素材使ってるみたい。

 この通路に置くとか腐食凄そうだけど。


「開けてみる?」

 僕がそう聞くと。


「───そうするしか無いよね」

 モイラは、静かに答えた。

 まあ、この奥にある気配を察知しての事だから仕方ない。


「だね、開けようか」

 そうして、僕は扉を開けた───。

 と、同時に。


「決勝戦勝利おめでとう☆待ってたわぁ、フィルフィナーズの皆様♡」

 狂気……ロベリアが顔を近くして出迎えてきた。

 顔近いし香水臭いし、何より……既視感。

 なんか最初、裏闘技ロベリアスへ来た時の状況と錯誤するような。

 と、兎に角。

 僕は顔面がうるさいロベリアを跳ね除け。


「───御託は良い。早く兵器を見せなさいな」

「はいはーい☆そんな焦らないの☆可愛いんだからァ♡」

 ……むかっ。

 僕だけの神経を逆撫でる絶妙な言葉に、一瞬憤りはするが。


「あー!あー!───普通に案内頼むよロベリアさん!」

 モイラのカバーによって、一触即発の空気感は事なきを得た。

 確かに、一回死んだ死人のカバーの通り、平静を保たねば。

 こう言った挑発に乗ってしまったら、僕の高潔な雰囲気が薄れてしまうと言うもの。

 ……あ、僕を少年と侮蔑するコメントにて憤ったのは……知らない分かんない。


「───良いわよぉ。案内してあげる☆」

 そして、ロベリアとその部下達の介護の元、僕等は第三兵器が在るへと足へ運ぶ。

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未来視少年の異世界救済〜全てを見通す神童の放浪記録〜 望木りゅうか @mogiryuuka

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