第二話 MI・AL作戦計画

 ミッドウェーでは干満の差はきわめて少なく、この方面の風は六月がもっとも静穏である。しかも環礁を越え、礁湖を渡って上陸しなければならないので、前夜半、月のないことが絶対に必要である。このような理由から、月齢が二二・九で月出は現地時間の午前零時ごろとなる六月七日を上陸最適日として選んだ。

 こうした情況下で、当面、最大の関心事は米艦隊の動きであった。連合艦隊ではMIを攻略すれば、敵艦隊は全力をあげて反撃に出ることは間違いなかろうと判断していた。したがって、そのMI付近への出現時期は、同島攻略後になる公算が大きいが、状況によっては攻略作戦中に出てくることもあり得ると考えていた。

 そこで、連合艦隊は攻略戦と艦隊戦闘を一体の作戦とし、決戦兵力のほとんど全部を使用して長官みずから出撃、作戦を指揮することにした。


 昭和一七年五月五日午後二時、御学問所において参謀総長杉山元と軍令部総長永野修身は。ミッドウェー、アリューシャン作戦について上奏を行なった。(昭和天皇実録第八巻)

 参謀総長の上奏文については「作戦関係重要書類綴」中にあるので、参考までにそれを記す。


 『  御説明案

陸軍ニ於キマシテハ本作戦ノ曩ニ編成ヲ命セラレマシタ歩兵第二十八連隊基幹(一木支隊)ヲ以テ「ミッドウェー」島方面独立歩兵第三百一大隊基幹(北海支隊)ヲ以テ「アリューシャン」群島方面ノ攻略ニ任セシラルルヲ適当ト存シマスノテ一木支隊及北海支隊ノ戦闘序列竝其任務ニ関シ別紙ノ通御命令相成度ト存シマス

尚両支隊ハ其集結点(サイパン及厚岸)集合時以後夫々第二第五艦隊司令長官ノ指揮ヲ受ケシメラルルヲ適当ト存シマス

作戦要領ニ関シマシテハ唯今軍令部総長ヨリ申上ケマシタ通テアリマシテ陸海軍充分研究ノ上意見ノ一致ヲ見タモノテ御座リマス

尚右両作戦ニ関シマシテハ以上ノ通テ御座イマスカ「フィジー」諸島「サモア」諸島及「ニューカレドニヤ」方面ニ対スル作戦ニ関シテハ着々準備ヲ進メテ居リマシテ近ク之ニ関スル御命令ヲ仰キ度所存テ御座イマス

右謹テ充裁ヲ仰キ奉リマス』(充裁は允裁いんさいの誤りか)


 その次には「御下問奉答資料」があり地誌や装備作戦要領がある。

『 一、「アリューシャン」作戦

 ⑴ 攻略地の住民を部隊の撤収に方り帝国本土に連行する如く準備する件に就て

 「アダック」「キスカ」及「アッツ」島等冬期以前に撤収する関係上敵が我部隊

  撤収後再び此等の地点に基地を設くる恐あるを以て此等の島に於ける住民(約百

  名内外)は我本土に連行して敵の基地再建を困難ならしむるを有利とす

  尚之を実行するか否かに関係しては更に其の後の情況を見たる上指示する所存な

  り 此等の住民を我本土に連行せる場合に於ては適宜彼等に生業を与うる等之が

  取扱に関しては慎重に考慮しあり

 ⑵「アダック島」

  南北約二十五粁東西約十粁標高六百ー九百の火山多く山頂四時雪を戴くものあ 

  り 耕作に適せざるも養狐業に適す

  住民は常住居するものなし

  常駐兵力十数人潜水艦航空基地を建設中なるものの如し

  上陸点は東方西方及南方の三方面とす

 ⑶「キスカ」島

  長さ約四十粁幅約十粁標高三百五十米内外の火山多し

  (最高千二百米)

  住民数十人主として養狐業を営む

  防備兵力は二百ー三百なりとの情報あり

  良港を有し「ダッチハーバー」と共に主要なる海軍根拠地たるに適し既に一部

  工事を開始せるの疑濃厚なり

 ⑷「アッツ」島

  東西約六十五粁南北約三十五粁にして無木帯なり住民は約四十名程度なり

  水上機及艦船の基地たるに適し「キスカ」島に次ぐ要地なり

  防備兵力は未詳

 ⑸地勢は全般に海岸に山迫り港湾の周囲に僅かに平地あり燃料主食は殆どなく僅

  に魚を求むることを得

  温度は六月に於て最低0℃最高12℃なり九月上旬より十一月に亘り強風多し

  夏季に於ては十米ー十二米以下なり

  上陸点は東北方海面とす

 ⑹北海支隊の編成装備及行動

  総兵力約千名馬匹車輌を除き「リヤカー」を装備す其他爆薬約三ヶ月分の糧秣

  等を携行す

  五月二十三日頃厚岸湾に集合三十日頃出発六月七日頃「アダック」に上陸約一

  週間の後「アッツ」島に上陸す

二、「ミッドウェー」作戦

 ⑴「ミッドウェー」島の兵要地誌

  イ、「イースタン」島は東西三粁南北一・五粁にして概ね平坦(最高十三米)な

   り 「サンド」島は東西三粁南北二・五粁にして概ね平坦なり

  ロ、防備

   敵兵力六百ー七百なるが如し

   十糎ー十五糎砲十数門高射砲十数門機関砲(銃)約五十

   「イースタン」島には水陸航空基地あり「サンド」島には艦船及航空の基地

   を有し主として島の東北正面に防禦施設を構築しあり

 ⑵一木支隊の行動

  五月十日頃編成完結十九ー二十日頃宇品出発

  二十四ー二十五日頃「サイパン」集合

  二十九ー三十日頃集合点出発

  六月七日頃「イースタン」島の東方海岸より上陸約一週間にして撤収す

 ⑶部隊の編成装備

  総兵力約二千名 折畳舟約三十対戦車砲八門(四七粍)

  其他電流鉄条網の破壌具防楯発煙筒爆薬等を装備す


 同じ五日陸海軍の中央協定が締結された。


 軍事機密  15部の内第一号

  別冊第二

「ミッドウェー」作戦に関する陸海軍中央協定

               昭和十七年五月五日

               大本営陸軍部

               大本営海軍部

「ミッドウェー」作戦に関する陸海軍中央協定

一、作戦目的

「ミッドウェー」島を攻略し同方面よりする敵国艦隊の機動を封止し兼ねて我作戦基地を推進するに在り

二、作戦方針

陸海軍協同して「ミッドウェー」島を攻略し海軍は急速に同島の防備を強化すると共に航空潜水艦基地を整備す

三、作戦要領

⑴海軍航空部隊は上陸数日前より「ミッドウェー」島を攻撃制圧す

⑵陸軍は「イースタン」島の海軍は「サンド」島の攻略に任じ別に海軍単独にて「キユア」島を攻略す

⑶攻略完了後概ね一週間以内に陸軍部隊は海軍部隊掩護の下に「イースタン」島を撤収し同島の守備は海軍之に任ず

⑷海軍は有力なる部隊を以て攻略作戦を支援掩護すると共に反撃の為出撃し来ることあるべき敵艦隊を捕捉撃滅す

四、指揮官並使用兵力

⑴海軍

   指揮官  連合艦隊司令長官

   兵力   連合艦隊の大部

⑵陸軍

   指揮官  一木支隊長 陸軍大佐 一木清直

   歩兵第二十八連隊

   工兵一中隊

   速射砲一中隊

五、作戦開始

 六月上旬乃至中旬「アリューシャン」作戦と略同時に作戦を開始す

六、集合点

 上陸部隊及護衛隊の集合点を「サイパン」に概定す

 陸軍部隊乗船地より集合点迄の航行は海軍之を護衛す

七、指揮関係

 集合点集合時より第二艦隊司令長官は作戦に関し陸軍部隊を指揮す

八、イキ信連絡

 ALMIF作戦通信に関する陸海軍中央協定に據る

九、輸送

 陸軍部隊の一部輸送の為海軍は作戦機関輸送船一隻を供出す

十、使用地図

 二〇一七号海図とす

十一、使用時  中央標準時とす

十二、作戦名称

 本作戦をMI作戦と呼称す

(JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C13071074300、作戦関係重要書類綴 第2巻 より現代かなづかいに改め)


 同時に「アリューシャン」作戦に関する陸海軍協定も締結された。

 また、四月には五月初旬北海支隊の編成が下令され戦闘序列も令された。


    北海支隊の編成

 昭和十七年四月陸海軍協同の下に西部「アリューシャン」群島攻略に決するや大本営は五月二日軍令を以て独立歩兵第三百一大隊及独立工兵第三百一中隊の編成を下令し又五月五日大陸命を以て左の如く北海支隊の戦闘序列を令す

一、北海支隊の戦闘序列を令す

  戦闘序列別紙の如し

二、編成管理者は独立歩兵第三百一大隊及独立工兵第三百一中隊編成完結時を以て

 石部隊を北海支隊長の隷下に入りらしむべし

別紙

     北海支隊戦闘序列

     支隊長  陸軍少佐  穂積松年

     独立歩兵第三百一大隊  

     独立工兵第三百一中隊(甲)

独立歩兵第三百一台隊及独立工兵第三百一中隊は五月九日旭川に於て編成を完結し同日北海支隊長の隷下に入れり


(旭川の歩兵第二十六連隊大隊長穂積大佐は歩兵第二十八連隊長一木大佐とともに四月二十九日上京し、五月一日大本営において「アリューシャン」作戦に関する大陸命第六百二十八号を受領して帰隊し、独立歩兵第三百一大隊と独立工兵第三百一中隊を編成した。大隊の編制は大隊本部、第一中隊、第二中隊、第三中隊、第四中隊、機関銃中隊、歩兵砲小隊からなっていた)


 大陸命第六百二十八号

    命令

一 大本営ハ西部「アリューシャン」ノ攻略ヲ企図ス
二 北海支隊長ハ海軍部隊ニ

 協力シ「アダック」島「キスカ」島及「アッツ」島ノ攻略ニ任ズベシ

三、北海支隊長ハ集合点集合時以後作戦ニ関シ第五艦隊司令長官ノ指揮ヲ受クベシ

四、細項ニ関シテハ参謀総長ヲシテ指示セシム

 大陸指第千四十六号

    指示

 大陸命第六百二十八号ニ基キ左ノ如ク指示ス

一、北海支隊作戦ノ為準拠スベキ作戦要領別冊第一ノ如ク本作戦ニ関スル陸海軍中

 央協定別冊第二ノ如シ

二、「アダック」島諸施設ノ破壊ハ徹底的ニ之ヲ実施スルモノトス

三、攻略地ノ住民ハ部隊ノ撤収ニ方リ帝国本土ニ連行スル如ク準備スルモノトス


 別冊第一

北海支隊作戦要領

 上陸第一日をX日と称す

  第一 作戦目的

一、北海支隊の作戦目的は「アリューシャン」列島の要地を攻略又は破壊し敵に機

 動竝に航空進攻作戦を困難ならしむるにあり

  第二 作戦方針

二、北海支隊は第五艦隊司令長官の指揮下に於て海軍と協同し先づ「アダック」島

 に急襲上陸して島内の軍事諸施設を破壊覆滅して次で「アッツ」島を攻略す

  第三 作戦指導要領

三、第五艦隊はXー二日航空部隊を以て「ダッチハーバー」を攻撃し敵航空部隊竝

 に軍事施設を破壊し全般の作戦を容易ならしむ

四、北海支隊は海軍護衛の下に海軍陸戦隊と協同しX日「アダック」島に上陸し迅

 速に軍事諸施設を破壊覆滅す

五、支隊は前項の作戦終了せば「アッツ」島に向い転進し「チチヤコブ」港に急襲上 陸し同島を攻略す

六、支隊は前記作戦終了後「アッツ」島を守備し適時他方面に向う転進を準備す

 別冊第二

「アリューシャン」群島に関する陸海軍中央協定

一、作戦の目的

 「アリューシャン」群島西部要地を攻略又は破壊し同方面よりする敵の機動竝に

 航空進攻作戦を困難ならしむるにあり

二、作戦方針

 陸海軍協同し「キスカ」「アッツ」を攻略すると共に「アダック」島の軍事施設

 を破壊す

三、作戦要領

 1、陸海軍協同し先づ「アダック」島を攻略し要地の軍事施設を破壊撤収し次で

  陸軍部隊は「アッツ」を、海軍特別陸戦隊は「キスカ」を攻略し冬季まで之を確

  保す

 2、海軍は有力なる部隊を以て攻略部隊を支援すると共に上陸前母艦航空部隊を

  以て「ダッチハーバー」方面を空襲し主として所在航空兵力を撃破す

四、指揮官竝に使用兵力

 1、海軍

    指揮官 連合艦隊司令長官

    兵力  連合艦隊の大部

 2、陸軍

    指揮官 北海支隊長 陸軍少佐 穂積松年

    兵力  歩兵一大隊 工兵一中隊基幹

五、作戦開始

 六月上旬乃至中旬「ミッドウェー」作戦と略々同時に本作戦を開始す

六、集合点及日時

 攻略部隊の集合点を厚岸湾と概定し集合日次は五月二十三日頃とす

 陸軍部隊乗船地より集合点に至る航行は海軍之を護衛す

七、指揮関係

 1、集合点集合時より第五艦隊司令長官は作戦に関し陸軍部隊を指揮す

 2、上陸及上陸戦闘に於て陸軍部隊及海軍部隊同一箇所に作戦する場合は作戦に関

  し高級先任の指揮官之を指揮す

八、守備の担任

 「キスカ」島は主として海軍 「アッツ」島は主として陸軍之が守備に任ず

九、(以降省略)


 海軍軍令部は大海令第十八号をもって、ミッドウェー島およびアリューシャン群島の攻略を下令した。


  大海令第十八号

    昭和十七年五月五日

    奉勅   軍令部総長 永野修身

      山本連合艦隊司令長官ニ命令

連合艦隊司令長官ハ陸軍ト協力シ「ミッドウェイ」島及「アリューシャン」群島西部要地ヲ攻略スべシ

細項ニ関シテハ軍令部総長ヲシテ之ヲ指示セシム

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