第二十話 戦訓 珊瑚海海戦

 南洋機動部隊の「戦闘詳報」には「戦訓並に所見」の項目が綴られている。

 

第一 指揮統帥並に作戦用兵に関する事項

一、航空部隊を基幹とする機動部隊の用法上の特質は航空機の適切なる使用を根本とせざる可かざる点に存す。各機種の性能及練度に関しては極めて微妙なる点迄熟知し置くを必要とす。故に作戦直前に編組せらるるが如き急編制の機動部隊は航空部隊指揮官を機動部隊とするか航空部隊指揮官に非る指揮官が機動部隊の全指揮官たる場合は事前充分なる打合の期日を存するを絶対必要とす。

前進基地に於て異方面より急遽馳せ参じ機動部隊を編成し直に出港して機動部隊を行わんとするは極めて困難なり。

(著者註・これはMO機動部隊指揮官が五航戦の原少将でなく、第五戦隊の高木中将であったことで、航空戦隊の指揮官が全機動部隊の指揮官であるが望ましいことを言っているが、階級的に高木中将が上なので、この編制になったのであろうが、航空戦の指揮はやはり航空部隊の指揮官が全指揮権を掌握したほうが運用上問題なく指揮できるであろう)

二、攻略作戦を主目的とし機動部隊を以て有力なる敵海上兵力を捕捉撃滅せんとする今次のMO作戦の如き場合にありては最高指揮官は基地航空兵力及潜水部隊をも一元に編制指揮するに非れば作戦目的の達成容易ならず。結局事前の索敵及敵情に応ずる索敵の転換が機動の成否を決するを以て最高指揮官は一々索敵及其の転換に関し希望協議を以てしては機を逸する虞大なり。

三、機動部隊の作戦一般

 機動部隊の作戦目標が固定の地域に限定せらるる場合と敵の海上兵力に置く場合とに於ては自ら其の様式を異にせざる可からざるを痛感するものなり。


固定目標即ち敵基地若くは要地(其地に碇泊することあるべき海上兵力を含む)を対称として機動する場合は時機に関し自主的に計画可能にして従って攻略作戦と関連実施することを得るも敵の移動海上兵力を主目標とする場合に於ては一に敵の出方如何に依り成否は決するを以て時機其の他の限定は計画的に行うを得ざるを常とす。従って要地の攻略期日一定する場合には之の期日に緊密に連撃機動すること至難にして敵出現せざる場合は機動の目的を達成せざるも已むを得ず。

攻略目的を達成すれば甘んぜざる可らず。さりとて機動の目的を二途とし海上兵力の出現なき場合は固定目標とするが如きは其の一も成らざるに落つる虞大なりと認む。

原則として母艦群を主隊とする機動兵力を以てする機動は特種の場合の外海上兵力に主目標を置くを要す。

此の意味に於て攻略作戦に関連せしむる機動作戦は前述の如き時機を拘束するに非ずして地域的に敵海上兵力の出現を完全に制圧することの単一目標とするを緊要なりと認む。

今次作戦に於て之が実例を求れば我がMO機動部隊は味方基地航空機の威力圏内に行動し而も敵の威力圏外にありて敵海上兵力が我が攻略部隊の二〇〇浬付近に近接する以前に之を捕捉撃滅することに専念し基地空襲或は輸送船団の上空掩護等の任務はMO機動部隊兵力を以ては行わざるを緊要とするにあり。

四、敵海上兵力の捕捉撃滅法

 敵の所在に就き全く情報なき今次作戦の如き場合敵海上兵力を捕捉する為には基地航空部隊並に潜水部隊に依存せざる可からず。自らの索敵圏は僅かに二五〇浬乃至三〇〇浬にして然も攻撃力を拘置する為其の範囲は左程大ならしむることを得ず、使用し得べき基地少き場合は大規模に潜水艦を使用するを要す。機動部隊終始攻略部隊に接し其の付近を索敵すれば攻略部隊を攻撃する敵を捕捉すること容易なるも機動の妙味は全くなく普通敵兵力と相殺に終ることとなるを以て拙策なり。

一旦敵を捕捉せる後の攻撃法は先づ航空機を以てする反覆攻撃にあるも基地航空機若くは潜水艦等に依り発見せる敵は攻撃限界は概ね五〇〇浬程度とす。但し彼我相向首し接敵する場合を除く。今次作戦に於ては友軍の発見せる場合は攻撃に成功し居らず、これ早朝に敵を発見して三〇節を以て接敵するも尚飛行機発艦より収容迄に日没時頃となるを以て夜間作業に練達し居らざる限り実施不可能なるに依る。

今後友軍の遠距離に発見せる敵の攻撃法に就きては充分の研究を要す。結局は夜間発着艦の熟達夜間接触能力の向上並に攻撃圏の増大に依らざる可からざるものと認む。

自艦派出の索敵機にて早朝捕捉したる場合に於ても一回の空襲を以て終らざる可からざりしことは一見意外とする処なるも、かかる場合敵も我を発見すること一般なるを以て極力近接を図るも彼我共に風向に向首する時間多く近接率は大ならざると母艦ほ被害に依る収容能力の激減及不時着機の収容等兵力整頓に要する時間は意想外にして反覆攻撃の容易ならざるは今次痛感したる所なり。

航空機の攻撃で成果を拡大すべき水上艦艇の攻撃法としえてゃ一挙に突進し得る場合と然らざる場合あるべし。即母艦及駆逐艦が極めて多数の不時着機或は収容洩れの飛行機収容の為殆ど同一場所に行動する場合は巡洋艦部隊は之が掩護の態勢を持するを一般なりと認むるも敵被害の状況及敵との距離並に我軍の兵力(巡洋艦駆逐艦等の数)に依りて母艦を放置し攻撃に向うべき場合少しとせず、使用すべき駆逐艦(航続力の有するもの)を有し夜間となるも敵確捕の算を有するばあは決然攻撃に向うを要すと認むるも其の成算なく却つて我が母艦群が有力なる敵に夜間捕捉せられる虞ある場合は所謂航空決戦に終始し巡洋艦以下の部隊は単独攻撃に向わざるを一般なりと認む

五、機動部隊の兵力編組等

 敵の有力なる海上部隊に対する機動兵力は

 ㋑母艦は数に於て少く共敵と同等以上なるを要す。

 これ彼我の発見同時の算大にして我のみの一方的攻撃容易ならざるを実感したるに依る。A国は無線の単一方位距離測定装置若くは電波探信儀式を飛行索敵以外に依る目標捕捉法を有するやに感ぜらる。

今回も敵の空襲は我に先んじたり、敵の予想兵力より劣勢なる母艦数を以て構成する機動部隊は先制攻撃の確算なき限り危険なり。

 ㋺巡洋艦は少く共母艦数と同等以上理想としては母艦一に対し二を要すと認む。

 之れ敵飛行機に依る攻撃特に雷撃機の撃攘に有効なると母艦を離れて積極的攻撃に

 向う有効兵力として必要なり。高速戦艦を有すれば理想的なること勿論なり。

 ㋩駆逐艦は母艦一隻に就き少く共二隻航空機の攻撃に策応夜戦を行う為には母艦一

 隻に付四隻を必要と認む。

 第一次攻撃飛行機収容時に多数不時着機の為には一艦に二隻は是非控置を要するを

 以てなり。

 尚機動部隊に随伴すべき駆逐艦は是非共航続距離の大なるものなるを要し翔鶴級と

 同等を欲するも已を得ざれば十八節の六〇〇〇浬程度とし随伴行動中母艦補給の時

 機迄一回にて足る如くするを要す。

 ㋥補給部隊

 変転極りなき敵海上兵力を目標とする機動部隊に随伴する補給艦は是非共高速なる

 を要し企図を陰蔽しての行動中は少く共部隊と行動を共にし得る為十八節を必要と

 す、一旦敵情を得て次の補給迄の会合の余裕を有すせしむる為にも十六節程度を要

 す。

 尚補給は機動部隊の生命にて補給艦の損耗は作戦を根本的に破壌するを以て護衛駆

 逐艦を附するを要し航続力少き駆逐艦は之に充つるを可とす。

六、敵航空機の攻撃回避法

 敵航空機の攻撃を予想する場合は一母艦を単位として母艦数と同等の群に分るるを

可と認む。

全集団となりての行動は各艦の単独回避を制肘するのみならず攻撃に移転せる敵機が目標を失したる場合直に他の艦に即時変換し得るを以てなり

 一母艦を中心とする一群は四囲に巡洋艦及駆逐艦を配し母艦に集中すべき敵機の攻撃に最適の陣形を制り置くを要し、特に雷撃機に対して適当なる占位の巡洋艦駆逐艦は其の撃攘に対し効果顕著なるを痛感せり。

 母艦よりの位置及距離に就きては艦数種類に依りて異なるも今回は三粁乃至五粁に占位母艦の回避に随動し極めて有効なりしを体験せり。

 尚A国雷撃機は射点占得以前相当遠距離より低高度蛇行運動にて近接(多くは風上側より)し離隔するを以て主砲の効果も相当重視するを要す

七、「RZP」攻略作戦の型式

 「RZP」を基地とする敵航空機の哨戒至厳なるを以て奇襲上陸を企図する上陸作戦の決行は至難なり。

 「RZP」基地の敵航空兵力を制圧其の活動を完封することは本攻略作戦成否の鍵なる処如何に我が「RZP」攻撃の航空戦を強化するも敵航空機の活動を根絶すること不可能にして低速輸送船団を以てする奇襲上陸作戦は依然として困難且つ船団に敵航空機の螺集する算減少することなかるべし。「RZP」に対する我が航空攻撃を一層強化し敵航空機の活動を制圧しつつ「サマライ」付近を急襲し之を基地とし爾後半島の南岸に沿い舟艇機動を以て相当の長時間に亘り逐次攻略の歩を進め「RZP」に迫るか又は落下傘部隊の大兵力を運用し「RZP」敵航空基地を急襲一時期敵機の活動を封じ此の機に乗じ高速艦艇を以て後続兵力を輸送増強し完全に之を確保したる後爾後所要の軍需品機材を輸送する型式を採用するの要あるべしと認む

第二、艦船兵器に関する事項

⑴ 触接機の発元電波若は実体に対し其の方向距離を探査する装置を緊急重要艦船に装備するを要す

今次MO機動部隊として行動中母艦巡洋艦及駆逐艦の全力を挙げて捜索するも触接機を発見するを得ざりしに拘らず其の電波及通信内容より数時間に亘り触接せられありしこと概ね確実なりし事例あり、又基地航空部隊の大艇は当部隊を誤認して敵と報告したる場合も約一時間触接しありしも遂に之を発見するを得ず、此の両例とも天候は極めて良く触接機に有利にして被触接部隊の不利なるが如き特例に非ず、此等より推し触接機特に大型機に対しては天候良好なる場合三〇〇〇米乃至四〇〇〇米にて発見するを得、触接機の跳梁を許さざるの自信を有せん。今迄の戦訓は完全に破られ大倍力眠鏡等視覚を以てする物以外新たなる方式に依る敵機の発見法の要を痛感する次第なり

⑵ 航空母艦の脆弱性を速に改善するを要す

 航空母艦の防禦力向上は其の機動性を減殺せざる範囲に於て増大するを要するも之が為重防禦方式一点張となり個艦集中の為艦数の整備減少する等種々の関連する所大なるを以て一律に論ずるを得ざるも母艦増勢必至なるべき趨勢に鑑み全く新なる構想に立ちて母艦脆弱性改善に就き研究を要するものと認む

第三 其の他

一 敵雷撃機に対する巡洋艦主砲射撃

 今次戦斗に於て敵雷撃機は射点に達する四〇〇〇ー五〇〇〇米前付近より高度を下げ高度一〇ー二〇米となし上下に波状運動を行いつつ接敵二〇〇〇ー三〇〇〇米にて発射するを例とせり。

 以て之を撃攘するに相当の時間的余裕あり主砲通常弾炸裂による射撃効果のみならず主砲弾着による水柱を以て敵機の発射を妨害し得たること一再ならず対雷撃機主砲射撃の有効なるを経験せり

二 機動を主任務とする部隊に対し之を局地に拘束する副任務を課せざるを可とす

 今次作戦に於て専ら敵海上有力部隊を目標とするMO機動部隊に対し其の行動を時機的にも地域的にも著しく拘束する「ラバウル」への戦斗機空輸任務を付加せられたる処予定日時天候不良の為当初の計画通空輸任務を遂行し得ず 為にMO機動部隊爾後の行動を制肘遅延せしむるの余儀なきに至り作戦実施上影響する処多大なるものありし事実に鑑み機動を主任務とする部隊の他の二次的副任務の為局地に拘束せざるの留意を必要と認む


 後に珊瑚海海戦戦訓として纏められて報告されてはいるが、それが活用されたのか疑問が残るところではある。しかし、その内容を見ると、第一戦術、第二戦務、第三空中戦闘、第四降下爆撃、第五攻撃、第六偵察、第七通信、第八航空母艦の艤装、他付録として記述があり、その中から一部重要であると思われる箇所を抜粋してみたい。


第一 戦術

 (・・本海戦に於て敵が有力なる海上兵力を擁しつつ一度我航空兵力の威力圏内に入るや忽ちにして其の主力を撃破せられ敗戦の苦杯を嘗めたる事実は今や海上権力の主体が海上部隊より航空部隊に転移せるを実證せるものと謂うべく海軍軍備及海上用兵思想に一大転回を要する時機に遭遇せるを認む。・・

㋑ 海上航空戦に於ては基地航空兵力と航空母艦との緊密なる協同連繋に依り航空威力の全幅発揮に努むること肝要なり・・

 本海戦に於て祥鳳及翔鶴が二五番爆弾一乃至三発の命中に依り其の機能を喪失せる事実は航空母艦の本質的欠陥たる脆弱性を如実に立證せるものと謂うべく・・

 母艦搭載機行動能力即ち偵察能力の劣小なる事実は海上航空部隊の作戦上致命的欠陥にして速に対策樹立の要あると共に航空母艦は成し得れば基地航空部隊の偵察に依存し其の支援下に主として敵海上兵力の攻撃を分担せしむるを有利とす

 近き将来に於て航空部隊の主兵は基地航空兵力にして航空母艦は補助的兵力たるの必然的運命を有するものと認むるも現状に於ては基地航空兵力の行動能力兵力量に於て制限あり又基地施設の関係上迅速なる転進集中困難なるを以て母艦航空兵力は移動兵力たる其の特質を発揮し以て基地航空兵力の欠を補い航空作戦の完遂を期せざるべからず。

㋺ 分散か集中か

・・攻撃力発揮は航空母艦の集中使用を有利とうるも其の脆弱性を補わんが為には機動に依る韜晦と分散に依る同時被発見攻撃を避け敵襲に依る被害を局限するの着意を必要とす

 右の要求は相互に矛盾し両立し難き感あるも航空母艦は一艦を以て克く敵の数艦に対し其の発着能力を奪うに足る攻撃力を具有せるに鑑み先づ第一撃に依り敵の発着能力を奪い第二撃以後の攻撃に依り戦果の拡充を図るを以て満足し敵襲に依る被害局限の為極力分散を図るを以て一般に有利なりとす、而して分散の程度は独力所要の索敵を実施し得ると共に一撃克く敵の数艦の戦闘力を奪うに足る兵力を以て満足し概ね一ケ航空戦隊毎に適当の距離に分散するを可とす・・

 海上航空部隊の用法は一般に分散を以て有利とするも奇襲に依り敵の反撃を封じ得る算あるか或は敵の反撃微弱なるを予期し得る情況に於ては集中を策するを可とす。

㋩ 母艦を以てする要地攻撃等は母艦の特質並に攻撃効果に鑑み左の条件を具備せざる限り之が成功の算尠く母艦の攻撃目標は敵海上兵力に撰定するを要す

 ① 奇襲成功の算大なること

 ② 敵航空兵力に依る反撃の顧慮少きこと

 ③ 攻撃兵力優大にして一撃克く敵の反撃を圧倒するに足ること

 ④ 行動海面に制肘なきこと

 ⑤ 敵海上兵力の所在行動明白なること

㋥ 航空母艦の用法は其の機動力を全幅発揮せしむるを要す、航空母艦の使用に方りては防禦的用法を避くるを要し輸送船団の護衛等には極力基地航空兵力の利用に努め止むを得ず航空母艦を使用する場合には其の占位を拘束せず極力機動力を発揮せしむる如く考慮すると共に敵機動部隊発見等の場合には成し得る限り積極的に之を攻撃に使用するの着意あるを要す

㋭ 母艦偵察能力の現状は極めて貧弱にして作戦の要求を充足せず速に偵察兵器並に教育の刷新を要すると共に機動部隊に配属せられたる巡洋艦、戦艦等に対しては極力偵察機の増載を図り且つ前述の目的に適合せる飛行機の設計試作を緊要と認む、又巡洋艦戦隊及戦艦戦隊は情況に依り敵方に前進配備し迅速なる敵上偵知に依り航空戦隊の攻撃を容易ならしむるの着意あるを要す

㋬ 戦闘諸方策

 航空母艦の戦闘は先制敵を奇襲するを要訣とし為之敵に先じて敵情を審にし母艦の機動により敵の不意の乗ずるるを最善の策とするも情況に依り一部飛行機隊を以て挺身隊を編成片道攻撃を決行し或は一部の空母を挺身進出せしめ極力多数の敵空母と相殺し他を以て戦果の拡充を図るを有利とすることあり

㋣ 航空戦に於ては飛行機の損耗大なるを常とするを以て第一次攻撃に重点を置くと共に極力補給艦船の利用、基地隊の活用を図るを要す

 母艦の戦闘に於ては飛行機隊及母艦の被害に依り第二次以後の戦闘力は低下するを常とするを以て第一次攻撃に重点を置き之れに依り所期の目的を達する如く案画するの要あり

 本海戦中八日大一次攻撃隊の被害甚大にして攻撃隊総機数六十九機中健全なるもの九機となりたるのみならず被弾機故障機の収容並に各機種の乱雑なる収容等に依り格納庫内整理困難となり又翔鶴発着不能に陥りて第二次攻撃準備遅れ遂に連続攻撃の実施不可能となれり

(中略)


 珊瑚海海戦では偵察が明暗を分ける結果にもなったため、その偵察に関する戦訓の項目がある。


   偵察

一、本海戦に於ける捜索偵察の成績は概ね不良にして敵に触接せる各飛行機の発信電報を比較検討するに敵の位置兵力行動等に関する報告値は千差万別にして当時に在りては勿論今日に於ても其の適確なる判定至難なり、斯の如き偵察能力の不足は大東亜戦争開始以来常に認めらるるところにして、本海戦に於けるものはその一適例と謂うべく他方に於て偵察の重要性実證せられたるに対比し誠に寒心に堪えざるものあり。斯術の飛躍的進歩向上を図るは刻下の急務なりと認めらる改善を要する重なる事項並に之た対策左の如し

㋑ 艦型識別法

 大東亜戦争開始以来艦隊の偵察に際し艦型誤認の例多く作戦に重大なる影響を及ぼせること一再ならず ・・・

 錯誤は著しく作戦指導部の判断を混乱せしめ重大なる戦機を逸し最悪の場合には勝敗の帰趨にも影響することありと認む

本誤認を惹起する最大の原因は

触接距離の大なること

搭乗員の艦型識別に対する訓練並に艦型識別の重要性に対する認識の不足

 に在りと認む、触接偵察距離大なるは現用偵察機が性能低劣なるに原因す即ち低速機を以て近距離の触接を実施せば忽ち敵戦闘機の好餌となるを以て結局視認限度付近の遠大距離より偵察せざるばからず、故に正確なる偵察を実施せんが為の最良手段は近迫強行偵察可能なる高速偵察機の研究活用なるも之が補助的手段として優秀なる機上眼鏡の考案装備触接高度触接方向の撰定等を考慮するを要す 次に搭乗員に対する艦型識別教育対策としては速に教育資料を整備し教育法を確立して以て充分なる訓練を実施すると共に今日迄の戦訓に依りて其の重要性を強調銘記せしめ偵察の実施に当りては一才の先入主想像等を排して毫末の遺漏なきを期せしむを要す

㋺ 航法

 航法能力の不足

 ① 羅針儀によるもの

 ② 人によるもの

 根本対策

 ① 航法の研究を主とする偵察特修科学生を採用

 ② 航法兵器に対する試作研究施設を拡充強化し速に精度良好なる航空羅針儀、偏流測定儀、六分儀等の出現を計る

㋩ 偵察報告法(省略)

㋥ 偵察兵器(省略)

   (以下省略)

    (防衛研究所・戦史史料・海軍一般史料・中央・戦訓11珊瑚海海戦)


 他の項目は割愛させていただきますが、初めて苦杯をなめた珊瑚海海戦の戦訓を今後いかせたのか、一部は改善していった面も見受けられるが、根本的な問題は、今後の海戦の情況から判断すれば判明していくこととなる。

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