第十五話 遂に米空母発見攻撃隊発進

 MO機動部隊指揮官高木中将は五月八日新たなる行動予定を通報した。


  第五戦隊機密第八六三番電

一 行動予定ヲ変更シ、八日〇五〇〇南緯一〇度四〇分、東経一五六度三〇分付近ニ

達シ、南乃至南西ノ索敵ヲ行フコロニ改ム

二 〇五〇〇ヨリ針路二一五度、速力一八節


 第五戦隊の重巡からは索敵の水偵は荒天のために取りやめ、五航戦の空母から索敵機を発進することとし、司令官原少将は八日〇二二〇索敵区分について命令を下した。空母稼働機が減っている関係上、重巡部隊の水偵によって補完したいところではあったが、天候の都合では仕方のないことであった。


  瑞鶴  一四〇度、一五五度、一七〇度

  翔鶴  一八五度、二〇〇度、二一五度、二三〇度

   進出距離二五〇浬、測程三〇浬、発艦〇四〇〇


 戦闘詳報には各艦三機計六機とあるが、実際は翔鶴から一機が追加され都合七機(翔鶴の行動調書は四機)となっている。


 索敵機

  瑞鶴   三機

    ○  操縦 佐藤 份 一飛曹

       偵察 川畑小吉 一飛曹

       電信 吉村武治 一飛 

    ○  操縦 横枕秀綱 三飛曹

       偵察 基志 億 一飛曹

       電信 佐藤敏雄 二飛曹

    ○  操縦 畑中正人 三飛曹

       偵察 牛島静人 一飛曹

       電信 森下亮一郎 一飛

  翔鶴   四機

    ○  操縦 佐藤孝司 一飛曹

       偵察 磯野貞治 飛曹長

       電信 石原芳雄 二飛曹

    ○  操縦 沖村 覚 一飛曹

       偵察 浮田忠明 飛曹長

       電信 戸澤 博 二飛曹

    ○  操縦 後藤継男 一飛曹

       偵察 菅野兼蔵 飛曹長

       電信 岸田清次郎 二飛曹

    ○  操縦 大谷信治 一飛

       偵察 山内一夫 一飛曹

       電信 五味茂雄 一飛


 機動部隊には第六戦隊より重巡「衣笠」と「古鷹」が増援のために向かっていたが、〇五五〇に機動部隊に合流した。


「翔鶴」の士官室では飛行隊長の高橋赫一少佐と運用長の福地周夫少佐が並んで早めの朝食をとっていた。

「昨夜は惜しいことをしたね」

「ほんとに惜しいかったですよ。あのときは爆弾を捨ててしまっていたので、敵の空母の真上にいながら、攻撃することができなくて残念です」

 こんな会話をしていた。


 発艦した索敵機は二時間ほどは何も発見できなかった。二〇〇度線の索敵をしていた菅野飛曹長機がついに敵空母部隊を発見した。索敵の偵察員には経験実績の高い人員を選んでいた。前回の油槽船を空母と間違えないためでもある。


 〇六二二第一電を発した。

「敵空母部隊見ユ」

 そして接触を続けて詳細な情報を伝えて来た。

「〇六二二 敵空母ノ位置味方ヨリノ方位二〇五度二三五浬、針路一七〇度速力一六節」

「〇六二五 付近天候晴、風向一二〇度、風速七米、雲高八〇〇米、視界一五粁」

 適確な情報発信であった。だが、電報は暗号文で送っていた。受信した母艦では暗号解読を急いだが平文と違って多少時間がかかる。当然発信時も時間がかかったであろう。米軍であればおそらく平文で送っていたであろう。

 菅野機はさらに敵情を送り続けた。

「〇六五四 敵ハ一三〇度ニ変針ス」

「〇六五五 敵ノ東方ヨリ触接ス、触接容易ナリ」

 菅野機は一旦離脱したあと、艦隊の東方より接触を試みたが、敵戦闘機の姿は見られなかった。

「〇七一〇 海上濛気断雲アリ、雲高八〇〇米、進撃高度二〇〇米以下」

「〇七二〇 敵ノ兵力隊形序列爾前ノ通リ」

「〇七四〇 敵飛行機群味方主力ニ向フ、三〇機」

「〇七五〇 更ニ敵飛行機群味方主力ニ向フ高度二〇〇〇米敵ハ直衛ヲ配ス」

「〇七五五 我今ヨリ帰途ニツク」

 菅野機は接触中に敵飛行機群の第一波と第二派を発見して母艦に通知した。電信員の岸田二飛曹は若干十九歳だったという。これにより瑞鶴と翔鶴は上空警戒機の零戦の追加を準備した。

 

 さらに菅野機は帰途途中に米空母攻撃に向かう攻撃隊の出合い、一旦幸運を祈るようにバンクをしたが、しばらくすると機首を翻し、攻撃隊の誘導を開始した。当然それをすれば燃料はなくなることは承知のことで、攻撃隊もそれを理解しその覚悟の心情を察したというが、当初は事故か何事かと思ったそうである。このような例はあまりないからである。当然索敵機側は全員死を覚悟しなければならない。


 菅野機の敵空母発見により艦内の動きは突然激しくなった。城島艦長は総員配置を命じ、攻撃隊の緊急発艦を命じた。

「総員配置につけ」のラッパが艦内に響きわたり、艦内拡声器は「搭乗員は急いで飛行機に乗れ」を叫んだ。

 福地運用長は当直将校の職務を塚本航海長と交代して艦橋を下り飛行甲板下方にある応急指揮所へと向かった。途中で高橋飛行隊長と出会った。

「隊長!しっかり頼みます」

「今度はやりますよ」と自信にあふれた声で応えた。二人の最期の会話となった。準備をして待機していた両空母の攻撃隊は搭乗員整列を急ぎ発艦準備を急いだ。そして〇七一〇頃より発艦を開始した。


 翔鶴 

  急降下爆撃隊    一九機

  指揮官  少佐 高橋赫一

   第一中隊

    指揮小隊 一番機 操縦 高橋赫一少佐    自爆

             偵察 野津保衛特務少尉  自爆

         二番機 操縦 篠原一男一飛曹

             偵察 染野文夫一飛曹

         三番機 操縦 福原 淳一飛曹  自爆

             偵察 鈴木富三二飛曹  自爆

    第二〇小隊一番機 操縦 山口正夫大尉

             偵察 沖 定次郎特務少尉

         二番機 操縦 上島 初一飛曹

             偵察 高田 力一飛曹

         三番機 操縦 小田桐忠造一飛

             偵察 横田益太郎

    第二一小隊一番機 操縦 伊藤勇三一飛曹 自爆

             偵察 小泉精三大尉  自爆

         二番機 操縦 白井五郎一飛曹

             偵察 小板橋博司一飛曹

         三番機 操縦 原島正義三飛曹

             偵察 田中廣吉二飛曹

    第二二小隊一番機 操縦 鈴木敏夫一飛曹

             偵察 国分豊美飛曹長

         二番機 操縦 加藤熊一二飛曹  自爆

             偵察 九島作治郎二飛曹 自爆

         三番機 操縦 大川豊信一飛

             偵察 大浦民平二飛曹

   第二中隊

    第二三小隊一番機 操縦 三福岩吉大尉

             偵察 今田 徹一飛曹

         二番機 操縦 池田 清二飛曹  自爆

             偵察 長沢重信一飛曹


         三番機 操縦 杉村敏雄二飛曹

             偵察 吉永四郎三飛曹

         四番機 操縦 岡田栄三郎三飛曹

             偵察 北村健三二飛曹

    第二四小隊一番機 操縦 松田幸徳飛曹長  自爆

             偵察 野辺武夫一飛曹  自爆

         二番機 操縦 中所修平一飛曹

             偵察 富樫勝介二飛曹

         三番機 操縦 塙 明重三飛曹 自爆

             偵察 松田 昇一飛  自爆

  雷撃隊 指揮官 大尉 市原辰雄   一〇機

   第一中隊

    第四一小隊一番機 操縦 市原辰雄大尉

             偵察 斉藤政二飛曹長

             電信 宗形義秋一飛曹

         二番機 操縦 坂倉孝治二飛曹

             偵察 松山弥高一飛曹        

             電信 森下 昇一飛

         三番機 操縦 折笠淑三二飛曹

             偵察 茂田直貴一飛曹

             電信 伊藤光明一飛


    第四二小隊一番機 操縦 進藤三郎飛曹長 自爆

             偵察 矢野矩穂大尉  自爆

             電信 伊林順平二飛曹 自爆

         二番機 操縦 戸田儀助二飛曹

             偵察 児玉清三二飛曹

             電信 安部 晃二飛曹

         三番機 操縦 伊藤東吾一飛  自爆

             偵察 佐藤一三三飛曹 自爆

             電信 高田忠勝三飛曹 自爆

   第二中隊

    第四五小隊一番機 操縦 岩村勝夫大尉 自爆

             偵察 中村幸次郎一飛曹 自爆

             電信 三角申松二飛曹  自爆

         二番機 操縦 関藤蝶治一飛  自爆

             偵察 明石達三二飛曹 自爆

             電信 小林和夫一飛  自爆

    第四六小隊一番機 操縦 石川 鋭一飛曹

             偵察 三森義雄一飛曹

             電信 福島儀男 二飛曹

         二番機 操縦 良知 保二飛曹  自爆

             偵察 田中経廣二飛曹  自爆

             電信 太田六之助二飛曹 自爆

  制空隊    九機

    指揮官 大尉 帆足 工

    第一一小隊 一番機 帆足 工大尉

          二番機 西出伊信一飛曹

          三番機 坂口春次三飛曹

    第一四小隊 一番機 山本重久大尉

          二番機 松田二郎一飛曹

          三番機 佐々木原正夫二飛曹

    第一五小隊 一番機 半沢行雄飛曹長

          二番機 山本一郎二飛曹

          三番機 河野 茂三飛

 瑞鶴 

   雷撃隊    八機

   指揮官 少佐 嶋崎重和

   第一中隊

    第四一小隊 一番機 操縦 嶋崎重和少佐

              偵察 松永寿夫特務少尉

              電信 吉永正夫一飛曹

          二番機 操縦 八重樫春造飛曹長

              偵察 姐石忠男一飛曹

              電信 大内公威一飛

    第四二小隊 一番機 操縦 堀 亀三一飛曹

              偵察 金沢卓一飛曹長

              電信 太田 毅二飛曹

          二番機 操縦 盛満 工一飛   自爆

              偵察 樋渡隆康二飛曹  自爆

              電信 谷 千尋一飛   自爆

    第四三小隊 一番機 操縦 佐藤善一大尉

              偵察 大谷良一一飛曹

              電信 吉田 湊二飛曹

          二番機 操縦 坪川 厳一飛  自爆

              偵察 山田 大一飛曹 自爆

              電信 森木常正二飛曹 自爆

    第四五小隊 一番機 操縦 石原 久一飛曹 

              偵察 新野多喜男飛曹長 戦死

              電信 西沢十一郎二飛曹

          二番機 操縦 福谷知廉一飛曹 自爆

              偵察 井手原春信二飛曹 自爆

              電信 生島 亮二飛曹 自爆

   急降下爆撃隊   一四機

   指揮官 大尉 江間 保

   第一中隊

    第二一小隊 一番機 操縦 江間 保大尉

              偵察 東 藤一飛曹長

          二番機 操縦 畠山 尚一飛曹

              偵察 藤田寅夫二飛曹

          三番機 操縦 江種繁樹一飛

              偵察 松下久男三飛曹

    第二二小隊 一番機 操縦 葛原 丘大尉  自爆

              偵察 川瀬孝治一飛曹 自爆

          二番機 操縦 堀 健二一飛曹

              偵察 上谷睦夫一飛曹

          三番機 操縦 角田光威一飛

              偵察 三宅 保一飛

    第二三小隊 一番機 操縦 中西義男一飛曹

              偵察 井塚芳夫飛曹長

          二番機 操縦 加藤清武一飛曹

              偵察 福垣内実美二飛曹

   第二中隊

    第二四小隊 一番機 操縦 安藤五郎一飛曹

              偵察 大塚禮次郎大尉

          二番機 操縦 井方作雄一飛曹

              偵察 白倉耕太一飛曹

          三番機 操縦 酒巻秀明二飛曹

              偵察 根岸正明二飛曹

    第二五小隊 一番機 操縦 福永政登飛曹長

              偵察 石川重一一飛曹

          二番機 操縦 上岡 功二飛曹 自爆

              偵察 泉 潔一飛   自爆

          三番機 操縦 上中隆三一飛

              偵察 中根 甫一飛

   制空隊 九機

   指揮官 大尉 塚本祐造

    第一四小隊  一番機 塚本祐造大尉

           二番機 清末銀治一飛曹

           三番機 大倉一茂二飛曹

    第一五小隊  一番機 牧野 茂一飛曹

           二番機 中田重信二飛曹

           三番機 二杉利次一飛

    第一六小隊  一番機 加納 彗一飛曹

           二番機 亀井豊男一飛曹

           三番機 倉田信高一飛


 六十九機の攻撃隊は十分ほどで母艦上空で編隊を組むと、針路を二〇五度に設定し高度を四千から四千五百にとり敵艦隊をめざした。

 途中、索敵から帰途する菅野機と出会った。役目が終わり帰るところであるから、ご苦労様といったところだが、突然反転して先頭に立った。そして、

「ワレ味方飛行機ト合同、誘導ス」

 と打電したのである。反転すれば燃料は欠乏することはあきらかであり、それは死を意味するものでもあった。それを受け取った翔鶴の艦橋にあった福地少佐は和田中佐にたずねた。

「飛行長、菅野の燃料は帰るだけあるだろうか」

 和田飛行長は鎮痛な面持ちで一言、

「足らぬ」

 とだけ言った。菅野飛曹長は昨日のような苦い思いをせぬように確実に攻撃隊を敵空母の場所まで案内するという使命感に満ち溢れそれが死をも恐れぬ行動となっていた。

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