第十二話 敵空母発見攻撃隊発進

 米十七機動部隊は分かれて航行していた。陸攻隊が攻撃した第三群、空母部隊本隊はヨークタウンを中心とする部隊とレキシントンを中心とする部隊で構成され、若干の距離をとって航行しており、補給部隊の第六群が補給後分離して行動していた。


 第六戦隊の「衣笠」と「古鷹」はMO機動部隊及攻略部隊を掩護すべく行動していた。七日〇六三〇頃には敵機(艦上機らしき)数機を発見したがそのうち見失い、これにより敵機の来襲を警戒する必要があり、「祥鳳」にたいして攻撃準備をなすよう命じた。

 〇六〇〇頃に「翔鶴」の偵察機より敵機動部隊発見の電報がはいったが、位置がはっきりしないまま、〇六三〇には攻撃隊が発進した。

 〇六三八「古鷹」一号機は敵機動部隊らしきものを発見した。

『敵機動部隊ラシキモノ発見「デボイネ」ノ一五二度一五〇浬』

 つづいて〇六四〇衣笠一号機も敵を発見した。

『敵ラシキモノ発見「ロッセル」島ノ一七〇度八二浬』

 敵の詳細な情報は錯綜したものになっていたが、六戦隊司令官五藤少将は、これらの情報により攻略部隊には西もしくは北西方に一旦避退するよう令した。六戦隊の索敵機が見た艦隊こそ、米機動部隊本隊であったのだが、絶好の機会を逃してしまったことになる。


 MO機動部隊は七日〇四〇〇南緯十三度二〇分、東経一五八度〇分に達し、〇四一五索敵機を発進し、一六〇度より二七〇度までの範囲二五〇浬圏内を索敵した。その中で翔鶴機が〇五三〇敵を発見し

「敵航空部隊見ユ味方空母ヨリノ方位一八二度一六三浬」

 と報告してきた。艦載機の攻撃準備は整っていたので、空母「翔鶴」「瑞鶴」から九九式艦爆三六機、九七式艦攻二四機、零戦一八機よりなる攻撃隊が発艦した。


瑞鶴隊

  急降下爆撃隊   一七機  二五〇㌔×一七

  指揮官  大尉 江間 保 


  第一中隊 第二一小隊 一番機 操縦 江間 保大尉

                 偵察 東 藤一飛曹長

             二番機 操縦 畠山 尚一飛曹

                 偵察 藤岡寅夫二飛曹

             三番機 操縦 江種繁樹一飛

                 偵察 松下久男三飛曹

       第二二小隊 一番機 操縦 葛原 丘大尉

                 偵察 川瀬孝治一飛曹

             二番機 操縦 堀 健二一飛曹

                 偵察 上谷睦夫二飛曹

             三番機 操縦 角田光威一飛

                 偵察 三竜 保一飛

       第二三小隊 一番機 操縦 中西義男一飛曹

                 偵察 井塚芳夫飛曹長

             二番機 操縦 加藤清武一飛曹

                 偵察 福垣内実美二飛曹

             三番機 操縦 松本芳一郎一飛

                 偵察 辻 四郎一飛

  第二中隊 第二四小隊 一番機 操縦 安藤三郎一飛曹

                 偵察 大塚禮次郎大尉

             二番機 操縦 井方作雄一飛曹

                 偵察 白倉耕太一飛曹

       第二五小隊 一番機 操縦 福永敏登飛曹長

                 偵察 石川重一一飛曹

             二番機 操縦 石塚重男二飛曹

                 偵察 川添正義三飛曹

             三番機 操縦 上岡 功一飛曹

                 偵察 泉 潔一飛

       第二六小隊 一番機 操縦 稲垣富士夫一飛曹

                 偵察 小山 茂飛曹長

             二番機 操縦 酒巻秀明二飛曹

                 偵察 根岸正明二飛曹

             三番機 操縦 山中隆三一飛曹

                 偵察 中振 甫一飛

   雷撃隊  十一機

   指揮官  少佐 島崎重和

     第四一小隊 一番機 操縦 島崎重和少佐

               偵察 石見丈三大尉

               電信 吉永正夫一飛曹

           二番機 操縦 八重樫春造飛曹長

               偵察 姫石忠男一飛曹

               電信 大内公威一飛

           三番機 操縦 野沢芳明三飛曹

               偵察 内原信男一飛曹

               電信 本田信廣一飛

     第四二小隊 一番機 操縦 村上喜人大尉

               偵察 馬場常一飛曹長

               電信 富田長喜三飛曹

           二番機 操縦 横枕秀綱三飛曹

               偵察 貴志 億二飛曹

               電信 佐藤敏雄二飛曹

           三番機 操縦 西谷一郎一飛

               偵察 松尾典照二飛曹

               電信 大泉金五郎一飛

     第四五小隊 一番機 操縦 坪田義明大尉

               偵察 小坂田 登飛曹長

               電信 遠藤多作一飛曹

           二番機 操縦 杉本 諭一飛曹

               偵察 新野多喜男飛曹長

               電信 長谷川清松一飛

           三番機 操縦 坪川 厳一飛

               偵察 井出原春信二飛曹

               電信 生島 亮二飛曹

     第四六小隊 一番機 操縦 石原 久一飛曹

               偵察 金沢卓一飛曹長

               電信 西沢十一郎二飛曹

           二番機 操縦 畑中正人三飛曹

               偵察 牛島静人一飛曹

               電信 森下亮一郎一飛 

  制空隊  九機

    指揮官  大尉 岡嶋清熊

     第一小隊  一番機 岡嶋清熊大尉

           二番機 小見山賢太一飛曹

           三番機 坂井四五郎二飛曹

     第二小隊  一番機 住田 剛飛曹長

           二番機 佃 精二一飛曹

           三番機 藤井孝一一飛

     第三小隊  一番機 岩本徹三一飛曹

           二番機 伊藤純二郎一飛曹

           三番機 前七次郎一飛

翔鶴隊

 急降下爆撃隊  十九機 

 指揮官  少佐 高橋赫一  

 第一中隊 第二〇小隊 一番機 操縦 高橋赫一少佐

                偵察 野津保衛特務少尉

            二番機 操縦 篠原一男一飛曹

                偵察 染野文夫一飛曹

            三番機 操縦 福原 淳一飛曹

                偵察 鈴木富三二飛曹

      第二一小隊 一番機 操縦 山口正夫大尉

                偵察 中定次郎特務少尉

            二番機 操縦 上島 初一飛曹

                偵察 甲田 力一飛曹

            三番機 操縦 小田桐忠造一飛

                偵察 元俊二郎二飛曹

      第二二小隊 一番機 操縦 伊藤勇三一飛曹

                偵察 小泉精三大尉

            二番機 操縦 白井五郎一飛曹

                偵察 小板橋博司一飛曹

            三番機 操縦 原島正義三飛曹

                偵察 田中廣吉三飛曹

      第二三小隊 一番機 操縦 鈴木敏夫一飛曹

                偵察 國分豊美飛曹長

            二番機 操縦 加藤熊一二飛曹

                偵察 九島作次郎二飛曹

            三番機 操縦 大川豊信一飛

                偵察 大浦民手三飛曹

 第二中隊 第二四小隊 一番機 操縦 三福岩吉大尉

                偵察 今田 徹一飛曹

            二番機 操縦 池田 清二飛曹

                偵察 長沢重信一飛曹

            三番機 操縦 杉村敏雄二飛曹

                偵察 吉永四郎三飛曹

            四番機 操縦 岡田栄三郎一飛

                偵察 松田 昇一飛

      第二五小隊 一番機 操縦 松田幸徳飛曹長

                偵察 野辺武夫一飛曹

            二番機 操縦 中所修平一飛曹

                偵察 富樫勝介二飛曹

            三番機 操縦 塙 明重三飛曹

                偵察 山内 博三飛曹

 雷撃隊  十三機

 指揮官   大尉  市原辰雄

 第一中隊 第四一小隊 一番機 操縦 市原辰雄大尉

                偵察 斉藤政治飛曹長

                電信 実形義秋一飛曹

            二番機 操縦 板倉孝治二飛曹

                偵察 松山弥高一飛曹

                電信 森下 昇一飛

            三番機 操縦 折笠淑三二飛曹

                偵察 茂田直貴二飛曹

                電信 伊藤光明一飛

      第四二小隊 一番機 操縦 佐藤孝司一飛曹

                偵察 磯野貞治飛曹長

                電信 石原芳雄二飛曹

            二番機 操縦 戸田儀助二飛曹

                偵察 児玉清三一飛曹

                電信 安部 晃二飛曹

      第四三小隊 一番機 操縦 後藤継男一飛曹

                偵察 菅野兼蔵飛曹長

                電信 岸田清二郎二飛曹

            二番機 操縦 伊藤東吾一飛

                偵察 佐藤一三三飛曹

                電信 高田忠勝三飛曹

 第二中隊 第四四小隊 一番機 操縦 石川 鋭一飛曹

                偵察 萩原 努大尉

                電信 相良栄吉二飛曹

            二番機 操縦 村上長門一飛

                偵察 高橋 弘一飛曹

                電信 児玉照視一飛

      第四五小隊 一番機 操縦 岩村勝史大尉

                偵察 白井福次郎一飛曹

                電信 三角申松二飛曹

            二番機 操縦 人見達弥三飛曹

                偵察 明石達三二飛曹

                電信 下道義一二飛曹

      第四六小隊 一番機 操縦 米倉久人飛曹長

                偵察 中村幸次郎一飛曹

                電信 福島儀男二飛曹

            二番機 操縦 良知 保二飛曹

                偵察 田中経廣二飛曹

                電信 太田六之助二飛曹

 制空隊   九機

  指揮官  大尉 帆足 工

   第十一小隊  一番機 帆足 工大尉

          二番機 宮沢武男一飛曹

          三番機 小町 定三飛曹

   第十二小隊  一番機 安部安次郎特務少尉

          二番機 川西仁一郎一飛曹

          三番機 田中喜蔵三飛曹

   第十三小隊  一番機 南 義美一飛曹

          二番機 岡部健次二飛曹

          三番機 一ノ瀬 寿二飛曹


 〇六一〇攻撃隊は艦隊上空で編隊をまとめ敵発見位置に向けて飛行していった。

 しかしその後〇七〇〇頃に索敵機より

「敵ハ空母ニアラズシテ油槽船一隻駆逐艦一隻ノ誤認ナリ」

との報せが入ったが、攻撃隊はこの二隻を発見確認し、九九艦爆隊は爆撃態勢に入った。雷撃隊はあくまで空母が目標のための魚雷を積んでいるために、付近の探索を始めた。


 何故に索敵機は油槽船と空母を見間違えたかである。大きなミスである。当時「翔鶴」運用長であった福地周夫少佐は「空母翔鶴海戦記」の中で、ある偶然によって起因してしまったとしている。つまり、古参の偵察員が台湾で搭載した多量のパインアップルの缶詰の食べ過ぎたためにより腹痛をおこし、経験の浅い偵察員に代わったためとしている。えてして、その索敵線上に敵部隊はいるものである。

 翔鶴の索敵線は次のように割り振られ発進した。

 一八〇度線

    柴田正信飛曹長機

    大竹登美衛一飛曹機

 二〇〇度線

    浮田忠明飛曹長機

    三森義雄一飛曹機

 二二〇度線

    矢野矩穂大尉機

    山内一夫機

 そして、一八〇度線上の索敵機が敵部隊を発見し報告したが、油槽船を空母と認識してしまったのである。そもそも、空母一隻に護衛艦が一隻というのもおかしなものである。戦争も錯誤から勝敗の運命が変わる。

 この二機は機位を失って母艦に帰投できず、「インジスペンザブル」礁に不時着したが搭乗員は無事で後刻救助された。


 艦爆隊は付近を捜索しても空母は発見できないため、油槽船と駆逐艦に対しての爆撃を開始した。

 瑞鶴隊は油槽船「ネオショー」に対して五弾を命中させ、駆逐艦「シムス」にも何発か命中させたが、二五小隊の石塚二飛曹機(偵察川添三飛曹)が被弾自爆し、他に四機が被弾した。翔鶴隊も油槽船と駆逐艦に爆弾を命中させ、駆逐艦は沈没、油槽船は大破炎上して漂流をはじめた。このため撃沈確実と思われた。翔鶴隊も被弾機を出した。


 この時の模様は掩護にあたっていた瑞鶴の岩本徹三一飛曹の手記「零戦撃墜王」(光人社NF文庫)に少しだが認められている。

『攻撃隊本隊は、さらに扇形の索敵を続行した。その間、私たち戦闘機隊は、見張り、警戒にあたるのだが、それは戦闘以上にエネルギーを消耗する。当然あらわなければならぬはずの敵があらわれてないので、精神的に疲れるのである。

 ついに攻撃隊は索敵を断念して、反転、帰路についた。わが中隊は艦爆掩護の位置で飛行中、反転後約二十分ごろ、雲の切れ間から二隻の軍艦を発見した。

 艦爆隊の指揮官は、ただちに下方の艦に接敵し、爆撃姿勢をとり、いつでも攻撃開始可能の態勢で旋回しながら注視すると、一隻は大型油槽船であり、他の一隻は駆逐艦らしい。この二隻はわれわれの飛行高度付近に、けなげにも高角砲を撃ち上げてきた。

 艦爆隊はすでに急降下を開始すると、指揮官機につづいてつぎつぎと突入し、投弾を終わった機は、海面すれすれに引き起こして低空飛行で離脱する。

 命中した爆弾により、大型油槽船は中央から火煙を吹きあげた。駆逐艦は、一発の命中弾で艦首を高く突き上げると見るや、たちまち海中に姿を没した。

 油槽船は火煙を噴きながら、必死に機銃の応戦とつづけている。降下中の一機が、パッと光って火を発した。

「あッ!やられた」思わず私は叫んだ。

 たちまち火につつまれてとみるや、一個の火の玉となって、そのまま油槽船に突進し、みごと甲板上に体当たりした。

 自爆機の火が、油槽船に点火したかのように、猛火を発して甲板一面は火の海となった。』


 駆逐艦「シムス」はシムス級駆逐艦の一隻で、一、五七〇トン、五インチ単装砲四門、五三センチ四連発射管二基、速力三七ノット。油槽船「ネオショー」は艦隊随伴型油槽船で、二四、八三〇トン、全長五三三フィート、速力一八ノット、五インチ単装砲四門、二〇ミリ単装機銃四門。


 モリソン戦史には次のように記されている。

『日本機は「航空母艦」と誤認した「ネオショー」を目懸けて艦尾の方向より三次にわたる波状攻撃をなして来襲した。

 駆逐艦「シムス」は最善の努力を尽して応戦したが、同艦の二十ミリ砲四門の中の一門は早くより動かなくなり、またその主砲塔は僅か一機を撃破したのみであった。五〇〇ポンド爆弾三個が同艦に命中し、その中の二個は同艦の機関室内で爆発した。かくて同艦は数分間の中に、艦の中央部をへし折って艦尾より沈没した。

 総員退却が開始された。丁度、同艦の一本煙突の頂上が海面より没しようとした時、物凄い大爆発が起った。そのため同艦の残骸は海面上より十フィート乃至十五フィートも吹け揚げられた。さらに爆雷による小爆発が続いて起った。

 信号長のR・J・ディッケンは、水兵等が首尾よく降ろしていた破損した大型ボートで若干の生存者を救い上げた。彼は僅か十五名の生存者を発見したのみであった。

 その間に、急降下爆撃機二十機は、「ファット・レディ」(肥った貴婦人)と同艦が給油をしている各軍艦の水兵達からあだ名をつけられた、油槽艦「ネオショー」の上に集中攻撃を加えた。

 かくして数分間以内に、日本機は「ネオショー」に直撃弾七発と至近弾八発を与えた。その中の一発は特攻機の体当りによるもので四番砲の砲側に激突して自爆した。ガソリンが同機の油槽より破裂して、忽ち甲板一面は燃ゆる火の海と化した。

 艦長フィリップス海軍大佐は全員に対して「総員退去の準備をして待機せよ」と命令した。(中略)

 五月七日より十一日まで四日間にわたり、油槽艦「ネオショー」は信風の前に西寄りに漂流を続けた。全員は必死になって同艦が沈没しないように浮揚作業に努力した。死者は水葬され、負傷者は状況の許す限り手厚く看護された。濠洲ニュージランド方面海軍部隊司令官ハーバード・F・リアリー海軍中将はヌーメアに在泊中の水上機母艦「タンジール」所属の「カタリーナ」飛行艇に対して、生存者を捜索するように命令を下し、さらにこれらの「カタリーナ」飛行艇の報告による漂流者を救助し、油槽艦「ネオショー」の残りの乗員を収容するために、五月九日早朝に駆逐艦「ヘンシー」を出動させた。』


 駆逐艦「ヘンシー」は十一日午後飛行艇の通報にもとづき「ネオショー」を発見して乗員一二三名を収容して同艦を自沈させた。

 

 雷撃隊は攻撃する対象が存在しなかったために、魚雷を胴体に抱いたまま帰投してきたが、さすがに母艦では危険すぎるたけに魚雷を投棄して着艦するよう指示した。やむなく各機は魚雷を投棄したが、翔鶴の指揮官機市原大尉は魚雷を抱いたまま着艦に成功し、見守る全員は安堵の歓喜をあげたという。

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