第十話 ツラギ攻略部隊の戦闘

 日本海軍の第十九戦隊司令部の「戦闘詳報」には詳細に綴られている。


『四日〇六二〇敵艦爆約二十四機、雷撃機約十二機「フロリダ」島方面より低空にて来襲在泊艦船に対し雷爆撃すると共に港口付近行動中の哨戒艦艇及水上基地に対し機銃掃射をなせるを以て駆逐隊の補給中止急速出港雷爆撃に対する回避を行うと共に所在の全兵力を以て反撃〇六五〇南方に撃退せり

  此の間菊月は敵機来襲に依り沖島の横付を離れる直後機関室ん魚雷命中浸水し行動不能に陥り極力浸水遮防に努めたるも浸水多量の為第三利丸をして曳航「ガブツ」島の対岸に擱座せしむ

沖島及夕月は敵機を撃退後再び湾内に入り漂泊菊月の救助作業を開始せり

〇九〇〇第四艦隊命令に遵い敵の再度来襲を警戒する為特務部隊の荷揚作業を中止し在泊艦船を「イサベル」島「バングヌ」島間の海面に避退する如く発令極力信号の通達を促進しつつある時〇九三〇港外「サボ」島付近航行中の玉丸、第一号、第二号掃海特務艇に敵機十数機来襲爆撃及銃撃をなせり泊地に於て其の水柱を認めたるを以て沖島及夕月は直に出港警戒航行中敵爆撃機十八機雷撃機十一機来襲夕月に爆弾二個を投下したる後沖島に向針一〇一〇より一〇五〇の間に亘り相次いで沖島を襲撃せり敵は爆撃後味方水偵と空戦一一一五「フロリダ」島北方上空に集結南方に退避せり 聖川丸神川丸水偵二機は何れも敵機六乃至一〇機と壮烈なる空戦の後不時着せり

第二次空襲に依り第一号、第二号掃海特務艇沈没玉丸は浸水の為「ハユサバハーバー」(ツラギの三一五度一五浬)に擱座せり(註 後刻判明せるものなり)

第二次空襲に於ける敵機の滞空時間長かりしを以て敵機動部隊至近の距離に在るものと判断し第三次空襲を警戒する為菊月の救助は一時断念し沖島夕月は「イサベル」島「バングヌ」島間の海面に避退する如く行動せり

一一五一敵戦闘機四機「サボ」島付近行動中の夕月に来襲約十五分間に亘り反覆機銃掃射を浴せ南方に避退せり、本掃射に依り夕月は人員兵器共に損傷甚だしく戦闘力の維持困難なりしを以てRRに直航せしむ

一三一三「ハブブ」島北方に避退行動中の沖島に対し敵艦爆十一機来襲一三三二南方に撃退せり沖島は屡次の敵襲に依り多数の至近弾を受け航行には支障なかりしも船体兵器並に人員の損傷相当甚だかりしを以て応急処置に依り極力戦闘力の維持に努めつつ避退せり

高栄丸は陸揚作業を中止し一一〇〇頃出港「イサベル」島「バングヌ」島間の海面に避退行動中一二四五「サボ」島の北東五浬に於て第一号第二号掃海特務艇乗員の漂流するを認め付近航行中なりし第八玉丸を協力せしめ之が救助に当り一六三〇生存者三五名を救助し避退海面に向えり救助作業中一三一五敵機の来襲を受けたるも被害軽微吾妻山丸は陸揚作業中一三〇〇敵艦爆一二機の来襲を受け便乗中の陸戦隊員に相当の被害ありたるも船体の被害軽微にして一四三〇頃陸揚作業の大部を終了し一五〇〇出港避退海面に向えり

第三利丸はRXBに残留極力菊月の救助の努む

第八玉丸は避退行動中「ツラギ」の西方に於て一三三〇より一三五〇に亘り敵機の銃撃を受け若干の被害ありしも航行に支障なく行動を続行せり』


 また、特設水上機母艦「神川丸」はツラギ攻略部隊の対空対潜警戒の任務についていたが、一九戦隊からの敵機動部隊来襲につき観測機三機を発進させた。

 観測機は一一三五ツラギ上空でグラマン戦闘機二機と交戦したが、二番機と三番機は被弾し自爆をとげた。


「戦闘詳報」には

『「ツラギ」付近天候半晴五百米付近に断雲ありしため味方識別の必要上より断雲下方H二五〇米にて「ツラギ」上空に接近しつつありし時断雲上より米「グラマン」戦斗機二機我の後方に廻らんとしつつあるを発見、一番機向首反撃空中戦斗に移りたるも二番機は敵射弾回避後れ一一四〇頃空中火災を生じ自爆せり

 三番機は敵二機と単機空戦しつつありたるも一一四五頃三番機の空戦しつつあるを認めたる後三番機を認めず自爆せること確実なりと認む 一番機は約十五分間一一五〇頃迄空戦継続し有効なる射撃を為したるも撃墜するに至らず敵を南方に撃退したる後「ツラギ」水上機基地に着水せり』


 〇六〇〇ツラギ基地にあった零式観測機三機を発進させようとしたが、離水する際に敵機の銃撃により一機が炎上した。さらに一〇〇〇時に来襲時に零観一機、九五水偵一機が発進して、応戦して一機を撃墜したが、一機は自爆し、一機は小破する被害を受けた。


「聖川丸」の「戦闘詳報」には次のように記載されている。

『A、零式観測機(Rー一二号)操縦員熊澤一飛曹、偵察員松澤三飛曹 〇九三五離水再度来襲せる敵機の攻撃に向いしに「ツラギ」南西約二十浬の海面にて沖ノ島に対し爆撃対勢にありし敵機(SBD三型)十三機を発見、全速にて近迫せり、敵は順次沖ノ島に対し降爆終了「ツラギ」方向に向うを認め、いの一番に対し高度七〇〇米より前上方攻撃を加えたるも成功せず、尓後敵十三機に包囲せられ苦戦に陥りしも屈せず、力戦奮斗高度一〇〇米に於て敵の一機に対し正面衝突の態勢にて攻撃之を完全に海中に撃墜せるも、我又燃料タンク潤滑油タンクを破られ偵察員は重傷し発動機回転不調となり飛行不能の状態となり、敵は交互に後上方より執拗に攻撃し来るを反撃回避しつつ揚力を失える機を巧に操り辛うじて「フロリダ」島の南方一五〇〇米に不時着せり、敵は尚も攻撃を弛めざるを以て操偵共海中に飛込み敵の射撃を避け、飛行機は敵機の数次の銃撃により間もなく右に傾き顚覆せり

脱出せる操縦員は偵察員(背部盲貫銃創の為重傷)を授けつつ約一時間半泳ぎて着岸、尓後幾多の労苦を忍び徒歩二時間更に途中より土人の援助を得て「カヌー」に依り午後三時「ツラギ」陸戦隊病舎に到着するを得たり

B、九五水偵(Rー二三号)操縦員山田中尉、偵察員青柳一飛曹、一一〇〇頃離水上空哨戒を兼ねRー一二号を捜索中高度一五〇〇米にて「ツラギ」湾外に向いし同島の南約五浬の地点にて近迫中敵は更に後方に四、五機ありて我を挟撃せんとする対勢を執りしも我はその一群に突入せり、敵は海中に爆弾を投棄し高度一〇〇〇乃至一五〇〇米付近にて一機対八、九機の猛烈なる格斗戦を展開せり

途中より固定機銃故障せるを以て主として旋回銃を以て交戦、敵の一機を確実に撃墜せり、爾後敵射弾を回避しつつ対勢の挽回に努むるも及ばず、止むなく攻撃を中止し一一三〇基地に帰投せり

  被害  被弾九発 浮舟応急修理にてしよう可能

C、零式観測機(Rー一三号)操縦員布川一飛、偵察員三代二飛は〇六一〇来襲せる敵艦上機撃攘の為〇六一五基地を出発せり 離水地点に向い水上滑走中敵機(ダグラス降爆機SBD三型)一機我に向い降下し来るを認め旋回銃を以て応戦しつつ急速離水せんとするもその時敵弾は操縦員及燃料タンクに命中一瞬にして火災を起せり、依って操偵共に海中に脱出、偵察員(無傷)腹部左大腿部に重傷顔手足に火傷を負える操縦員を負う如くして泳ぎ約二十分の後救助されしも操縦員は間もなく戦死せり、飛行機は炎上しつつ約五分の後沈没せり』


 駆逐艦「菊月」は五日二二二五に沈没した。玉丸も救難につとめたが六日〇四五〇に沈没した。「菊月」については次の報告があった。

『菊月は本日再び満開時を利用し第三利丸の応援を得て重量物は殆んど投棄の状態にて極力船全体を擱座せしめんと努めしも海底の状況二番連管より後部は急深にして擱座するに至らず現在迄沖島夕月の兵員計四五名の応援を得て昼夜兼行にて第二兵員室の排水(移動ポンプ四台)を続け沈没を免れ居るも元を止めされば如何ともする能わず、已に度々の干満差により船体に歪を起し損所の上(二番連管前方)は上甲板盛上りやがて切断の前徴なり、今次作戦の為逆に沖島夕月計二十八名の兵員を補充することは甚だ苦痛にsてい駆逐艦長としては戦死者も機会室内にあることとて船を放棄するに忍びず極力現状を維持し工作艦の来援を待つべきも船の状況は到底長続きせず漸次不正を増し最早工作艦を派遣さるるも艦の救助作業甚だ困難なるものと認む』

 そして最後に

『機関長以下一一名の英霊を留置したる儘全没せり

 非常の時局陛下の御船を沈め誠に申訳なし』

 と艦長からの報告であった。


日本側の次のような被害が報告された。

沈没  駆逐艦 菊月

      戦死行方不明 准士官以上  二名

             下士官    五名

             兵      五名

      軽傷     下士官兵  十四名

    掃海艇 玉丸

      戦死     司令以下   四名

      重傷     艇長以下   四名

      軽傷            三名

    第一号掃海特務艇 戦死行方不明 艇長以下二〇名

             重傷     三名

             軽傷     九名

    第二号掃海特務艇 戦死行方不明 艇長以下二三名

             重傷     一名

             軽傷     五名

損傷  敷設艦 沖島

      戦死行方不明 下士官    四名

             兵     一〇名

      重傷     准士官以上  三名

             下士官    二名

             兵      一名

         軽傷  下士官兵  一〇名

     駆逐艦 夕月

       戦死    艦長以下  一〇名

       重傷    准士官以上  二名

             下士官兵  二二名

       軽傷          多数

     高栄丸

       重傷        三名

       軽傷        七名

     吾妻山丸

       軽傷   兵員   三名

            船員   二名

     第八玉丸

       戦死   艇長   一名

       重傷        一名

       軽傷        一名

     呉第三特別陸戦隊

       戦死   准士官  一名

            兵    四名

       重軽傷      二九名

 水上機隊

   一機 焼失

   一機 不時着

   自爆 三機  戦死 影山飛曹長

             高 一飛

             上村飛曹長

             竹之内一飛

             布川一飛


  米空母機の爆撃精度がよく、魚雷が正常に馳走してくれたならば、第十九戦隊の艦船はほぼ全滅していたであろう。

 戦闘後、第十九戦隊の残った艦船は、応急修理すべくラバウルに向かうのもあれば、救助した重軽傷者を乗せたまま次期作戦に向かう吾妻山丸の姿もあった。ツラギ攻略部隊の編制は解かれ、ナウル・オーシャン攻略部隊の編制に編入されたり、ポートモレスビー攻略部隊に編入されたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る