第九話 ツラギ攻略

 志摩少将は四月二十六日RXB(ツラギ)攻略に関する命令を発令した。


 機密RXB攻略部隊命令作第一号

   昭和十七年四月二十六日 トラック 旗艦 沖島

         RXB攻略部隊指揮官 志摩清英

    RXB攻略部隊命令

第一 敵情 別紙第一

 ※ 別紙 第一

   敵情

一、一般情況

 機密南洋部隊MO攻略部隊命令作第一号の通

二、RXB方面の情況

 イ、「ガブツ」島には敵大艇其他(使用数一乃至三機程度)あり且「ツラギ」及

  「ガブツ」の両島には無線電信所現存す

 ロ、開戦前「ツラギ」島には約七〇名「ガブツ」島には約三〇名の守備兵(濠洲

  兵)を配すると共に機関銃座らしきものを構築しあるものの如し 最近の情況

  に関しては未詳なるも第一項一般情況に鑑みRXB方面に於ける敵守備兵力を

  過小視せざるを要す

 ハ、湾内には魚雷艇らしきものありとの情報ありしも正確を期し難し

 ニ、湾内の水深機雷敷設を適するを以て敵機雷に対し相当警戒の要あり

 ※

第二 友軍各部隊は機密南洋部隊命令作第一三号に遵い作戦す

第三 RXB攻略部隊は友軍各部隊と緊密なる連繫を保持しY日を期しRXB及付

 近要地を攻略し所在の敵を撃滅すると共に急速航空基地を設定せんとす

第四 兵力部署

 主隊    第十九戦隊 旗艦 敷設艦沖島

       第二十三駆逐隊 駆逐艦 菊月、夕月

 哨戒部隊  第十四掃海隊 

       第八玉丸、第三利丸

       第二文丸、第三隻丸

       掃海特務艇第一号、第二号

 特務部隊  輸送船 吾妻山丸、高栄丸

 陸戦部隊  呉第三特別陸戦隊の一部

 設営隊   第七設営隊の一部

第五 各部隊の行動

 □主隊及特務部隊

 一、第一航路の場合0000|Yー3RR出撃「カゼール」岬の東方に於て第二警

  戒航行序列に占位し概ね別図第一の航路を経て2300|Yー1RXB港外所定

  漂泊位置着爾後

 イ、特務部隊は直に陸戦隊を揚陸す

   沖島は漂泊位置付近に在りて揚陸掩護竝に泊地の防備に任ずると共に第十項掃

  海計画に依り掃海を行う

 ロ、特令に依り新定錨地に入泊前項の任務を続行すると共に航空基地設営作業を援

  助す

 二、1D|23dg

 イ、第一航路の場合 2200|Yー4RR発「セントジョージ」海峡北部の敵潜

  の掃蕩したる後「ガゼール」岬の東方の於て第二警戒航行序列に占位す

 ロ、RXB港外に到達せば令なくして解列第一哨戒線及第二哨戒線付近を哨戒す

 □哨戒部隊

一、Yー4日以後便宜RR発概ね別図第一の航路を経て2300|Yー1RXB港外

 着第四哨戒線、第五哨戒線及五洋丸の北東一粁付近に各wx 2を配し警戒す

 イ、第四哨線及第五哨線付近配備のwx 4はY日天明後成るべく速に第七項の掃

  海計画に依り掃海を実施す

 ロ、五洋丸付近配備のwx 2は「ガブツ」島及「ツラギ」島上陸用舟艇群を嚮導し

  同部隊の上陸概ね完了迄之を掩護したる後第四哨線、第五哨線(特務部隊入泊

  後は第六哨線)付近を哨戒す

二、wx 1

  Yー4日以後便宜RR発概ね別図第一の航路を経てYー1日夕刻「サウザンドシ

 ップス」湾付近着水偵基地の警戒に任ず

 □陸戦部隊

一、陸戦部隊はY日天明前「ガブツ」島及「ツラギ」島に上陸之を攻略すると共に一

 部兵力を以て成るべく速に「マカンボ」島を攻略す

 イ、上陸点左の通

   「ガブツ」島A及B

   「ツラギ」島C

   「マカンボ」島D

 ロ、上陸部署 別令

二、急速高角砲台を設置す

三、特令に依り守備隊を残置し爾余の陸戦部隊を五洋丸に収容す

 □設営隊

 第八項航空基地設営計画に基き急速航空基地を設完す

(第六、第七省略)

第八 航空基地設営

一、設営目的

 浜空大艇十機分に対する基地を急速設定するに在り

二、設営方針

 イ、第一段作業

  Y+1日以降大艇十機の進出に支障なからしむるを目途としY日中に繋留浮標の

 設置を完了すると共に燃料及爆弾補給上差当り必要なる諸準備を整う 尚Y日午前

 中に大艇三機進出に対する諸準備を完成す

 ロ、第二段作業

  Y+1日中に基地用物件の陸揚を完了し爾後暖急順序に応じ逐次陸上諸施設を整

 備す

三、設営場所

 「ガブツ」島及付近海面

四、基地用人員物件は主として勝泳丸にて輸送す

 (第九以降 省略)


 日本側がツラギ方面の敵情について知りえてきたことは、ツラギ島には約七十名、ガブツ島には約三十名の守備兵が配置さえれており、機銃陣地らしきものも構築されているようであった。ガブツ島には大艇基地もあり、一機ないし三機程度が繋留され、ツラギ、ガブツ両島のは無線電信所も設置され、港内には魚雷艇らしきものもあるとのことであるが、正確性には欠いており、警戒を要する必要があった。


 四月二十九日一〇〇〇先づ哨戒部隊がラバウルを出撃した。

三十日〇五三〇駆逐隊が出撃し、ラバウル港外及セントジョージ海峡の対潜掃蕩をおこない、主隊および特務隊は〇七三〇にラバウルを出撃し、セントジョージ海峡にて駆逐隊と合同し、第一警戒航行序列にて航行、夜間は第二警戒航行序列にて、上空には掩護の飛行機による対空対潜哨戒をうけながら航行した。

 五月二日一九三〇「サボ」島の北方において先行の哨戒部隊と合流し、同日二二〇〇ツラギ港外に漂泊し二三〇〇計画通りに上陸を開始した。敵兵は撤退したのか抵抗をうけることなく、三日〇一〇〇「ツラギ」島及「ガブツ」島に上陸成功し〇五〇〇までには各島の掃蕩と完了し占領した。


 そして三日、日本軍の揚陸作業は続けられていたが、そこに突然米空母「ヨークタウン」の艦載機が襲来したのである。


 モリソン戦史には次のように記されている。

『五月四日六時三〇分、日の出の十分前に、航空母艦「ヨークタン」は「デヴァステーター」雷撃機と十二機と「ドーントレス」急降下爆撃機二十八機よりなる攻撃隊の発進を開始した。次いで「ワイルドキャット」戦闘機六機の航空戦闘哨戒隊を空中に発進させた。さらに各巡洋艦の水上機も対潜水艦哨戒のために発進した。

 航空母艦「ヨークタウン」は作戦可能の戦闘機を僅か十八機しか搭載していなかったので、これらの戦闘機は母艦上空の戦闘哨戒のため、三交替で使用されねばならなかった。このようなわけで攻撃に向った爆撃機隊はいずれも、若し敵機の空中反撃に出会った場合には自機の〇・三吋口径機銃を以て防戦する他はなかった。しかしこの危機を甘受しても攻撃を決行せねばならなかったのである。

 各飛行中隊は、この当時の航空母艦戦闘の最も初期時代に於ける海軍航空理論に基いて、攻撃目標に殺到して各個に攻撃を加えた。

 バーク海軍少佐の率いる「ドーントレス」急降下爆撃機の哨戒中隊が最先きにツラギ島上空に殺到して八時十五分に攻撃を開始した。戦争中いつも通例になっていたように、飛行機操縦士はその目撃したものを過大評価した。すなわち彼等のすべて白鳥と思ったものは鵞鳥であり、すべて鵞鳥と見なしたものは鴨か鵞鳥の子であった。そして彼等は、志摩海軍少将の旗艦たる艦隊随伴機雷敷設艦(沖ノ島)を軽巡洋艦に、輸送船を水上機母艦に、また大型掃海艇を輸送船に、さらに上陸用舟艇を砲艦にそれぞれ誤認したのである。ただそこに現存した駆逐艦二隻のみが正確に艦種を識別されたにすぎなかった。

 これらの哨戒爆撃機は一〇〇〇ポンド爆弾十三個を投下して、駆逐艦「菊月」を損傷し、これに擱座を余儀なくさせた。それからさらに小型掃海艇二隻を海の藻屑として葬り去った。

 それから五分後に、ジョー・テイラー海軍少佐の率いる雷撃機隊が来襲して航空魚雷十一本を発射したが、僅かに掃海艇「玉丸」を撃破したのみであった。次いで八時三〇分に、ショート海軍大尉の率いる爆撃機隊が、さらに一〇〇〇ポンド爆弾十五個を投下したが、その戦果は多分、二隻の艦船に小被害を与えたのみであった。

 かくて九時三一分に、全機は無事に航空母艦「ヨークタウン」に帰還した。そして第二次攻撃のため、直ちに弾薬の補給を行った。それはバーク海軍少佐の言ったように、操縦士達が一杯のコーヒーを飲む暇さえもなかった位に急いだのであった!

 この第二次攻撃は、いずれも半トン爆弾一個を積載した「ドーントレス」急降下爆撃機二十七機に加うるに「デヴァステーター」雷撃機十一機よりなり、第一次攻撃完了より一時間後に発進を開始した。この第二次攻撃隊は日本軍の哨戒艇一隻に損害を与え、水上機二機を撃破した。雷撃機隊は熾烈な対空砲火を冒して突入し、各機とも航空魚雷を発射したが、その戦果は零であり、しかもその一機は帰還の途中で喪失した。

 飛行機搭乗員の報告によれば、さらに日本軍の飛行艇三機がツラギ港内のマカムボ島沖に繋留されているというので、フレッチャー海軍少将はその日の午後、これを捕捉するために戦闘機四機を出撃させて、これを撃破した。これらの「ワイルドキャット」戦闘機は、この時に駆逐艦「夕月」が出航しているところを発見したので、四回にわたり同艦に機銃攻撃を加えて艦長その他、多数の乗員を殺した。しかし同艦は僅少な損傷を蒙ったのみで遁走してしまった。

 これらの戦闘機は航空母艦「ヨークタウン」へ帰還飛行中に、その二機が残余の僚機と離れ離れになってしまってガダルカナル島南岸に不時着して大破した。しかし同夜、その操縦士達は駆逐艦「ハマン」に救助された。

 一四時に発艦した「ドーントレス」急降下爆撃機二十一機よりなる第三次攻撃隊さらに半トン爆弾二十一個を投下したが僅かに上陸用舟艇四隻を撃沈したばかりであった。そして、一六時三二分までには、全機が航空母艦に帰還した。かくて「ツラギ島の戦い」は終ったのである。

「ツラギ島作戦は、その戦果に対して消費された弾薬量から見ると確かに失望すべきものであった」

 とニーミッツ海軍大将は言明した。彼はこの機会を利用して、「あらゆる機会に於いて標的に対する実弾射撃訓練を実施する必要性」を強調したのである。』


 「空母ヨークタウン」(朝日ソノラマ文庫)によれば次のようになっている。


『翌五月二日、数機の陸軍機Bー17がツラギに向かう日本軍部隊を発見したが、その情報はー日本側のたるみをも思い出させるのだがー二十六時間後までフレッチャーに届かなかった。五月三日にフレッチャーは、この情報を得たが、「レキシントン」が追いつくのを待つことはできない、と決断した。単独でツラギに向かわねばならないと思ったのだ。そこで駆逐艦「シムス」と油槽船「ネオショー」に、「レキシントン」部隊とオーストラリア重巡部隊との所定の会合点で「ヨークタン」が攻撃に向かったことを伝えるよう指令した。

  五月三日の午後八時三十分には、巡洋艦四隻、駆逐艦六隻を随伴した「ヨークタウン」はガダルカナルに向かって北進し二四ノットに増速していた。バックマスター艦長は「ヨークタウン」のレーダーのエキスパートである電測員ヴェイン・ベネット兵曹を艦橋に呼んで、日本の機動部隊が付近を遊弋中であることを告げ、レーダー当直を二倍にし非番の者も常時レーダーのそばで休憩するよう命じた。

「艦長はおれに、もし眼がぼんやりしてきたら、部屋のすみに救命衣を敷いて、その上で仮眠してもいいと言った」とベネットは回想する。

「ヨークタウン」のパイロットたちは戦闘に飢えてはいたが、ツラギ沖の日本艦船について説明を受けて当惑した。その時までツラギというところを、全く聞いたことがなかったからだ。その一人は語る。

「結局、おれたちは古い『ナショナル・ジオグラフィック』誌のコピーで、そこがどんなところであるかを教えられたのだ」

 作戦前夜、作戦計画に一本の方位が加えられた。その方位に沿って飛行を続ければ、南から北に向かうだけで、パイロットたちをガダルカナル島の上空へ導くものだった。そこまで行けば、真ん前にツラギと敵の艦船が視認できるはずだった。

 五月四日午前七時「ヨークタウン」はガダルカナルの南方約五〇浬の地点で、トンガタブで新しい燃料タンク自動封鎖装置を装備した「ワイルドキャット」戦闘機六機の直衛を出し、次いで七時三十分、ジョー・テイラー少佐指揮の雷撃機十二、ビル・バーチ少佐指揮の急降下爆撃機十三、それにウォリイ・ショート大尉指揮の急降下爆撃機十五からなる攻撃隊の発進を開始した。午前八時四十五分、攻撃隊は敵を確認し、ここに五日間にわたる珊瑚海海戦の幕が切って落とされた。

 ツラギ沖には日本軍の輸送船一、駆逐艦二、補助艦艇九がいた。第五偵察隊のバーチ少佐ほか八機のSBDは、これらの艦船の向かって舞い降りる。途中でバーチ少佐は巡洋艦一、駆逐艦二が目刺しのようにならんでいる目標を発見したので、攻撃の矛先を変えた。

 この突然の方向転換は、かってニューギニアで同機種が悩まされた爆撃照準器と風防ガラスの曇りのせいで攻撃効果を減殺する結果となった。攻撃がすんだ後、やはりバーチ少佐は自分の隊が、多数の命中弾を与えた、と確信していた。

 つづいてジョー・テイラーの率いる第五雷撃隊が殺到する。目標に向かって大きく迂回して海岸の方向から近接。下士官パイロットのエド・ウィリアムスンは意見具申し、許可をえて隊列を離れ別の方向から攻撃した。ウィリアムスンは日本艦船の左をうまく離れてツラギを飛びこえ、反転して目刺しの艦艇の艦首の真っ向から突っこむ。魚雷は中央の艦に命中した。同時に電信員ジョー・クロフォードは乗機が離脱する時、狂ったように機銃弾を浴びせかけた。ほかの雷撃機は全機、敵の妨害がほとんど、または全くなかったにもかかわらず目標を外してしまった。

 フレッチャー提督の兵器参謀ウォルター・シンドラー中佐が、この戦闘場面の上空から攻撃情況を観察していた。冷静に客観的な観察をするよう派遣され、あわせてフュー・ニコルスン少尉の後部機銃員を兼ねていた。

「雷跡が全部港内を十時交差して海岸で爆発するのを見て、がっかりした」とシンドラーは後に述懐している。原因はパイロットよりも魚雷の方にあった。適切な魚雷を製造することについて海軍が無能であることは全く憤慨の種である、とパイロットたちが直言するほど、ツラギでの失敗と同じことが、その後も何度も繰り返されたのだ。

 この日、それまでの二回の攻撃は、敵にほとんど損害を与えていなかった。次にやって来たのは第5爆撃隊である。これは、さらに多くの爆撃機で編成されていたが、やはり雲のために視野がせばめられるという同じ問題が生じた。その結果、報告のうちで最もましなものでも、二人のパイロット、ジョセフ・パワーズとレイフ・ラーセンが、たぶん命中弾を与えただろう、というものだった。各機が攻撃隊の予定終結点に集まると、単浮舟の水上零戦(二式戦闘機と思われる)が舞い上がって反撃してきた。シンドラー中佐をふくむ第5爆撃隊の後部機銃員のほとんどがバリバリ撃ちまくった。結局、敵機は火を吹きながら錐揉みになって落ちていった。

 午前十時、全機「ヨークタウン」に帰還した。誰の眼にも歴然とわかる被害と言えばボッジャー急降下爆撃機の補助翼に、小口径の弾痕がたった一つあっただけで、これは実に喜ぶべきことだった。しかし帰還したパイロットたちの報告が全部つき合わされると、全般的にみて攻撃はおおむね失敗だったことが明らかになった。

 フレッチャー提督は、もちろん完全な人物ではなかったかも知れないが、偉大な指揮官がすべて持っているものーくりかえしくりかえし敵に戦いを挑む意志ーは持ち合わせていた。午前十一時六分、フレッチャーは第二波攻撃隊を発進させた。まずウォリィ・ショート大尉の率いる急降下爆撃機十四機が発艦する。ショート隊がツラギ上空にさしかかると、ツラギとガダルカナルの間の泊地はほとんど空になっていた。やはり第一ラウンドで日本艦船をみな撃沈してしまったのか?そんなことは考えられない。数分後、砲艦らしい三隻と水上機母艦らしい一隻が、ラバウルに向かって大きな航跡を曳いているのを発見した。ショート隊はこの目標を攻撃、数分の間に砲艦二隻を撃沈した。爆撃隊がツラギを機銃掃射するために引き揚げようとすること、第三艦も沈みかけているように見えた。

 ビル・バーチ少佐の率いる急降下爆撃機十三機が、ショート隊の後方に近接していた。バーチ隊は駆逐艦一隻を発見、これに二発命中させた、と報告している。攻撃の最中に、単浮舟の水上戦闘機(この場合、複座とあるから明らかに水偵である)が舞い上がってきてバーチ隊に挑戦した。バーチは、その水上機の後部射手がひっきりなしに射撃し、このぶざばな水上機が宙返りや反転からもどる時ですら射撃しつづけていた、と報告した。たった一機の水上機を撃墜するのに十三機の爆撃機から、合わせて三千発も発射した。

 「ヨークタウン」の厄介者の雷撃機が最後に発進し、駆逐艦一隻発見した。六機のTBDが一方から接近し、あとの五機が反対側から近づいた。教範どおりの攻撃だった。

「我々は絵に描いたようにみごとな魚雷の散布帯を構成したのだが、目標には一本も命中しなかった」と、その時のパイロットの一人だったエド・ウィリアムスンは語っている。「ヨークタン」側には全く欠陥はなかった。魚雷の深度調定は発艦前に、二重にも三重にもチェックされている。それでも、魚雷のどれもが調定深度よりも深く走っていたのだ。

 雷撃機隊の戦列の最後は、パイロットのレオナルド・エウォルト大尉、電信員レイ・マキャリンスキイ兵曹のTBDだった。エウォルト大尉は日本駆逐艦とならび、ついで突撃を開始した。電動で魚雷を投下しようとしたが駄目だった。

「もう一度、まわりこんで、やりなおす」とマキャリンスキイに告げた。二回目、エウオルトは射点に達すると手動投下ハンドルをグイと引く。魚雷は落下したが、やはり深く走ってしまった。

 駆逐艦から離脱しながらエウォルト大尉は周囲を見まわして僚機を探したが、一機も見あたらない。集結に失敗したのだ。しかも霧のために「ヨークタウン」を見失ってしまった。ガソリンもほとんどなくなったので、迷うことなく海上に不時着する。二人は乗機から這い出してゴム・ボートをふくらませ救難艦の来るのを待った。姿を現した最初の艦は、残念ながら日本の駆逐艦だった。しかし、それは真っ直ぐに通り過ぎて行った。

 数時間後、親愛なる海は二人をガダルカナルの南岸に漂着させた。現地民とキリスト教の宣教師たちが発見し、ともかく日本軍の捜索隊の目からかくした。二人は小さなボートと古びた六分儀と、ぼろぼろになった星座表と数枚の手書きの海図を与えられた。ガダルカナル沖に不時着してから二カ月後、二人は無事にニューへブリディーズ島のエファテにたどりついた。

「ヨークタウン」は、また爆撃機と雷撃機を直衛するために「ワイルドキャット」四機をツラギ上空に発進させていた。パイロットはビル・レオナルド、エド・バセット、スコティ・マッカスキイ、ジョン・アダムズの四人だった。

(中略)

 ガダルカナル上空を通過中、バセットとレオナルドは水上戦闘機三機に遭遇した。レオナルドは、その一機の後方にまわりこんだ。しかし敵機は宙返りして逆に後上方から突っこんで来た。両機がまさに衝突するかに見えた時、水戦が引き起こし、起こしすぎて機首が上になり失速してレオナルド機を通り過ぎて真っ直ぐに海に墜落していった。その間バセットは残りの二機のうちの一機を追ってこれを撃墜した。最後の一機は、この乱戦の間にレオナルド機の背後に食いついていた。レオナルトはスロットルを全開して宙返り、敵の背後に出て、もう一度対決を迫った。敵は機首を下げ、それから急激に引き起こしたが錐揉みをはじめて海中に突っこんでしまった。あとでバセットとレオナルドは二人とも、戦闘は三分もかからなかった、と言っている。

 マッカスキイとアダムズは、持ち場である砲艦の上空に殺到し、砲艦を海岸に擱座させてしまった。その次に駆逐艦「夕月」を発見して、同様な攻撃を開始した。攻撃の最中にバセット機とレオナルド機が攻撃に加わった。四機の「ワイルドキャット」が「夕月」に四千発の機銃弾を浴びせかけて、艦長以下数十人の乗員を戦死させた。しかし「夕月」は致命傷を受けるにいたらず逃走してしまった。

 バセット機とレオナルド機は帰還の途についたが、マッカスキイとアダムズは、もっと敵を発見しようとして燃料が欠乏するまで付近を索敵し、とうとうエウォルトと同じように不時着する羽目になった。二人の戦闘機乗りはガダルカナルの南海岸に上陸して、パラシュートでテントを張った。駆逐艦「ハンマン」が、このテントを発見し二人を救出しようとボートを下ろした。しかし磯波が高すぎてボートをのし上げることができないので、艇長のジョージ・カップ兵曹がロープを手に持って海中にとびこみ海岸まで泳いだ。彼はロープをパイロットの救命筏に結びつけ、マッカスキイとアダムズを乗せた。三人はボートにたぐり寄せられた。

 四機の「ワイルドキャット」を発進させたあと「ヨークタウン」は、第三波の攻撃隊を発進させた。九機の急降下爆撃隊はサヴォ島の北方で一隻の貨物船を発見し、二発の命中弾を記録している。闘将ビル・バーチに率いられた急降下爆撃機十二機もツラギ沖で二隻の船を発見し、その一隻の小型船を撃沈した。

 午後四時三十分までにヨークタウン機は「ワイルドキャット」二機とエウォルトの雷撃機を除く全機が帰還しツラギ攻撃を終えた。もう一度繰り返すが、戦果は期待外れだった。公式戦闘記録によれば「ヨークタウン」の飛行機は、二十三本の魚雷を発射し七十六発の一〇〇〇ポンド爆弾を投下している。』

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