第四話 ブーゲンビル島・アドミラルティ諸島攻略

 ブーゲンビル島というはどのような地勢であろうか。「ブーゲンビル島」( 蔵原惟和著、日本談義社)には詳細に記されているが概要を紹介する。


『ブーゲンビル島は面積一万六〇〇平方粁、南北に約二八〇粁、東西約百粁の幅がある。島は一七六八年八月にフランスのブーガンヴィル提督がフォークランド島、タヒチ島、サモア島、ニューヘブライズ島を探検しているうちに偶然に発見した。そして自分の名前をとってブーガンヴィル島と命名した。

島は火山の噴火によって産まれた島で、島の中央をクラウン・プリンス山脈が南北に走り、北よりバルビ山(三一〇〇米)中部にバカナ山(一九九九米)南部にタロカ山(二一四二米)の活火山が聳えている。中部のバルビ山は富士山に形状が似ていて、のちに日本軍はボ島富士と呼んでいた。周辺の海に流れる河川は急流であり、スコールのあとしばらくは渡ることは困難であったという。雨量は年間三〇〇〇ミリから四〇〇〇ミリに達し、高温多湿であるために年平均気温は三十度もある。日中の気温は四十三度を超えるが、夜間は急激に冷えこみ快適な気温になったという。』


 自然環境からいえば劣悪な島ではあったが日本軍は米濠遮断の線上であることから、これを占領することに決めたのである。


 南洋部隊指揮官井上成美中将は、ラエ・サラモア攻略が一段落した三月十七日に部隊の再編成をおこない第五兵力部署を発令した。


南洋部隊電令作第一三八号


 三月十七日一二〇〇以降各部隊は第五兵力部署に依り作戦すべし

一、第五兵力部署

 イ、主隊

  鹿島、第十九戦隊、六水戦(三十駆欠)、聖川丸(飛行隊欠)、金剛丸、金

 龍丸、黄海丸、高瑞丸、神川丸

 ロ、R方面防備部隊

  八特根、三十駆、十四掃、宗谷、四掃、聖川丸飛行機隊、呉三特、第七及第

 十設営班、第百四、第百五空廠派遣員、各根拠地隊高角砲隊、吾妻山丸、彰化

 丸、鹿島及第十七空派遣飛行機隊

二、各部隊の任務行動

 従前の任務を続行する外左に依り作戦すべし

 イ、R方面防備部隊

 ⑴ 四月十日頃迄に「ボーゲンビル」方面(「ショートランド」其の他)及

  「アドミラルティ」方面の要地を攻略、所要の地点に水上基地、見張所、気

  象観測所を設置

 ⑵ 基地航空部隊の協力を得て、特に航空基地を整備促進

 ⑶ 「サラモア」方面「ラエ」方面及R方面新占領地域の防備に任ず

 ロ、支援部隊

  R方面適宜の位置を基地としてR方面防備部隊の作戦を支援、又所要の兵力

  を以て同部隊の作戦に協力す

 ハ、基地航空部隊

  R方面所在部隊は引続き、英領「ニューギニヤ」及濠洲北東部方面敵航空兵

  力の掃滅に努力すると共に「ソロモン」英領「ニューギニヤ」付近海域竝に

  「ラバウル」東方海域の哨戒に任じ、又R方面防備部隊に作戦に協力す

三、R方面防備部隊指揮官の夕月に対する作戦指揮を解く

四、極地防備に関し、所在先任指揮官は所在戦闘機隊を区処するものとす

五、津軽、第六水雷戦隊、聖川丸、黄海丸は応急修理及既令の任務終了後「トラ

  ック」に回航すべし

六、呉三特、第十設営班及各乗船は別令に依りR方面に進出せしむ

七、R方面防備部隊指揮官は成るべく速に鹿島派遣陸戦隊を帰艦せしむべし、同

  陸戦隊は現在地出港の時を以てR方面防備部隊より除く



 作戦目的は、

『速に基地航空部隊及支援部隊と密接なる協同の下に「ボーゲンビル」方面(「ショートランド」島及付近「キエタ」並に「ブカ」島)を攻略掃蕩し「ショートランド」島に飛行艇基地及見張所「ブカ」島に見張所を設置し我作戦態勢を強化す』ることにあった。


 部隊編制は次のようであった。


 主隊 指揮官 第八特別根拠地司令官 中将 金澤正大

    第三〇駆逐隊 駆逐艦 睦月 弥生

    第八特別根拠地陸上警備隊二コ小隊

    第四特別根拠地隊派遣陸戦隊

    特設監視艇 第十五大日本丸

          オーストラリヤ丸

 第一部隊 指揮官 宗谷艦長 中佐 久保田 智

    特務艦 宗谷

    駆逐艦 望月

    第八特別根拠地陸上警備隊二コ小隊

 第二部隊 指揮官 第五砲艦隊司令 大佐 神山徳平

    第五砲艦隊 京城丸 

    第五六駆潜隊 第三利丸

    第八特別根拠地陸上警備隊一コ小隊

    特設監視艇 鳥取丸

    第四測量隊の一部

 第一航空部隊  聖川丸飛行隊

 支援部隊

   第六戦隊  重巡 青葉、加古、衣笠、古鷹

   第十八戦隊 軽巡 天龍、龍田

   第二三駆逐隊 駆逐艦 菊月、夕月、卯月

   第二十四航空戦隊


 三月二十八日、R方面防備部隊は第三十九駆逐隊に護衛され、第一部隊はショートランド、キエタ攻略部隊としてラバウルを出撃、三十日〇五三〇にはショートランドに上陸した。上陸後付近一帯を掃蕩したが敵影はなく、ファイシ島に仮設電信所を設置し、バンバシャイに守備隊として一コ小隊と水上基地として大艇基地員を残して、同日の十六日ショートランドを出発してキエタにむかった。

 翌三十一日〇二三〇にキエタに上陸し、〇七〇〇攻略を完了して仮設電信所を設置してラバウルに帰還した。

 第二部隊はブカ島攻略に向かい、三十日〇七三〇ブカ島に上陸して飛行場を占領し、守備隊として一コ小隊を残置して、一七〇〇には現地を発してラバウルに帰還した。


 「アドミラルティ諸島」攻略作戦と「ニューブリテン島」北西部攻略作戦の部隊は次のように割り当てられた。

「ローレンガウ」方面攻略部隊

  指揮官 第三十駆逐隊司令 大佐 安武史郎

    第三十駆逐隊 駆逐艦 睦月、弥生、望月

    第五駆潜隊  静海丸

    特設監視艇  美島丸

    第八特別根拠地陸上警備隊の一部

    呉三特の一部

「ニューブリテン島」北西部掃蕩部隊

  指揮官  宗谷艦長 中佐 久保田 智

    特務艦  宗谷

    第五六駆潜隊 第三利丸

    連合陸戦隊(宗谷、掃海艇隊など)

 支援部隊

   第六戦隊  重巡 青葉、加古、衣笠、古鷹

   第十八戦隊 軽巡 天龍、龍田

   第二三駆逐隊 駆逐艦 菊月、夕月、卯月


 五日、ニューブリテン島北西部にあるハーミット諸島へと向かうために、カビエン港外を出撃し、七日朝各諸島へ陸戦隊を上陸させ掃蕩作戦をおこなったが、敵兵の姿はなかった。

 ローレンガワへは六日ラバウルを出撃し、八日マヌス島へ陸戦隊を上陸させ、飛行場や無線電信所を占領したが、こちらも敵兵の姿はなかった。が、桟橋付近に埋設してあった地雷のために二名の負傷者をだした。九日には攻略部隊は作戦任務を完了して警備隊を残して十一日にラバウルに帰投した。


 米濠英軍において、日本軍はラバウル、ラエ、サラモア、ブーゲンビルを整備して中継基地として、ポートモレスビー方面、ソロモン諸島方面への攻撃進出を企図していると予想した。ポートモレスビーはその北方はスタンレー山系と密林との自然の要害のためにあるていど守られていたが、ポートモレスビーが日本軍に攻略占領されれば、オーストラリア本土は脅威にさらされることになる。米英は対独戦に戦力を投入していたが、ここにきて濠洲への危険が迫ることに鑑み、その防衛体制の強化が必要であったが、濠洲は国家自体独力でその防衛にあたることは困難であり、米軍の協力が必要であった。

 濠洲空軍の防衛の中心は北部のポートダーウィンとポートモレスビーであった。だが、ポートダーウィンは南雲機動部隊と陸攻隊の爆撃により甚大な被害を蒙っていた。

 米軍から豪州に送られた戦闘機は、一月二十三日からの約二ヶ月間で、P40三三七機以上、P400一〇〇機以上、P39九十機に達したが、そのうち百二十機以上はジャワ作戦で喪失し、同数を事故でうしない、七五機は濠洲空軍に転籍、同数は修理中で、三月十八日での稼働可能機はP39三三機、P40九十機、P400五二機に過ぎなかった。

 爆撃機に関してはもっと少なく、B17二六機、A24四三機、A20及びA25各一〜二機で、稼働可能機は、B17一二機、其の他二七機であった。

 米軍としても、虎の子の空母部隊をヒットエンドラン方式で使用して、日本軍の動きを封じこめるのが背一杯であり、いずれ日本の機動部隊との一戦を交えで打撃を加えない限り、戦局の打開はできないであろうと考えていた。


 そんななかで、日本海軍航空隊の陸攻隊および零戦隊と米濠軍機との激しい空中戦が徐々に激烈化していくのは当然といえた。

 四月一日、第二十五航空戦隊が新編され、南洋部隊に区処された。既設の第二十四航空戦隊があったが、南洋群島および南東方面の広大な太平洋地域を作戦海域としており、新たに二十五航戦が編制されたことにより、マーシャル方面の重点航空戦隊と作戦任務を担当し、ラバウル・ニューギニヤ方面は二十五航戦が引き継ぐことになった。

 新しい航空消耗戦の開始を告げることとなるとは、日米両軍ともまだ知らない事であった

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