第三話 米機動部隊日本軍船団を攻撃

 夜明けとともに敵ロッキード一機が三回にわたり輸送船を爆撃したため、横浜丸は小破し、戦死七、戦傷八の被害を受けた。


 ラエに上陸予定の呉特別陸戦隊は八日午前二時三〇分にラエ南岸に上陸し、こちらも抵抗なく上陸して、飛行場およびラエ市街を占領した。後続上陸した設営隊は早速飛行場の設営に着手し、九日午後一時までには戦闘機の離発着が可能となるまで整備を完了させていた。


 一方、ラバウル空襲を断念したブラウン中将は、ニミッツ司令長官に対し、次のような意見具申をおこなった。


一 今後ラバウル程度の強力な航空基地を攻撃する場合には少なくとも航空母艦

 は二隻以上を必要とすること

二 赤道付近の微風海域の作戦では、航空母艦は飛行機発着時全速力で航送する

 必要があり、勢い燃料消費量が大となる関係上、随伴タンカー二隻の追加を必

 要とすること


 ニミッツはこの進言を容認して、同海域にあるフレッチャー海軍少将指揮の空母ヨークタウンを加えることとした。

 一旦反転していたブラウン中将指揮の空母レキシントンは、サンタクルーズ諸島東方で西方に変針して珊瑚海に入り、日本軍の哨戒索敵圏外を航行したのち、六日エスピリット島南西方でヨークタウン部隊と会合した。

 ブラウン中将は大きな援軍を得たために再びラバウル空襲を企てるために動いた。今度の攻撃はニューブリテン島の南方からを考えていたが、八日になって日本軍部隊がラエおよびサラモアに上陸した情報が入ってきた。ブラウン中将の作戦参謀ターナー・ジョイ大佐は神の天意であると言い、日本軍の進撃を止めることと、まだ強大でない日本軍を撃破することは絶好の機会ととらえた。

だが、艦載機をどの地点から発進させるかであった。ビスマーク海に進入して発進させるか、標高の高いスタンレー山脈を越えて行くかが問題となった。

 航空隊にとってはビスマーク海に進入して発進した方が安心だったろうが、艦隊にとっては詳細な海図などなく、暗礁の存在が不安であった。


 九日、飛行ルートの状況を把握するために、レキシントン飛行隊長のビル・オールト中佐はドーントレスで偵察飛行を行った。サンシャイン峡谷を飛べばほぼ一直線で目的地に到着できることを知った。天候さえよければ文句なしの飛行ルートだった。だが、問題点もあった。援護のワイルドキャットの後続距離の短さと、雷撃機と爆撃機が実際重い魚雷や爆弾を積んで、大山脈を越えることができるかであった。戦闘機の方は空母をできるだけ海岸近くに配置することでできそうであったし、爆撃機雷撃機も何とかできるだろうということだった。

 十日の朝、天候は快晴であった。空母レキシントンのワイルドキャット八機が〇七四九に発艦を開始。つづいて第二偵察隊のドーントレス一八機、さらに第二爆撃隊のドーントレス一二機、最後に第二雷撃隊のデバステーター一三機が飛びたった。空になった甲板に最初に発艦したワイルドキャットが着艦して給油作業を済ませて再び発艦して攻撃部隊を追った。


 レキシントンから遅れること二〇分、ヨークタウンも第五偵察隊のドーントレス一三機、第五雷撃隊のデバステーター一二機が発艦し、第五爆撃隊のドーントレス一七機、第五戦闘隊のワイルドキャット一〇機が発艦した。

 さらにレキシントンからオールト中佐機がスタンレー山脈の気象観測と部隊の先導するために飛び、中佐は部下たちが帰還するまで峡谷を飛び回った。

 合計一〇三機からなる攻撃隊がラエ・サラモア沖の日本の上陸船団と護衛艦隊を目指した。


 敷設艦「津軽」は排水量四、四五七トン、全長約一二四メートルあり、六水戦の旗艦「夕張」が排水量三五六〇トン、全長約一三九メートルあったから、この二隻は護衛の軍艦としても目立ったことであろう。


 第一電は「夕張」からの 〇七三〇

 『敵は雷撃及急降下爆撃を行いつつあり「ラエ」上空』

というもので、〇八〇〇「津軽」から「敵飛行機の大空襲あり」が発せられ、〇八三〇には同じく「津軽」から「敵機四〇機以上来襲相当の被害あり」があり、その後、各艦より敵機来襲や爆弾命中の連絡が指揮官にたいし送られた。少数機の爆撃はこの攻撃の前にもあったから、警戒はしているものの、大挙して襲来する敵機にはさすがに混乱した。それも雷撃機がいるということから、空母から発進したものと思われた。


 上空の哨戒を担当する聖川丸の水偵は、この大群に果敢にも立ち向かった。聖川丸の「戦闘詳報」に状況が記載されている。


(九五水偵) 操一飛 大友 功 偵三飛曹 笠井繁雄)

 〇六三〇水発発艦 ラエ付近上空哨戒中

 〇八四〇頃サラモア港外に於て(付近に十四掃海隊あり目撃)単機敵艦攻五機の編隊に突入、数次の攻撃の後内一機を撃墜せるも、折しも上空より来襲せる敵戦斗機四機の攻撃を受け之と空戦状態に入りしも遂に性能及ばず衆寡敵せず一瞬にして火を発し壮烈なる戦死を遂げたり

(米側の記録によれば、九五水偵一機がデバステーターを追いかけ機銃を発射していた。ドーントレス隊がこの水偵を追ったが軽快な動きでこれをかわしていたが、ワイルドキャットがこの水偵を撃墜した)


(九五水偵) 操二飛 植村秀雄 偵二飛曹 青島正三郎)

 〇六二〇水発発艦 サラモア付近上空哨戒中 〇八〇五頃味方駆逐艦を銃爆撃せんとする敵艦爆六機を認め之に単機突入敵は直に爆弾を海中に投下開列猛烈なる空戦状態に入れり、我は劣性能の機を以て克く六機の交互前後上下の攻撃をかわし之に反撃を加え、其の間殆んど機銃弾の大半を発射、機体に二十数弾を受けしも遂に敵を撃退せり、本艦に帰投揚収作業中フロートの大浸水の為沈没、搭乗員は奇跡的に無事 


(九五水偵 操飛曹長 根本粂作 偵一飛曹 青柳俊次)

 〇八三〇頃 本艦爆撃を受けつつ射出発艦

 〇八五五 本艦上空に来襲せるロッキード三機に対し猛烈突進数次の攻撃を加えたるも之を撃墜するに至らず遂に之を逸す、其の間猛烈なる敵機の集中銃火を受け、被弾多数、機体震動を増し、潤滑油及「ガソリンタンク」漏洩甚しく飛行不能付近に不時着水し人員のみ望月に救助さる

(米側に記録によれば、ロッキードは配備されておらずハドソンの誤りというが、陸軍の爆撃機が海軍機と呼応するように爆撃に現出した)


 「空母ヨークタウン」(朝日ソノラマ文庫)によれば、次のようになっている。

『三月十日午前七時十一分「ヨークタウン」は六機の「ワイルドキャット」の直衛のもとに対戦防御用の爆雷を搭載した四機の「ドーントレス」急降下爆撃機を従えていた。八時十五分までに第一波ービル・バーチ少佐指揮のSBD十三機と、ジョー・テイラー少佐指揮のSBD十二機ーが発進する。第二波が其の直後に発進した。ボブ・アームストロング少佐のSBD十七機以上である、最後にオスカー・ペダーソン少佐が十機の「ワイルドキャット」を率いて発進し先発隊に追いつき、そして静かにスタンレー山脈を登り始めた。

 SBDは五〇〇ポンド爆弾一発と一〇〇ポンド爆弾二発を、TBDは五〇〇ポンド爆弾二発を搭載していた。午前十時までには、攻撃隊は全機上昇しつつあった。十時十五分「ヨークタウン」見張員は、上空を陸軍のB−17が十八機、母艦機と協同攻撃を行うべく一万六〇〇フィートの高度で北東に航過するのを発見した。

 二隻の空母から発進した百四機は、七五〇〇フィートの峠の上空を旋回している「レキシントン」のウイリアム・オールト少佐機の発信するラジオ・ビーコンによって峠に誘導された。TBDの搭乗員の驚いたことには、飛行機自体が自分を山脈の上に持ち上げて峠をこえさせたのだ。パイロットのシド・ウィックの後部機銃員を勤めていた電信兵曹ボブ・イガーは「上昇中に、予期しない、しかし歓迎すべき上昇気流によって持ち上げられた」と報告している。

 攻撃は、大失敗だった。アメリカ機が到達するまでに、大部分の日本軍輸送船は出港していた。これらの輸送船の船長たちは、これまでの攻撃戦に参加していて、どうすれば速やかに到達し、かつ離脱できるかを学んでいた。百二十二機による総得点は大型輸送船一隻、大型掃海艇一隻、それに工作艦に改造した旧式軽巡洋艦一隻にすぎなかった。

 正午までに「ヨークタウン」に飛行機隊は全機、無事帰還した。「レキシントン」は一機喪失した。パイロットたちは、またもや日本軍を痛撃した、と確信していた。そして、ラエで三隻、サラモアで六隻の貨物船を撃沈したという過大な報告をした。

 しかし、艦上機の装備が大々的な改良を要するということについては、全員が賛成だった。急降下爆撃機のパイロットは、望遠鏡式爆撃照準器が高高度からダイブする間に水蒸気の凝結で曇ってしまう傾向がある、と苦情を言った。また、電動爆弾投下装置の多くが作動しなかった。パイロットの多くは、操縦席から乗り出して肉眼で目標を照準し手動投下装置を使わざるを得なかったのだ。』


 では、米空母機一〇三機の攻撃を受けた日本軍艦艇および輸送船の被害はどうなったのであろうか。上陸部隊の兵員は少ないので、輸送船の数は多くはない。日本軍輸送船は出港していなかったのではなく、その数でしかなかったのが事実である。

 六水戦の「戦闘詳報」に詳しくその損害が記録されている。

 イ、大破擱座沈没

  ⑴ 金剛丸(国際汽船、八、六二四トン) 

   爆弾命中に依り大破航行不能に陥り火を発し漂流しつつありしが十日一六

  三六「ラエ」南側にて沈没

  ⑵ 天洋丸(東洋汽船、六、八四三トン)

   爆弾魚雷命中「ラエ」海岸に自力擱座十一日一三一五煙突より後方水中に

  沈下 

  ⑶ 第二玉丸(特設掃海艇、二六四トン)

   爆弾命中に依り大破十二日一八〇五「サラモア」南方に沈没

  ⑷ 横浜丸(日本郵船、六、一四三トン)

   爆弾命中に依り「サラモア」港にて十日〇八三九爆沈

 ロ、中破

  ⑴ 駆逐艦 夕凪

  左舷中部に爆弾一命中応急修理に依り普通航海に支障なきも戦斗に支障あり

  ⑵ 黄海丸(嶋谷汽船、三、八七一トン)

  前後部命中弾に依り平穏なる場合の外航海に支障あり

  ⑶ 特設水上機母艦 聖川丸

   至近弾に依り一時航行不能に陥りしも応急修理に依り平穏なる海面の航海

  可能の程度に達す

 ハ、小破

  津軽、朝凪は何れも命中弾至近弾に依り一時戦斗航海に支障を生ぜしも応急

  修理に依り概ね全力発揮可能となれり

 ニ、前号の外夕張、玉丸に若干の被害ありしも何れも戦斗航海支障なし

(戦死傷者)

  三月八日 横浜丸  戦死一  負傷八

  三月十日

   艦船名      戦死    負傷

   夕張       一三    四九

   追風        0     二

   朝凪       一八    四七

   夕凪       二九    三八

   津軽       一一    一三

   天洋丸       九     七

   玉丸        0     六

   第二玉丸      五    一〇

   聖川丸       一     九

   金剛丸      一二    一六

   黄海丸       七    三〇

   ラエ陸上基地   一一     四

   設営班      一〇     九

  (陸軍)

   横浜丸       一     0

   チャイナ丸     三     三

   サラモア陸上    0     二

    合計     一三〇   二四五  計 三七五

 九五式水偵 三機喪失 搭乗員二名戦死


「津軽」の戦闘詳報があるが、それを見ると、〇七四三に敵飛行機三機を認め、対空射撃を始めている。〇七五三至近弾をうけ、〇七五四にも至近弾。〇七五五に煙突後部に直撃弾。その後何発かの至近弾をうけるが直撃なし。至近弾により多数の破孔を生じる。〇九一六以降今度は四発爆撃機の爆撃を受けるも直撃なし。

 一四〇〇攻略部隊指揮官梶岡少将第四艦隊司令長官と南洋部隊支援部隊各指揮官に発した戦斗概報は次のようである。


「其の後判明せる被害状況左の如し

一、㋑夕張至近弾五及掃射に依り

   前後部小火災各一船体破孔無数 

   戦死七(副長含む)重傷二十一軽傷二十四

  ㋺追風 軽傷一

  ㋩夕凪 左舷中部爆弾一命中罐蒸気管破烈使用可能一 主機械故障「ヘニツ

   シュ」港に避泊修理中

   戦死三十 負傷二〇

  ㋥朝凪 前甲板に命中弾一番連管付近に至近弾二 四号罐使用最大速力二六

   節  戦死八 重傷?

  ㋭三十駆 各艦には被害なし

  ㋬夕凪の外 戦斗航海に支障なし

二、聖川丸 至近弾に依り機械室浸水一時航行不能に陥るれるも応急修理の結果

  速力八節にて航行可能

三、金剛丸 命中弾二 機械室浸水後部船艙(魚雷○部、ガソリン)炎焼中 死

  傷二五

四、天洋丸 一、六番艙爆弾命中 浸水各部損傷大「ラエ」海岸に擱座傾斜右十

  八度

五、黄海丸 前後部に爆弾命中各一個命中船首船尾小破左舷に破孔 戦死船員七

  設営十七重傷設営班一 航行可能

六、津軽 舷側破孔舵取機械等に故障あるも戦斗航海に支障なし

七、第十四掃海隊

 ㋑第一玉丸 舵故障修理中 重傷軽傷?

 ㋺第二玉丸 艦橋帯は死者負傷者一〇

       方向探知機不能

 ㋩能代丸、羽衣丸被害少

八、基地被害少、飛行場被害なし

九、横浜丸 爆撃四回を受け〇八三九爆沈

  行方不明一の外全員救助

一〇、チャイナ丸 命中小型爆弾(艦橋)一及至近弾に依り小破 航海に支障な

  き見込 戦死三、負傷三

一一、サラモア陸軍方面傷病者二其の他被害小 着陸可能

一二、夕張被害に追加

   夕張内火艇横浜丸沈没の際救助作業に従事 戦死二傷五内火艇沈没』

   

 撃沈されたのは三隻であったが、他の艦艇も何らかの被害を受けたのであるが、まだ「ヨークタウン」の爆撃機の爆撃精度が低く被害がすくなかったのが幸いであった。また、B17の爆撃も受けたが、こちらはまったく被害を受けなかった。


 米艦上機の喪失は空母「レキシントン」の第二偵察隊のSBD一機が対空砲火にやられ、ジョセフ・ジョンソン少尉機はラエ東方の海上に墜落し二名が戦死した。


 六水戦の「戦斗詳報」には最後に戦訓が記載されているが、そのうち、対空戦斗についての項目のみ紹介し、どのような点の良否があると判断したのかみてみたい。


『 対空戦闘上の要諦

  一、飛行機対飛行機は勿論飛行機対砲銃員も急降下或は掃射に在りては全力

   一騎打ちなり我彼を射止めざれば彼我を刺す 肉を切らして骨を刺すの軍

   人精神旺盛なるに非れば能わざる所なり

  二、高速を用いる適切なる回避運動と猛烈なる攻撃は蝟集する敵機の乱射乱

   爆に対しても克く之を撃退艦を安全ならしむ

    之が根本は早期敵を発見するに在りSR方面攻略部隊各艦の実績は如実

   に之を告白すること後述の如し

  三、機全きも術之に伴わざれば零戦も全能を発揮し難く又射程及ばざれば沈

   勇の射手も徒らに敵機の弾着を看守するのみ 

  当方面にて現任務遂行の為には夕張及駆逐艦の主砲を高角式となし又夕張型

  には二十五粍機銃四門、駆逐艦も二門を増備するを要す

□見張関係

 イ、見張は攻撃力発揮回避運動の第一要件にして発見遅れたるものは常に被害

  大なること今回夕凪、朝凪、天洋丸等の体験せるが如し

 ロ、一般に駆逐艦の対空見張能力特に高高度目標に対するものは不良なり 又

  各艦船共艦尾方向に対する見張不充分なること多し

 ハ、敵機は太陽方向又は艦尾方向より来襲すること多く又急降下機は向首し形

  体小なる為三〇〇〇米付近迄気付かざることあり

 ニ、見張は天象其の他の状況に応じ配備を考慮するを要す 例えば常に大倍力

  双眼鏡にのみ頼ることなく七倍双眼鏡、肉眼、耳等合わせ使用すること肝要

  なり

 ホ、見張は単に見張員のみならず挙艦之に当る意気込必要なり

  特に射撃指揮所員機銃員等は自ら発見するを要す

回避運動

 イ、爆撃雷撃に対する回避運動は極めて有効なり 今回の戦闘に於て被害大な

  るものは碇泊劣速見張不良に依る回避遅延に基くもの多し

 ロ、回避運動中の速力は二十二節以上を要し大なる程有効なり 連続大角度転

  舵の為過度に速力を低下せしむるは却て不利なり

 ハ、回避要領は一航戦司令部及摂津研究の資料を参考とし各艦充分研究せしめ

  たるものなり

砲術関係

 ⑴ 機銃は高角砲なき現状に於て対空戦闘の主兵なり 之が装備上特に左記留意

  を要す

 イ、低空爆撃及急降下爆撃に重点を置くを要す 今次戦闘にては右以外の目標

  に対する射撃の機会は極めて小なり

 ロ、射界を広𤄃ならしめ 艏尾左右各方面に対し射撃可能ならしむるを要す 

  射撃は多く回避運動中なる為旋回制限に達し射撃不能の場合多く急降下は艉

  より来襲すること多し

 ハ、急降下機に対する発射弾数を一銃に付調査せるに左の如し

     早期発見の場合         一二〇発

     一二〇〇〇米にて発見の場合    六〇発

     其の他              三〇発

  ⑵ 機銃員には予備員を必要とす

   機銃未だ使用し得るも機銃員全滅し発射威力発揮し得ざりし場合多し

  ⑶ 機銃一連の射撃中は装填換を要せず連続数百発発射可能ならしむれば極め

   て有効なり 又十三粍弾倉は現在一銃に付三〇発装填のもの一六個計四八

   〇発なる所今回一〇〇%消耗し連続来襲でば間に合わざる懸念あり 少く

   とも倍加の要ありと認む

  ⑷ 十四糎主砲は遠距離にある爆撃機又は低空に来襲する雷撃機に対し極めて

   有効なり

   夕張は之に依り雷撃機の射点占得を困難にし遠距離発射に終らしめたり

   従って対空射撃弾一門十五発は一門六〇発程度に増額を要す

   又現状に於ては駆逐艦十二糎砲にも対空弾の供給を要す

  ⑸ 防空銃隊(水雷科員)は整列配置するは不可なり 寧口対空自由見張員を

   兼ね各所に於て狙撃可能なる如く分散配置するか又は予備機銃員として訓

   練し置くを要す

  今回は整列せる為至近弾に依り全滅せる所あり

  ⑹ 夕張及駆逐艦の対空兵装

    主砲は成る可く速に高角式とす

  ⑺ 機銃射撃指揮要具及射撃指揮法に関しては尚研究を要する点多々ありと認

   む

□応急関係

 ⑴ 自動的消化法装備の要あり

  今回夕凪が中部左舷に大破孔を生じ重油に引火大事に至らんとせるとき蒸気

 管の破裂の為之を消化すたる偶発事象あり 朝凪亦前甲板火災となりたるとき

 消防蛇管口破損し此水に依り自然消化せり

  艦内各部の損傷頻発し死傷者続出する場合に想到せば乗員を以てする消化は

 時機を失し或は不如意のことも多かるべきを以て艦内重要区域に於ける自動消

 火に就いては改めて考慮の要ありと認む

 ⑵人員被害の大部は露天甲板に於ける弾片及掃射に基因す 機関員の如きも運

 弾薬員或は配置に就く途上甲板に於て死傷せるもの多し 被害の最大なるもの

 は機銃員及銃隊員なり 戦闘中露天甲板に配置なきものの出るを警戒すると共

 に甲板配置に防衛に関し研究の要ありと認む

 ⑶ 舷側至近弾は数米以内に非れば弾片に依る舷側水上の破孔及人員を殺傷する

 のみにて一艦上致命的損傷を与うるを得ざる場合多し

 ⑷敵十三粍機銃の貫徹力は軟鉄に対しては相当厚きものも貫徹 十四糎十五糎

 砲の盾は貫通せず 電信室「マントレット」及隔壁を貫き更に人員を殺傷せり

  又弾片機銃の破孔は水平甲板には極めて少く大部分垂直なる部分に在り』 (一部抜粋)


 多くの戦訓が記されているが、見張についてはのちには電探装備が必要とされる。対空火器の増設や対空砲弾の採用など航空戦が激しくなるにつれ要求が激しくなり、改良採用がされていくのであるが、それだけでは追いつかなくなっていく。回避運動の有効性は考えられるが、対空砲火の効果もなくなっていくのは事実で、のちにレイテ沖海戦にて不沈戦艦「武蔵」が対空戦闘の際に、その防御力ゆえに対空火器の有効性を考えて回避運動をなるべく避けたゆえに、大量の魚雷爆弾を被弾被雷してしまったのも教訓である故の被害であった。

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