第八章 M O作戦と珊瑚海海戦

第一話 ラエ・サラモア攻略計画

 カビエン、ラバウルを攻略した日本軍は、東部ニューギニア方面の要地攻略に乗り出した。開戦当初、東部ニューギニアおよびソロモン諸島への進攻については全く計画外の作戦計画であった。

 大本営陸軍部は二月二日大陸命令第五百九十六号で左の命令を発令した。


大陸命第五百九十六号

    命   令

一 大本営は英領「ニューギニヤ」及「ソロモン」群島各要地の攻略を企図す

二 南海支隊長は海軍と協同し成るべく速に右要地を攻略すべし

三 細項に関しては参謀総長をして指示せしむ

(付記)

  英領「ニューギニヤ」及「ソロモン」群島に関する

       陸海軍中央協定

一 作戦目的

  英領「ニューギニヤ」東部の要地及「ソロモン」群島の要地を攻略して濠洲

 本土と同方面との連絡を遮断すると共に濠洲東部北方海域を制圧するに在り 

二 作戦方針

  陸海軍協同して為し得る限り速に「ラエ」及「サラモア」付近を攻略し又機

 を見て海軍単独にて「ツラギ」を攻略して航空基地を獲得す

  「ラエ」「サラモア」攻略後為し得れば陸海協同して「ポートモレスビー」

 を攻略す

三 使用兵力

  陸軍  南海支隊

  海軍  第四艦隊を基幹とする部隊

四 作戦要領

  陸海軍指揮官協議決定す

五 陸上の警備

  「ラエ」「サラモア」付近及「ツラギ」は海軍之を担任し「ポートモレスビ

 ー」は陸軍之を担任す

         

 一月のことであるが、一月二十七日、横浜空の飛行艇がラバウル南西約三〇〇粁にあるスルミに飛行場があることを発見した。連合軍が中継基地として使用する疑いがあるため、再度細密な航空偵察をすると、舗装された飛行場、家屋などがあることが判明した。

 二月一日、南洋部隊司令部はR方面部隊にたいし「スルミ」の早急の攻略を命じた。R方面部隊は二月初旬に米機動部隊のマーシャル方面の空襲があったために、実施は延期され二月八日以降実施することがこめった。

 攻略部隊は八日午前五時以降ラバウルを出撃し、九日午前四時四十分にスルミに上陸したが、濠洲兵はいなかった。部隊はj兵器資材の揚陸を開始するとともに、飛行場の設営をおこない、十三日陸戦隊百七十名を守備隊として残留させ、上陸部隊はラバウルに帰投した。

 

 攻略する目標のラエ、サラモアにはそれぞれ幅一〇〇米、長さ約八〇〇米の飛行場があって戦闘機の使用が可能だと判断できた。両地には五〇名から一〇〇名ほどの義勇軍があるという情報であった。航空偵察によっても、簡易な陣地が散見する程度で、常駐する艦艇や飛行機も見られなかった。


 二月十三日南海支隊の参謀田中豊成中佐がトラック島に派遣され、第四艦隊との間に陸海軍協定が一六日締結された。


一 上陸日及び呼称 

 三月三日と予定し、SR作戦と呼称する。

二 使用兵力

  海軍

   第四艦隊主力とし左記の如く区分する。

   攻略部隊  第六水雷戦隊

         特別陸戦隊第一大隊基幹

   支援部隊  第六戦隊

         第十八戦隊

         第二十三駆逐隊

   

   航空部隊  第二十四航空戦隊

  陸軍

   南海支隊の歩兵一大隊、山砲一中隊基幹

三 攻略分担

   ラエ   海軍特別陸戦隊

   サラモア 陸軍

四 集合点   出発予定

  ラバウル  Xー三日と予定する


 これをうけ十七日南海支隊長堀井少将は、歩兵第百四十四連隊第二大隊長堀江正少佐に命令を下達した。


一 「サラモア」は「ラエ」と共に敵空軍の重要拠点にして情報に依るに敵義勇

 軍約一〇〇名之を警備す 其の実況別紙空中写真の如し

二 支隊は第四艦隊と協同し「サラモア」を攻略せんとす

 「ラエ」は海軍陸戦隊之を攻略す

 上陸をS日とす

 海軍の南海市集合をSー七日と概定す(南海市=ラバウル)

 南海市出港をSー三日と概定す

 乗船輸送船を横浜丸、「チャイナ」丸とす

三 堀江部隊は「サラモア」を攻略すべし

 海軍護衛隊艦隊左の如し

 指揮官 海軍少将 梶岡定道

  第六水雷戦隊(夕張、第二十九、第三十駆逐隊)

  聖川丸、天洋丸、津軽、金剛丸

四 堀江部隊の編組左の如し

 二月二十日正午其の指揮下に入るべし

 長 陸軍少佐 堀江 正

   歩兵第百四十四連隊第二大隊

   山砲兵第二中隊

   工兵第一中隊(二小隊欠)

   輜重兵第二中隊の一小隊

   支隊通信班の主力

   連隊通信隊の一部

   支隊兵器修理班の主力

   衛生隊の一部

   碇泊場司令部の一部

   独工中隊の一小隊

   野戦高射砲中隊主力

   船舶通信小隊の一部

   防疫給水部の一部

  各隊は馬の主力及人員は一部を欠くことを得

  二月二十二日正午迄に支隊司令部及堀江少佐に編成表を提出すべし

五 田中参謀は護衛艦隊との協定に参加し又現地に於ける戦闘指導に任ずべし 

 協定に関してはSR作戦に関する南洋部隊指揮官との協定覚書に依るべし

六 予は南海市に在り

             南海支隊長 堀井富太郎


 二月二十日 SR攻略部隊の海軍護衛艦隊の指揮官梶岡少将は部隊に対して命令第一号を下達した。


 機密SR方面攻略部隊命令作第一号

   昭和十七年二月二十日「ラバウル」旗艦夕張

      SR方面攻略部隊指揮官 梶岡定道

  SR方面攻略部隊命令

第一 敵情竝に友軍の情況は別紙第一の通

第二 当部隊は陸軍南海支隊と協同、同支隊堀江部隊を以て「サラモア」方面

 に、海軍陸戦部隊を以て「ラエ」方面に奇襲上陸を決行所在の敵を撃滅して要

 地を戡定し一挙「ニューギニア」の死命を制すると共に速に航空基地を獲得整

 備して対「モレスビー」及濠洲航空作戦に協力せんとす

第三 兵力部署

 一 第一兵力部署

    主隊  第六水雷戦隊司令官

         第六水雷戦隊

    第一部隊 第二十九駆逐隊司令

          第二十九駆逐隊

    第二部隊 津軽艦長

          津軽、第三〇駆逐隊駆逐艦一

          天洋丸、金剛丸、黄海丸

    航空部隊 聖川丸艦長

          聖川丸、第三〇駆逐隊駆逐艦一

    哨戒部隊 第十四掃海隊司令

          第十四掃海隊

    付属隊  金龍丸

 二 第二兵力部署

    主隊 第六水雷戦隊司令官

        第六水雷戦隊

    第一部隊 第二十九駆逐隊司令

          第二十九駆逐隊

    第二部隊 津軽艦長

          津軽、第三〇駆逐隊駆逐艦一

    航空部隊 聖川丸艦長

          聖川丸、第三〇駆逐隊駆逐艦

    陸戦部隊 陸戦隊指揮官

          第八特別陸戦隊一コ大隊

    設営部隊 設営隊指揮官

          第四建設営班

          第七設営班の一部

    付属隊  天洋丸、金剛丸、黄海丸、金龍丸

第四 各部隊の行動

 イ、第一兵力部署

  一、主隊

    Sー三日一三〇〇RR出撃よりSR付近海面迄は概ね第一、第二部隊の

   先頭に占位、第二部隊分進後より上陸完了迄は第一部隊と行動を共にしつ

   つ全作戦を支援す

  二、第一、第二部隊

    Sー三日一三〇〇指定順序にRR出撃「セントジョージ」海峡南口付近

   にて第一警戒航行序列制形別紙第二の航路に依り進撃Sー一日日没前後泊

   地進入隊形制形二一〇〇第二部隊分進第一部隊は「サラモア」方面、第二

   部隊は「ラエ」方面に向針、二三〇〇第一漂泊地進入直舟艇浮泛S日〇一

   〇〇上陸開始〇二〇〇上陸部隊着岸せしむる如く行動、第一次上陸完了後

   機宜第二漂泊地に進入すべし

    第一及第二部隊駆逐隊は主隊出撃一時間前にRR発第二十九駆逐隊は

   「ガゼール」岬東西線以南、第三十駆逐隊(d×一欠)は同以北付近海面機

   宜対潜掃蕩後「セントジョージ」海峡南口付近に於て第一警戒航行序列に

   占位すべし

 三、航空部隊

    Sー四日以後便宜RR出撃「スルミ」方面を基地としSー三日主隊RR

   出撃時よりSー一日迄之が対空(二機標準)対潜(一機標準)警戒に任ず

   ると共に前路竝に南方概ね一〇〇浬圏内の索敵を実施すべし

    Sー一日中にSR方面に進出海上又は「ヘーニッシュ」港を基地としS

   日未明以後全力を挙げてSR上空警戒及陸戦に協力すると共に付近五十浬

   圏の対戦警戒に任ずべし

 四、哨戒部隊

    Sー四日以後便宜RR出港「スルミ」飛行警戒艦任務従事中の艦艇を合

   わせSー二日機宜「スルミ」発S日天明時Sa港外に於て第一部隊に合同す

   る如く行動特令に依り同港の泊地掃海を実施すべし

    右終了せば第二小隊を急速「ラエ」に分派第二部隊指揮官所定の掃海竝

   に哨戒に任ぜしむべし

   Sa港泊地別紙第三

 ロ、第二兵力部署

  一、主隊

   SR方面に在りて機宜行動全作戦の支援に任ず

  二、第一部隊

   Sa方面に在りて陸軍上陸部隊に直接協力所在の敵を撃滅すると共に海正面

  の防備警戒に任ずべし

  三、第二部隊

   La方面に在りて陸戦部隊及設営部隊に直接協力すると共に海正面の防備警

  戒に任ずべし

   第二部隊指揮官は要すれば所在付属艦船を区処することを得

  四、航空部隊

   SR方面に在りて対空(二機標準)対潜(一機標準)警戒に任ずると共に

  付近海面(Saを中心とする一〇〇浬圏内)の索敵竝に陸正面(付近飛行場及

  残敵の動静)の偵察攻撃に任ずべし

  五、陸戦部隊

    速にLa方面の敵を撃滅してLa飛行場を攻略確保し残敵をして策動の余地

  なからしむべし 上陸部署別紙第四

 六、設営部隊

   全力を挙げてLa飛行場及付属施設整備即日戦闘機隊(六機)次いで中攻隊

  の進出を可能ならしむべし

  La飛行場整備計画別紙第五

 七、付属隊

   第二漂泊(又は泊)地付近に在りて陸戦部隊に引続き設営部隊及其の器材

  を急速揚陸し航空基地設営竝に作戦を援助すべし

第五 防備

  La 飛行場防備要領 別紙第六

  Sa 泊地防備要領  別紙第七

第六 通信

   別令

第七 補給

  RR出撃時燃料満載とす

  陸上部隊用清水はRR進発時可及的多数の「タンク」にて携行する外艦船及現地調達に拠る

  作戦五日を越ゆる場合は敵情に応じ東邦丸を作戦海域付近に進出せしめ燃料(清水)補給 其の他後令

                      終

機密SR方面攻略部隊命令作第一号別紙第一

一、敵情

 ⑴ 「サラモア」「ウァウ」及「ラエ」方面に在る敵義勇防衛軍は銃隊約二個中

  隊、機銃隊一個小隊程度にして其の後増強されたりとの情報ありしも最近の

  情況は不明なり

 ⑵ 航空写真偵察状況 別紙の通

 ⑶ 敵空軍は当方面多数の飛行場を有し就中

  「ラエ」「サラモア」「ウァウ」を基地とし「ポートモレスビー」「クック

  タウン」「タウンスビル」と緊密なる連絡の下にR方面ん対し策動中なりし

  も其の兵力は飛行偵察の結果を綜合すれば大型小型各十機以内にして最近の

  行動は活発ならず 但し各所に移動分散し根絶困難なるを以て注意を要す

 ⑷ 米国機動部隊の南洋方面に対する策動再企の疑あり 当方面機動の算少なし

  とせず 又敵兵力は我が新嘉坡攻略、蘭印方面急進撃に伴い東漸蝟集の傾向

  にあり

二、友軍の情況

 ⑴ 第二十四航空戦隊は二月二十日以後中攻大艇の大部竝に艦戦隊を以て「ポー

 トモレスビー」を奇襲「ニューギニヤ」敵空軍主力を撃滅すると共にSR方面

 の残敵を剿滅すべく攻撃を開始又一部兵力を以て直接当部隊に協力す

 ⑵ 支援部隊はR乃至SR近海に進出味方潜水部隊と共に敵水上部隊の出現に備

 え以て当部隊の間接支援に任ず

 ⑶ 第八特別根拠地隊は当隊RR出撃当日其の航空兵力を以て付近海面の対戦警

 戒に協力す

三、天象、海象

 ⑴ 本作戦中は月齢一五・六にして夜間視界大なり

 ⑵ 作戦海面海図竝に海潮流の調査不備にして行船上特に注意を要す

   (別紙二、別紙三 図面にて省略)

 機密SR方面攻略部隊命令作第一号別紙第四

     上陸部署

海軍 陸戦隊  指揮官 宮田中佐

    主力 約三五〇名 金剛丸

    支隊 約二一〇名 天洋丸

        指揮官 岡部特務少尉

   (使用舟艇)

     陸戦隊敵前上陸には金剛丸、天洋丸大発五隻

     黄海丸の二隻を使用

     陸戦隊其他物件揚陸には金剛丸大発二隻を使用

   (上陸海岸)

     第一案  主力 「ラエ」港東方海岸

          支隊 「ラエ」飛行場西方海岸

     第二案  「ラエ」港桟橋付近

    高角砲隊  金剛丸

    (使用舟艇) 天洋丸大発二隻

    設営隊 指揮官 安藤技師以下約八〇〇

      設営器材

      航空基地物件

   (揚陸順序) 

     第一日

      1 陸戦部隊

      2 設営隊

        桟橋材料

        「トラック」

      3 輾圧器  四台   

        高角砲  二門

      4 陸戦隊用基地物件

     第二日

      1 高角砲

      2 輾圧器 二台

      3 航空基地物件

      4 設置隊員設営器材及航空基地物件

     第一日 黄海丸大発四隻

     第二日以後 金剛丸、天洋丸、黄海丸

           大発計九隻使用す

陸軍 指揮官 堀江少佐

   歩兵一ケ大隊

   山砲一ケ中隊

   其の他

   (上陸海岸)

     第一案  「サラモア」町南東海岸

     第二案  「サラモア」町西側海岸

 (別紙第五〜第七 省略)

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